東急電鉄は、スマートフォンのQRコードやタッチ決済対応クレジットカードを使った乗車サービス「Q SKIP」を中核に、顧客体験(CX)のデジタル化を進めています。2023年8月30日に田園都市線で実証実験を開始し、2024年1月には一部駅を除く東急線全駅での実証へと拡大しました。これに続き、タッチ決済を用いた「後払い乗車」についても、2024年5月15日から世田谷線を除く全駅で実証を開始しています。これらの段階的な実験を経て、2025年5月にはQ SKIPを東急線アプリ内で購入・利用できる機能が実装され、ユーザーの利便性向上を図っています。
Q SKIPは、事前にクレジットカードで乗車券を購入するとスマートフォンにQRコードが発行され、改札機で読み取るだけで入出場できるデジタルチケットサービスです。1日乗車券や沿線施設とのセット券など多様な商品を扱い、移動と体験を結びつける設計になっています。アプリ内統合により購入フローが一本化され、券売機や窓口に並ぶ手間が軽減されます。
後払い乗車の実証では、タッチ決済(Visa、JCB、American Express 等のブランドに対応、Mastercardはのちに追加)を使って改札を通過すると、利用履歴に応じて決済が行われる仕組みを検証しています。ポイント付与や既存決済インフラとの連携も試験的に進められており、将来的な本導入では事前購入不要の利便性が期待されます。
一方で、導入には留意点もあります。改札機・読取機の設置費用や運用コスト、QRやタッチ決済を悪用した不正利用への対策、決済事業者・鉄道運賃制度との整合性などを慎重に詰める必要があります。また、利用者側の認知促進やUI/UXの定着も重要な課題です。東急側は段階的な実証を通じて、これらの課題検証と改善を進めています。
今後は、Q SKIPと後払い乗車の組合せを基盤に、沿線店舗との連携チケット、パーソナライズされた誘導・プロモーション、乗車データを活用したサービス提案など、CXを軸にしたサービス拡張が見込まれます。東急は、デジタル技術で「移動」を「体験」へと転換する試みを続けており、今回の段階的実証とアプリ統合はその基盤整備として重要な一歩になっていると言えます。
レポート/DXマガジン編集部 小松






















