寄稿・連載

    2021.08.25

    【DX時代を生き抜く文章術 第1回】何故、伝わらないのか?

    新規事業を成功させるためには、周囲を巻き込み賛同を得られる企画書や資料のクオリティこそが重要。「意味が分からない」「理解しにくい」という文章を並べるだけでは事業推進すらままなりません。では簡潔で要領を得た文章で「伝える」ためにはどんな工夫が必要か。本連載ではビジネスの基本である「文章」で伝えるためのポイントを紹介します。なお、本連載は「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(CCCメディアハウス)の内容をもとに編集しております。

     文章に苦手意識はなく、作文の成績も良かったのに、上司から「なんだこの文章は! 意味不明だぞ!」とダメ出しを食らった。SNS(交流サイト)では共感を得られる文章が書けるのに、職場では今ひとつ評価されず、納得がいかない。そんな人も意外と多いようです。

     こうした〝悲劇〟が起きるのはなぜでしょう。それは、ビジネス文章とSNSとでは求められるものが違うからです。そもそも読み手が違いますし、オン(ビジネス)とオフ(プライベート)、娯楽と実用というように、読まれる場面もまったく異なります。

     ビジネスの文章は、書くこと自体が目的ではありません。特に企画・提案書は、相手にこちらが思うように動いてもらうことが目的です。だから、〝きれいな文章〟が〝良い文章〟とは限りません。

    「君の話(文章)は何を言っているのかわからない」
    「結局何が言いたいんだ?」
    「その話は根拠があるのか?」
    「そのデータは、誰が調べた(言っている)んだ」

     私自身が若いときに先輩から何度も言われた言葉です。新聞記者ですから、「事例がない」「データがない」「根拠が弱い」と指摘されることは、信頼される記事ではないということです。

     今は「伝え方」が求められる時代です。コロナ禍でリモートワークが定着し、メールやLINEでのやりとりが格段に増えました。Zoom会議でチャットやQ&A機能も使います。文章によるコミュニケーション能力があるかないかが問われ、その能力は評価を左右しかねません。

     日々やりとりすることが多いメールには独りよがりの文章が散見されます。文章は基本的に「読まれない」ものなのに、多くの人が「読んでもらえる」と思いすぎです。特に「誰でも興味があるはず」というスタンスで書かれた文章はいただけません。

     会話やプレゼンの場合でも、聞き手の第一印象を決定づけるのは、視覚情報(見た目、しぐさ、表情、視線)が55%、聴覚情報(声の質や大きさ、話す速さ、口調)が38%、言語情報(言葉そのものの意味、会話の内容)が7%といわれています。この「メラビアンの法則」は、「人は話の内容よりは見た目を重視する」「人は出会ったときの最初の数秒で第一印象が決まる」というものです。そして、第一印象は一度形成されると、なかなか拭い去るのが難しいことが証明されています。

     これを文章に置き換えれば、文章は7%しか読まれないということかもしれません。しかも、文字は視覚情報でもあるため、「見た目」(レイアウト)が55%を占めるとも考えられます。違和感なく、パッと見て読む気にさせる文章を目指したいものです。

     飲食店なら、お客さんが食べたがる料理を提供すべきです。「俺が出すものを黙って食べろ!」「俺の料理がまずいわけないだろう!」といった高飛車な料理人の店は敬遠したくなるのがふつうの感覚でしょう。文章も「自分が読む立場である場合、それを読みたいか?」を常に考える習慣をつけたいものです。

     読まれない文章は、書き手の「書きたいこと」と読み手の「読みたいこと」にギャップがあるのです。特に企画書や提案書は、読み手がどんな性格でどんな立場にあり、どんな課題を持っているのかを事前にリサーチすることが必要になります。

     私は都内の私立大学で「マーケティング」の講義を行っています。講義の初めに学生に伝えるのは、マーケティングとは「売れる仕組みづくり」だということです。

     売れる仕組みとは、むりやり「買って! 買って!」と押し売りするのではなく、消費者に自然に商品に手を伸ばしてもらえる仕組みをつくること。マネジメントの父、ピーター・F・ドラッカーは、「マーケティングとはセリング(売り込み)をなくすこと」だと言っています。そのために、〝誰に、何を、いくらで、どのような販売ルートとキャンペーンで〟を考えることが必要になります。

     マーケティングは「恋愛」に似ています。好きな人ができたらどうでしょうか。相手のことを知りたいと思うでしょう。どこに住んでいて、どんなモノやコトが好きか。そして、相手に好きになってもらうために自分の髪形やファッションを変えたり、相手に会える場所に行ってみたり……。相手とのギャップを埋める努力をしますね。

     こうした相手を知る努力や準備が、伝わる「説得力」や「納得感」のある文章をつくるのです。

     「君の文章は結局、何が言いたいんだ?」と言われるのは、読み手にあなたの意図が伝わっていないからです。あなた自身が、この文章で何を伝えたいのかが定まっていないのが根本原因です。

     どんな文章も、書き手がいるように読み手がいます。日記のような文章は別として、ビジネス文章は読み手が誰なのかをきちんと想定し、その人に何を伝えるのかという目的を考えることが第一歩になります。

     「売れる仕組みづくり」と説明できるマーケティングの世界では、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)が重視されます。マーケティングの出発点は、まず顧客を知り尽くすこと。そのための事前リサーチを重視しつつ、すべての市場を狙うのではなく細分化し、自社が有利な競争を展開できるターゲット(顧客や市場)を規定します。その上で、顧客の頭の中に自社商品を適切に位置づけていきます。

     売れる仕組みづくりと同様に、「読まれる仕組みづくり」には、読み手が誰なのかを規定し、その読み手のニーズを把握することが求められます。ニーズを汲み取れなければ、その文章は自己満足な内容になりかねません。

     もちろん、ビジネス文章の目的は業務の遂行に関する「判断」を行うための材料提供です。

     上司や裁量権を持つ担当者が、判断したり、行動を起こそうと思ったりしてもらうための材料を、過不足なく用意する必要があります。

     ターゲットと目的がはっきりすれば、文章の方向性が固まります。すると、文章が速く書けるようになります。
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    本連載は、CCCメディアハウス刊行の「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」の内容を一部編集したものです。
    CCCメディアハウス「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(白鳥和生著)
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    筆者プロフィール
    白鳥和生
    株式会社日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ次長。
    明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を担当した。「日経MJ」デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に「ようこそ小売業の世界へ」(商業界)「2050年 超高齢社会のコミュニティ構想」(岩波書店)「流通と小売経営」(創成社)などがある。日本大学大学院総合社会情報研究科でCSRも研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。
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