特別対談

    2021.06.04

    【特別対談:野内敦×鈴木康弘】失敗を恐れずアクセルを踏み続ける“覚悟”がDXには不可欠

    昨年、グループの事業再編を断行したデジタルホールディングス。広告事業から“デジタルシフト”事業へと主力事業をピボットし、新しい価値創造を見据えた変革をどう進めているのか。事業再編の経緯と、デジタルシフトを進められずにいる企業の課題を、デジタルホールディングス代表取締役社長 グループCEOの野内敦氏に聞きました。(聞き手:DXマガジン総編集長 鈴木康弘)

    経営者の思いをメンバーに届けて理解を深めよ

    鈴木:デジタルホールディングスといえば社名を変えたばかり。その経緯を教えてください。

    野内:2020年7月1日に社名をオプトホールディングからデジタルホールディングスに変更し、新たに「デジタル」という言葉を冠に沿えました。社名変更してまだ1年足らずですが、デジタル=当社という認知がようやく浸透してきた感じですね。

     DXやデジタルシフトといった支援事業を拡大したいというのが社名変更の狙いです。当グループにとって屋台骨だったインターネット広告代理事業からの依存体制脱却という思いもあった。さらに、国内企業の多くが人手不足という課題を抱える中、デジタルシフトには生産性向上に寄与できる側面が大きい。これからの企業がさらに悩むであろう大きな課題解決の支援ができる組織になりたいと考えました。

    鈴木:社名を変えなくても、デジタルシフト支援事業をできるはず。

    野内:オプト=インターネット広告代理店と思われるほど世間に認知され、その結果、オプトの存在が強くなり、インターネット広告代理事業以外の事業が生まれにくくなった。広告案件の相談はあるが、それ以外の与件をなかなかもらえないという課題が顕在化してきたんです。また、インターネット広告市場は徐々に成熟化し、また自動化が進み人の手が介在しないプロダクトも増えた。過去のような大幅な増加は見込めないとも考えていました。

     そんな中、顧客ニーズの変化も感じるようになりました。広告を使って集客しようという考えから、広告以外の手でマーケティングを強化したいという考えにシフトするようになった。当社としては当然、こうしたニーズに応えたいと思いました。当社の事業構想はネット広告だけにもちろんとどまりません。そこでオプトの存在感をあえて弱め、新たな社名、体制でデジタルシフト事業に舵を切ろうと決めたのです。

    鈴木:知名度のある「オプト」という社名を残さなかった。事業の方針転換も含め、反対意見もあったのではないでしょうか。

    野内:いろいろな意見があったと思います。ネット広告をやりたくて入社した人が大半なので、変化を受け入れられずに辞めていった人もいるでしょう。しかし、企業が存続していくためには、時代に合わせた変革が不可欠です。企業のデジタル化は必ず必要な取り組みになると信じていましたし、デジタルシフトを支援して企業や社会に貢献できるチャンスがあるなら、当然やるべきだと判断しました。メンバーたちも時代の変化を実感し、変革が必要だと考えるメンバーも多く、役員含め協力的で進めやすかったですね。

    鈴木:確か創業時のメンバーは今、野内さんと代表取締役会長の鉢嶺さんのお二人。これまで何度も変革を断行してきた二人にとって、今回の変革をどうとらえていた?

    野内:私はもちろん、鉢嶺もワクワクしていたと思います(笑)。我々は変革が大好きですから。成長しそうな市場を見つけたときのワクワク感は、グループ内の誰より持っているかもしれません。

    鈴木:トップの楽しそうな思いが、変革を進めるときには必要なのかもしれませんね。

    野内:ただ、経営者がいくら旗振りしても現場は白けているケースがあります。経営者の覚悟があればいいというものでもないと思います。組織やメンバー、トップという垣根を超えて共創する企業風土が大切です。

    鈴木:同感です。デジタルシフトやDXを推進させる上で大事なのはまず経営者、次が企業風土。つまり人の意識だと思います。私もクライアント企業のデジタルシフトを支援する際、経営者の声はもちろん、メンバーの意識や思いにまで気を巡らせるようにしていますね。

    野内:メンバーの不満などをヒアリングすることもありますか?

