特別対談

    2021.09.01

    【特別対談:池谷充弘×鈴木康弘】DX進める企業の選択肢となるAppExchange、クラウド連携や全体最適を成功へと導くカギに

    SaaSのリーディングカンパニーとして知られるセールスフォース・ドットコム。CRMやマーケティング向けのクラウドサービスに目が行きがちだが、同社が企業のDXを支援する一手として注力しているのが、ビジネスSaaSアプリのマーケットプレイス「AppExchange」です。AppExchangeを利用するメリット、DXを成功へと導くシステム像について、セールスフォース・ドットコム 執行役員 AppExchange事業 & アライアンス推進本部 本部長 兼 韓国アライアンスの池谷充弘氏に聞きました。(聞き手:DXマガジン総編集長 鈴木康弘)

    AppExchangeがDXに欠かせない役割担う

    鈴木:セールスフォース・ドットコムといえば“SaaS企業”として不動の地位を築いている。そんな御社がマーケットプレイス「AppExchange」を提供する。その経緯を教えてください。

    池谷:1999年に創業した当初はSFA(営業支援)のSaaSを提供し、そこからコールセンター向けなどのラインナップを拡充させていきます。一方、こうしたSaaSビジネスと並行して事業化したのが「AppExchange」です。SaaSのアプリケーション部分を除外し、プラットフォームとして顧客に提供を開始するとともに、そのプラットフォームをアプリ開発基盤として外部に開放することにしました。外部ベンダーがSalesforce Platform上で自由にアプリを開発できるようにし、数多くのアプリケーションが集まったマーケットプレイスを用意したのです。

    鈴木:プラットフォームを外部に開放した狙いはどこにあるのでしょうか?

    池谷:当社だけで顧客の課題をすべて解決できるわけではありません。当社の足りない部分を外部ベンダーが開発したアプリケーションによって補える。「AppExchange」を用意した狙いはこうした点にあります。アプリケーションを拡充することが顧客の課題解決につながるという思いですね。

     Salesforceのサービスを利用する顧客の中には、複数のクラウドサービスとデータ連携したいと考えるケースが少なくない。そんなとき、AppExchangeを使えば容易にデータ連携できるし、インテグレーションの費用も抑えられます。既存ユーザーにとっても、多くのアプリケーションが集まるプラットフォームがあることでメリットを享受できるのです。
    写真:セールスフォース・ドットコム 執行役員 AppE...

    写真:セールスフォース・ドットコム 執行役員 AppExchange事業 & アライアンス推進本部 本部長 兼 韓国アライアンス 池谷充弘氏

    鈴木:昨今の新型コロナウイルス感染症で、Salesforceを利用する顧客に変化は見られますか?

    池谷:DXの意識は確実に高まったと感じます。顧客層も少し変わったと思いますね。これまでは多少リスクがあってもサービスを申し込むアーリーアダプターが多かった。しかし最近は、アプリケーションを慎重に選びたいと考えるレイトマジョリティが増えてきたという印象です。比較的慎重な方々へのニーズに応えることが当社の新たな責務だと感じています。

    鈴木:私もDXのコンサルティングを通じて感じるのは、DXはデジタル化しさえすればいいと勘違いするケースが多いこと。そうではなく業務をどう変革させるのか。ビジネスをどう変えるのかが重要ですよね。そのためには顧客に対し、AppExchangeの中身、使い方をしっかり説明することが求められるのかもしれませんね。

    池谷:今後はこれまで以上に、顧客に寄り添う仕組みが必要だと思います。例えばSIで自社独自のシステムを作ってきた顧客に対し、「SaaSをカスタマイズせず、そのまま使ってほしい」と言っても、聞き入れてもらえないかもしれません。「バージョンアップの恩恵を受けるにはノンカスタマイズが望ましい」と一方的に伝えるだけでは、顧客のニーズに十分応えたとは言えません。ならば、多種多様なアプリケーションを用意し、顧客のニーズに応えられるようにすることが1つの解になると考えます。

