「成功=ヒト×DX」という方程式が示す通り、DXの成功は「ヒト」に依存します。DX推進を模索する経営者にこの話をすると、「DXを進める人には、どんなスキルが必要ですか?」という質問が返ってきます。そんなとき筆者は、「企業変革スキル、業務改革スキル、システム構築スキルの3つが必要です」と答えます。
企業変革スキルとは、企業のビジネスモデルをゼロベースで再構築するスキルです。これは、責任者として起業や新規事業立ち上げを担当したり、周りと衝突しながら粘り強く説得したりといった経験を積むことで養えます。
業務変革スキルとは、業務を体系的に整理し、課題を明確化し、時流に合った対応策を考え、改革を推進するスキルです。会社全体の業務を理解し、意識して俯瞰することで養えます。
システム構築スキルとは、企業で稼働するシステムを体系的に理解し、業務改革と連動しながらシステムを構築するスキルです。既存システムを大局的に理解した上で、最新のITを把握し、意識して将来像を想像することで養えます。
これらスキルを持ち合わせた人材を育てるべきです。これらのスキルをすでに持っている外部人材を獲得するのも手段の1つです。しかし、人材獲得合戦が過熱する中、外部人材を獲得するより、社内の優秀な人材を育成する手段に打って出る方が現実的でしょう。
では、どんな人材がDXを進める人材としてふさわしいのか。リーダーシップとコミュニケーション力が高い人材、あるいはその要素を持つ人材を選ぶのが望ましいでしょう。
リーダーシップの素養は、自分で答えを探し出した経験があるかどうかを調べると分かります。新しいプロジェクトを立ち上げた経験やトラブルを解決した経験のある人は、自分で答えを出す状況に追い込まれているはず。こうした人はDX人材にふさわしいでしょう。順風満帆な人より、逆境を乗り越えてきた人も適しています。
DXを必ず成功へと導く方程式「成功=ヒト×DX」。これを実現するには、次の5つを順に取り組むことが不可欠です。
ステップ1:経営者の意識を変え、決意を促す
経営者が決意しない限り、全社一丸の変革は進められません。経営者が決意しないなら、周囲が経営者に決意を促すことも必要です。
ステップ2:デジタル推進体制を構築する
経営者と二人三脚で変革を進めるデジタル推進体制を構築します。DX推進プロジェクトを発足し、主導できる体制を準備します。
ステップ3:未来を想像し、業務を改革する
未来の顧客をイメージし、自社のビジネスをどう変化させるのかを想像します。こうした未来のビジネスに即した業務に変えます。
ステップ4:自社でITをコントロールする
従来の独自のシステム開発から脱却し、システムをプロデュースする発想に転換します。業務改革と連動し、システム導入を検討していきます。
ステップ5:変革を定着させ、加速させる
進み出した変革が、企業文化として根付くよう取り組みます。粘り強く諦めずにDXを進めることにほかなりません。地道な取り組みが周囲の意識を変え、協力的な環境を育みます。
5つのステップは、人や組織を変革させる方法です。DXを進める上で避けては通れない道だと筆者は考えます。一段ずつ階段を確実に上っていくように進めてください。もしつまずくなら、一段下がります。前のステップからやり直し、「確実」に実行していくことが大切です。
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本連載は、プレジデント社刊行の「成功=ヒト×DX」の内容をもとに、筆者が一部編集したものです。
プレジデント社「成功=ヒト×DX」
筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任。