    鈴木:はい。特に現場の理解を徹底します。例えば、ピザをデリバリーする会社を支援するなら、当社のスタッフは実際にピザを焼くなどして、身を持って現場を知るよう努めます。経営者の言っていることと現場の思いって温度差があることが少なくない。こうした差を埋めるには、現場の状況やメンバーの思いを理解することが大切ですね。

    野内:経営層と現場の思いが乖離するのは、どの企業でも起こり得るもの。当グループも例外ではありません。そこで当グループは月に一度、グループ全社会議の場で15分ほど、私がメッセージを発信する機会を設けています。私が事業をどう進めようと考えているのかをグループ全体で共有するのが狙いです。さらに四半期ごとの決算報告をグループに説明する機会も設けています。私が決算情報と今後の事業展開や改革案などを説明します。どんな方法や手段でも、徹底したコミュニケーションを図ることが大切なのではと考えます。

     とはいえ、全員が全員、最初から私の考えに共感してくれるとは思っていません。そんな中でも変革を断行するには、共感するメンバーから浸透を図り、次第に定着させていくのもありかと思います。

    鈴木:「2:6:2の法則」ってありますよね。企業変革を進めようとするとき、熱意のある優秀なスタッフが2割、中間層が6割、否定的な意見を持つスタッフが2割に分かれると思います。このとき、中間層と否定的な意見を持つ層をどう巻き込むかを考えることが大事だと思います。変革を断行したものの定着しなければ、せっかく巻き込めたとしても中間層や否定的な意見を持つスタッフの層に戻ってしまう。どう定着させ、根付かせるか。ここにも目を向け、取り組まないとですね。

    野内:メンバーに対し、分かりやすいメッセージを発信することも経営者の役割の1つです。経営者って一般的に、「市場」や「夢」「社会性」などの言葉を使いがちです。現場のメンバーにとっては、未来の話すぎて、今の自分の仕事とどう関係するのかが分からないということもあるでしょう。こうした理解度を高める工夫や配慮が経営者には求められるでしょう。理解度を高められなければ、変革を定着させることもできませんしね。

    変革を想定した危機感を持つデジタル人材育成を

    鈴木:DX推進を阻害する要因の1つに、ITやデジタルに精通する人材が社内にいないことが挙げられます。デジタル人材を育成できないという問題もあります。デジタルホールディングスはクライアント企業の人材不足に対し、どんな解決策を提示していますか?

    野内:確かに「人材不足」を課題に掲げる企業は多いですね。そこで当社は現在、「デジタルシフトアカデミー」というデジタル人材を育成する教育講座を展開しています。まだ開設して間もないですが、受講生の半数以上が会社の役員なんです。講座で学んだことを自社に持ち帰り、イノベーション創出に寄与できるようにします。

     「社長のためのデジタルシフトクラブ」というサービスも提供しています。DXやデジタルシフトの必要性や危機感はあるものの、“何から手を付けて良いか分からない”といった企業に対し、セミナーを通した情報提供や月額50万円で全従業員がDX講座を受講できるといったサービスです。このようなソリューションを通して、日本のDXを底上げしていきたいと考えています。

     一方で、スタートアップ企業の中にはメンバー全員がデジタル人材というケースもあるはず。「デジタル人材がいない」と嘆く大企業と対照的に、デジタル人材は豊富にいるように思います。極端かもしれないが10年後20年後、こうしたスタートアップ企業が現在の大企業に成り代わって台頭していることもあり得るのではないでしょうか。

    鈴木:楽天やソフトバンクが好例ですね。これらの企業はデジタルを駆使し、わずかな期間で一気にトップに上り詰めた。ご指摘の通り、スタートアップ企業が少ししたら大企業になっていることは十分考えられますね。

     確かに「デジタル人材がいない」「優秀な人材がいない」と話す一部上場企業の経営者もいますね。しかし、一流大学を卒業して狭き門を潜り抜けてきた人たちが優秀でないはずがない。もし優秀でなく何もできないなら、育成を間違えているんじゃないですかね。もしくは、営業や開発などの特定職種の専門性を追求するといった従来の育成手法が当てはまらなくなっているのかもしれません。これからのDX時代は、マルチスキルが求められます。職種や業種の垣根を超え、共創を前提にした事業を展開するなら、いろいろな経験やスキルを持つ人材を育成することが欠かせません。

    野内:変革を前提とした仕事をしていないのが、「育たない」要因かもしれません。特に大企業の変革は、既存事業を守りたいというバイアスが働くこともあってなかなか進まない。危機感を持てないという状況が、デジタル人材を育てにくくしているのでしょう。
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