日本オムニチャネル協会 セミナー情報・レポート

    2021.08.02

    失敗を恐れない風土が店舗DXを成功へ/日本オムニチャネル協会 経営者向け勉強会

    日本オムニチャネル協会は2021年7月2日、定例の経営者向け勉強会を開催しました。カスミの代表取締役社長 山本慎一郎氏が登壇し、自社のDX戦略などを紹介しました。

    デジタル前提の消費者ニーズを取り込む店舗づくりを

     経営者向け勉強会ではまず、カスミの代表取締役社長 山本慎一郎氏が登壇。「カスミのDXによる経営改革」と題し、自社の課題や取り組みを紹介しました。「カスミ」や「マルエツ」「マックスバリュ関東」といったスーパーマーケットを、関東に519店舗(2021年3月19日時点)展開する同社のデジタル事業を中心に、具体的な施策を取り上げました。

     山本氏は冒頭、リアル店舗の課題を指摘しました。「消費者のデジタル化が進んでいるにもかかわらず、リアル店舗は対応できずにいる。デジタルを前提とした消費者の購買行動にリアル店舗は追いついていないのが現状だ。消費者は現在のリアル店舗を不便としか思っていない」と、業界としてデジタル化が進んでいない現状を危惧します。
    写真 カスミ 代表取締役社長 山本慎一郎氏

    写真 カスミ 代表取締役社長 山本慎一郎氏

     そこで同社は2020年から2022年の第2次中期経営計画として、成長に向けた変革とスピード勝負を全面に打ち出しています。具体的には組織のフラット化と機能統合によるスピードアップ、省人化、ローコスト化に加え、投資配分の変革、ROIの精緻化、デジタルといった施策に取り組みます。「既存のビジネスモデルに大きな伸長はない。新たな収益モデルをどう導出するかに主眼を置いている。こうした変革をスピード感を持って取り組まなければ企業体力は減退しかねない。新業態への転換スピードを速めることを計画に盛り込んだ」(山本氏)といいます。

     テクノロジを活用し、積極的なデジタル戦略も打ち出します。例えば、「Scan & Go」は、顧客のスマートフォンを使った商品購入システム。利用者は専用アプリをダウンロードし、店頭の二次元バーコードをスキャンして入店します。買いたい商品のバーコードをスマートフォンでスキャンし、会計、決済までスマートフォンで完結できる仕組みです。既存店舗への導入を進めるほか、小規模やオフィスエリアなどの店舗での利用も見込みます。「新型コロナウイルス感染症の影響で、非接触のニーズが高まっている。Scan & Goはこうした声にも対応する」(山本氏)と、利便性の良さを強調します。

     そのほか、オンラインで注文を受けた商品を無人で受け取れる専用ボックスの設置、顧客ごとにカスタマイズしたクーポンの発行なども実施します。既存のPOSシステムにもメスを入れ、「日本固有の仕様を備えるPOSシステムは高額だ。ハードウエアだけ海外のPOSシステムを導入して導入コストを引き下げた。ハードウエア、ソフトウエア、メンテナンスを一社に任せるのではなく、別々にすることで変化に追随しやすい柔軟なPOS環境を構築した」(山本氏)といいます。

     山本氏は最後に、「依存から協働へ」という体制づくりの必要性を訴求しました。「自社だけの取り組みで顧客のニーズに答えるのは限界に近付いている。例えば在庫問題。取引先に『いつまでに納品して』というだけでは通用しなくなる。これからは、社外の取引先、中間流通業者、さらには生産者が壁を越えて共有する仕組みを作らなければならない。日本は海外に比べて15年は遅れている。データの取り扱いも含め、業界が一体となって体制づくりに踏み出すべきだ」(山本氏)と強調します。

     さらに、ベンダー依存体制からの脱却、業務要件を定義できるDX人材の育成・獲得、サイロ化した情報を横断的に共有できる体制なども必要だと同氏は続けます。「依存体制から自立を目指すことも大切だ。特にDXは自社の新しいビジネス創出がゴールとなる。これをベンダーに依頼するなどありえない。自ら主導して進められる体制づくりにも目を向けるべきだ」(山本氏)とまとめました。

    経営者の「勝つ」という思いを全面に

     講演に続き、日本オムニチャネル協会会長の鈴木康弘氏と山本氏の対談も行われました。テーマは「日本のDXはなぜ進まないのか」。両氏が思う見解が述べられました。

     鈴木氏は山本氏の講演を受け、「カスミにはチャレンジする文化がある。自分で考え、行動に移せる企業は強い。『変わる』ことを恐れないカスミのような姿勢がDXには求められる」と指摘します。これを受け山本氏は、「日本企業の多くは失敗を恐れる。責任を転嫁する傾向もみられる。こうした受け身の姿勢は好ましくない。DXは自分の意思で動けるかどうかだ。失敗してもいいと許容できる企業風土が必要である」と指摘します。小さなプロジェクトごとに細分化した大量の稟議書が申請されているような状況も、責任が不明瞭になるので好ましくないといいます。
    写真 経営者向け勉強では、日本オムニチャネル協会会長 ...

    写真 経営者向け勉強では、日本オムニチャネル協会会長 鈴木康弘氏(右)と山本氏の対談も行われた

     経営者の姿勢についても言及します。山本氏は、「多くの経営者が『負けない戦略』を練りがちだ。しかし、それは違う。『負けない』ではなく『勝ちに行く戦略』を考えるべきだ。リスクなどを考慮するのは経営者として当然だが、DXは必ず成功するとは限らない。しかし『必ず勝つんだ』という姿勢を経営者が持ち、その思いを社員に発信し続けることが大切である」といいます。

     DXやIT、デジタルに詳しくなければ「分からない」と声を出すことも必要だと、山本氏は続けます。「経営者が精通する分野はわずかに過ぎない。自分で全部できるとは思わない。担当者や責任者に『任せた」という勇気も必要だ。このとき担当者や責任者のスキルや実績をもとに任せるのではなく、やる気や熱意、プロジェクトへの意気込みをきちんと聞き、任せられるか見極めることが重要である」(山本氏)といいます。

     鈴木氏もこの考えに同意します。「分からないことを分からないといえる経営者は強い。もちろん勉強は必要だが、覚悟を持って取り組めるかどうか。この信念の有無が何より重要である。諦めない心を持ち続け、失敗してもやり続けることが経営者には必要だ」(鈴木氏)といいます。

     最後に店舗を展開する企業の経営者に向け、山本氏は次のようなエールを送りました。「新型コロナウイルス感染症の影響で打撃を被った小売店は多い。しかし、この状況をチャンスととらえるべきだ。まさに新しい仕組みが求められている。いろいろなことを試せる好機でもある。これは100年に一度の変革期かもしれない。失敗を恐れず新しいことにチャレンジしてほしい」とまとめました。
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