寄稿・連載

    2021.10.04

    【DX時代を生き抜く文章術 第7回】ファクトと数字の大切さ(2)…数字で説得力を持たせる

    新規事業を成功させるためには、周囲を巻き込み賛同を得られる企画書や資料のクオリティこそが重要。「意味が分からない」「理解しにくい」という文章を並べるだけでは事業推進すらままなりません。では簡潔で要領を得た文章で「伝える」ためにはどんな工夫が必要か。本連載ではビジネスの基本である「文章」で伝えるためのポイントを紹介します。なお、本連載は「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(CCCメディアハウス)の内容をもとに編集しております。

     ビジネス文章に説得力を持たせる「近道」は、数字を使うことです。数字を使うことで、誤解なく情報が共有でき、正確な共通認識が生まれます。「なるべく早く」と言われても、人によっては認識に開きがあるはずです。「3日後」「1週間後」などと数字を使えば間違いは起きません。

     『ファクトフルネス』(日経BP社)は、思い込みにとらわれず、数字と事実で真実を見極めようとする態度の重要性を説きました。ベストセラーになったのは、同書の主張に納得感があったからでしょう。説得力のある主張は読む人や聞く人に納得感を与え、人を動かす〝武器〟になります。

     数字は客観的事実(ファクト)であり、相手に文句を言わせないパワーを持っています。

     さらに納得感や説得力を高めるためには、相手(読み手や聞き手)が持つ「ものさし」を利用することです。だれでも育った背景や学んだ分野によってそれぞれの判断基準を持っています。言い換えれば、その人がピンとくる指標や単位を使うことで「伝わる文章」に仕上げるのです。

     農業を営んでいる人なら「1反」の広さは分かるかもしれませんが、住宅関係の人なら300坪といった方が分かりやすい。平方メートルなら991.74平方メートル。小中学生なら学校のプール(25メートル)6個分、畳600枚分といったらよいかもしれません。ビジネスでは、動いて欲しい相手が重視している指標で伝える工夫が求められます。

     数学が苦手な人は多いでしょう。数字を扱うといっても特別なセンスは必要ありません。かくいう私も、中学校で習う一次関数や連立方程式も危うい感じです。

     数学はなぜ苦手意識を持たれやすいのでしょうか。それは、見えないものを扱っているからです。数字は数の概念をシンボルにしたもので、数には実際に触れることはできません。だからこそ、身近なものに結びつけてリアリティを持たせることが大切です。

     数字はたくさん見比べてみる必要があります。「100%の利用者が『満足』と回答」「広告費に換算すると1億円」など、とてつもなく大きな経済効果に対しては批判的に見ることも大事です。話題づくりのために経済効果の数字を作っている、などと客観的に見るのです。

     ビジネスの世界では、「文系だから数字に弱いのは仕方ない」という言い訳は通用しません。それに、「理系だから数字に強い」というのも本当でしょうか。

     あえて言えば、数学と数字は違います。受験数学とは違う「仕事の数字」を使いこなせているかが重要になります。仕事の数字とは、例えば売上高、営業利益や売上高営業利益率、原価率、値入率、粗利益率、損益分岐点、市場占拠率(シェア)といったものが考えられるでしょう。

     家具専門店チェーン、ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長は、為替相場など景気予測に長けていることで知られます。成果を上げている経営者、現場リーダーは目のつけどころが違い、数字を生かす勘所を知っています。 

     理系、文系というのも関係なしです。なぜなら、足し算、引き算、かけ算、割り算の四則演算だけを理解しておけば、数字力は鍛えられるからです。

     特に威力を発揮するのは割り算です。

     売り上げ100億円の会社が2社あったとします。一方は社員1万人、もう一方は100人だとすれば、社員1人当たりの売り上げは全然違います。

     総額に意味がない場合もあり、「1人当たり」「1個当たり」に直してみてはじめて意味が出てきます。
     物事の実態がリアルにつかめないときは、とりあえず割ってみる。そういう感覚を持つことが本連載で言っている数学的思考です。

     もう一つ重要なのは、比較をするクセをつけることです。

     例えば、日本に歯科医院は何軒あるか。答えは約7万軒ですが、7万という数字だけでは、これが多いのか少ないのかさっぱり分かりません。しかし、約5万5000店というコンビニエンスストアの店舗数や、約2万4000局という郵便局の数が頭にあると、いかに歯科医院が多いのかがつかめます。

     比較を容易にするために、基準となる常識的な数字は覚えておきたいものです。日本のGDP(国内総生産)は約550兆円。1兆円という数字は、GDPのおよそ550分の1であり、これはなかなかのスケールを持っていることが分かります。

     このように大きな数字を知っていることは、プレゼンなどでも効果があります。「日本の生産年齢人口は7600万人ですから、したがって……」「ウォルマートの売上高60兆円と比較すると……」などと説明すれば、「すごいな、コイツ」と納得してもらえるかもしれません。
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    本連載は、CCCメディアハウス刊行の「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」の内容を一部編集したものです。
    CCCメディアハウス「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(白鳥和生著)
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    筆者プロフィール
    白鳥和生
    株式会社日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ次長。
    明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を担当した。「日経MJ」デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に「ようこそ小売業の世界へ」(商業界)「2050年 超高齢社会のコミュニティ構想」(岩波書店)「流通と小売経営」(創成社)などがある。日本大学大学院総合社会情報研究科でCSRも研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。
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