     例えば、エクセル入力に慣れているユーザーに対し、真新しいUIを見せて、今日からこれに入力してくださいと勧めるのは乱暴ですよね。むしろAppExchangeを通じて、エクセル入力しているかのようなUIを提供するアプリケーションを提案すべきでしょう。顧客層が変化したことで、今後はこうしたニーズに応える取り組みの重要性が増すでしょう。

    鈴木:アプリケーションのバージョンアップとカスタマイズの問題。この問題を解決しない限り、本当の意味でSaaSは普及しないと考えます。この問題を解決するカギとなるのがAppExchangeであると期待します。

    池谷:ありがとうございます。Salesforceのサービスは原則、設定変更したものはバージョンアップに対応します。コーディングを入れたものも原則、上位互換です。とはいえ、顧客には上位互換のテストを依頼しますし、その工数もかけてしまうのが実情です。しかし、AppExchangeに登録されているアプリケーションを使えば、事前に上位互換を検証したうえででリリースしていますし、Salesforceのバージョンアップにあわせて更新されていきます。テストを最小化しながらアプリケーションを使えるという利点がありますね。

    鈴木:SaaSはみなで同じ仕組みを使うのが一般的。自社の業務をSaaSに合わせようという考え方になる。このとき大切なのが業務改革。業務改革なしにSaaSを導入するのは難しい。こうした意識を変えることから始めないとですね。

    池谷:当社として「ノンカスタマイズが100%理想」であるとは必ずしも言いません。例えば、ローコード・ノーコードでアプリケーションを開発する機能を拡充することで、多くの要望に応えられるようにしています。

     企業によっては個別最適でSaaSを導入するケースは少なくありません。企業全体の変革を行うDXには程遠い状況です。例えば、経理部門と営業部門のシステムが連携しないなどのケースをよく聞きます。こうした個別最適のシステム同士をつなぐ橋渡しとなるのがAppExchangeです。個別最適で導入したシステムを見直し、SalesforceとAppExchangeを前提にしたシステム導入に切り替える。これにより、連携が必要になったとき容易につなげられるようになります。AppExchangeの価値を訴求し続けることが、全体最適を促進し、ひいては企業のDXを成功へと導くのではと考えます。

     例えば最近は電子契約サービスや帳票サービスとSalesforceを連携するケースが増えています。コロナを機に紙のやり取りをなくし、Web上で完結させようとする機運が高まっています。SaaS同士を連携させなければならないといったニーズは今後も増えるでしょう。そんなとき顧客が、「AppExchangeなら」と思ってくれるとうれしいですね。AppExchangeに登録するアプリケーションや機能に目を向けてもらえるよう取り組んでいきたいと考えます。

    鈴木:システム導入に関しては、情報システム部門が現場に要件を聞き、その要件に合うシステムを考えてしまいがち。そうではなく、SaaSをベースとしてどこまでカスタマイズせずに使えるかという考え方に直すべき。もしかすると、レイトマジョリティはこうしたシステム導入の考え方を捨てきれずにいるかもしれない。レイトマジョリティに訴求するにあたって、考えていることはありますか?

    池谷:当社はよく「Trusted Partner(信頼されるパートナー)」という言葉を使います。変革したい、ITについて知りたいなどと思ったとき、まずは当社に相談しようと思ってもらえるような、信頼ある企業になるべきと考えます。

     そのためには今後、変革を提案できる“幅”を広げたいと思います。当社の場合、これまではCRMや顧客接点などの変革を中心に取り組んできました。しかし今後は例えば、ダイレクトの顧客接点の変革だけではなく、代理店を含む顧客接点の変革まで踏み込みたい。バックオフィスも含めた従業員のエンゲージメント管理も提案したい。どこでどのように働くかを再構築する環境も提供したい。といった具合に、企業の次の変革の姿を提案できるようになりたいですね。このとき当社の武器となるのがAppExchangeです。AppExchangeには企業の変革を支援するアプリケーションを多数そろえ、当社から顧客への回答の幅を広げてくれるのではと思います。こうした取り組みが、当社を「Trusted Partner」にしてくれるのでは考えます。

    鈴木:AppExchangeのアプリケーションを活用することでDXも進められることをぜひ訴求してほしいですね。こうした取り組みが、後手を踏む日本企業のDXを後押しできるのではと期待します。

    池谷:ある調査によると、日本と米国の大企業のSaaS導入数は、米国企業が100や200を超えているのに対し、日本企業はその10分の1しかありません。これは1~2年前のデータですが、3~4年後にはそのギャップが縮まるのと考えます。このギャップは縮まったとき、顧客がSaaSをたくさん導入したが、それぞれがつながらないといった状況により困らないよう、先回りして支援できるようにしていくのが当社の役割ですね。

    鈴木:情報システム部門やSIerなど、以前の考え方からいまだに脱却できないケースが少なくありません。「こんなことは情シスがやればいい」という意見を今も聞くことがあります。しかしこうした考え方が変わって理解が進めば、DXは一気に進むと思います。

    池谷:最近、プロの“DX請負人”という人が増えたと感じます。企業にヘッドハンティングされ、DXを成功させたら次の会社に行くという人ですね。こうした人が増えれば、情報システム部門はもとより、ユーザー部門の役割や使命も変わったんだと気付くのではないでしょうか。

    鈴木:やはり人の考え方、捉え方、向き合い方をどう変えるか。人との接し方がより大切になる気がしますね。

    池谷:当社のこれまでの営業活動といえば、3年後や5年後のあるべき姿を海外事例を交えながら提示し、顧客に対して「あるべき姿に近づこう」と提案していたような気がします。ただ、現在は青写真を提示するだけでは顧客の変革を促すのは難しいと考えます。何より大事なのは顧客の「今」。どんな課題に直面しているのかを聞き、それに対する具体的な解決策を提示することが大事と考えます。先ほども言ったように、どれだけ寄り添えられるかが大事ですね。

    パートナーリクルーティングやアプリ拡充を進めるAppExchange

    鈴木:AppExchangeを使ってアプリケーションを開発してビジネスを展開する企業がいる。こうした企業の動向についてお聞きします。具体的にどんな企業がアプリケーションを開発しているのでしょうか?

    池谷:2種類の企業を想定します。1つは、開放されたプラットフォームを利用してビジネスを展開する企業です。プラットフォームの利便性を存分に活用し、SaaSビジネスをドライブする企業に使ってもらえればと考えます。当社はこうした企業と「OEM契約」を締結し、AppExchangeを利用してもらうようにしています。

     もう1つは、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなどの外部インフラですでにSaaSビジネスを展開する企業です。こうした企業はSalesforceと連携するツールをリリースするケースが少なくなく、AppExchangeを使ってSalesforceユーザー企業へアプローチするニーズを見込んでいます。当社はこうした企業と「ISVforce契約」を締結し、AppExchangeを使ってもらっています。

    鈴木:OEM契約とISVforce契約の企業の割合は?

    池谷:これまではOEM契約の売上割合が多かったですが、ISVforce契約の企業割合が徐々に増えていますね。ここに来て、Salesforceと連携したいニーズが増えているのかなと捉えています。

    鈴木:ちなみに欧米での割合は日本の割合と違うのでしょうか?

    池谷:欧米ではOEM契約が依然として高い割合を占めます。海外では、医薬や金融などの業界に特化するパートナー企業が増えています。 日本国内でもこうしたパートナー企業が増えればと望んでいます。

    鈴木:御社としては、OEM契約企業が増えるのを望んでいる?

    池谷:はい。ただし、数多くのSaaSが登場する中、クラウド同士を連携したいニーズはさらに増える。こうしたニーズに応えるためには、ISVforce契約企業への支援体制もきちんと構築しておくべきだと考えます。

    鈴木:AppExchangeの売上は御社全体のどれくらいの割合を占めているのでしょうか?

    池谷:Salesforceの全体の中ではそれほど大きくはありません。ただし、AppExchangeの価値はそれ以外にあると考えます。その1つがSalesforce製品利用に及ぼす影響です。SalesforceとAppExchangeをあわせて使う場合、Salesforceの利用継続率が上昇するといった効果がデータに現れています。これは、顧客の利便性が向上している結果だと思います。

     新たなサービスを申し込む顧客が増えているのも価値の1つだと考えます。例えば、最初にSalesforceを契約し、さらにAppExchangeを使って成功している顧客の中には、新たに当社の別のサービスを使ってみようと考える顧客がいます。 AppExchangeを利用している企業からのこのような追加契約も大きく増えています。これもAppExchangeがあるからこそ。当社にとってはAppExchangeが重要なサービスであると位置づけています。

    鈴木:実は当社もSalesforceをユーザーとして使わせてもらっているんですが。

    池谷:ありがとうございます。

    鈴木:ユーザーの声の中に、サービス同士を連携したいという声が多いと思います。御社では顧客の声をどう受け止めていますか?

    池谷:まず、新規のパートナー企業を増やし、さまざまな顧客のニーズに対応するアプリを増やしていきたいという思いが強くあります。こうした活動を当社は「リクルーティング」と呼んでいます。 2020年には日本だけで71、グローバルでは700のアプリケーションがAppExchangeの仲間になりました。 ベンダーが集まるイベントなどを通したリクルーティングにより、パートナー企業を増やしていくことが顧客の支援体制強化に結び付くと考えます。

    鈴木:パートナー企業には、どんな企業がなっているのでしょうか。

    池谷:もともとSalesforceのインプリメンテーションをしていて、新たにSaaSを展開しようとしている企業。もともとオンプレミスのソフトウエアを提供していて、新たにSaaS化に踏み切る企業。SaaSを提供していて、Salesforceとの連携を考える企業。そして、自社でSalesforceを活用して成功し、そのノウハウを外販するユーザー企業が最近は増えていますね。

    鈴木:AppExchangeの魅力は、ユーザー企業が開発したものを登録できる点。ユーザーの立場からすると、自社で開発したアプリを外販できる。こんなメリットがありますね。

    池谷:宿泊業や不動産業、農業など、業界に特化したアプリケーションが、ユーザー企業の開発によってAppExchangeに登録されています。業界のベストプラクティスやノウハウを詰め込んだアプリケーションの評価は高く、多くの企業に導入されています。

     AWSやAzureのサービスを使う企業は多いと思うが、AppExchangeを使えば自社のノウハウを外販できるのが強み。マーケットプレイスに登録、公開するといった簡便さも強みだと捉えます。

    鈴木:日本ではSaaSを使わず、スクラッチで開発する文化が根付いている。AppExchangeを訴求するうえで苦労も多いのではないでしょうか?

    池谷:ビジネスの変換をどう促すのかという難しさがありますね。例えば、システムインテグレータが新たにSaaSビジネスを展開する場合、これまではワンタイムで売上を上げてきたが、クラウドでは一度の売上は小さく、薄く広くビジネスを展開することになる。こうしたビジネスモデルの考え方や継続的な投資の必要性、さらにはセールスだけではなくカスタマーサクセスという考え方も必要になる。これらへの理解を企業に深め、どう根付かせるか。苦労する点ですが、これらに取り組むことこそ当社の役割だと考えます。

    鈴木:最後にAppExchangeの今後のビジョンを教えてください。

    池谷:顧客が成功するために、日本の企業がDXの次の一手を考える際、「それってAppExchangeでできないの?」とAppExchangeファーストの行動になっていただけることが、当社の願いです。今後は当然、米国企業のようにSaaSの導入が日本企業でも加速するでしょう。そんなとき、「データがつながらない」「業務がつながらない」といったことが起こらないようにしたい。そのためにはAppExchangeが顧客の次なる選択肢になるべきだと考えます。パートナー企業やアプリケーションを増やすなどして支援体制を強固にし、選択肢から漏れないようにする。これが当社の使命です。AppExchangeが“SaaS社会”の基盤として、企業や業界のDXを支える役割を担ってくれると信じています。

    鈴木:貴重なご意見、ご見解。私自身も大変参考になりました。本日はどうもありがとうございました。

    池谷:ありがとうございました。




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