業務を進める上で欠かせない役割を果たすITシステム。ビジネススピードが加速する中、企業は開発や運用などのあらゆる面でITシステムへの考え方を改めなければなりません。
企業が利用するITシステムといえば、これまではハードウエアを自前で調達し、ソフトウエアの開発やネットワークの構築も進めなければなりませんでした。数年先の事業拡大を想定したキャパシティプランニング、負荷やセキュリティを考慮したネットワーク設計などは必ずしも容易ではなく、ITシステム構築には多くのコストと時間を要するのが一般的でした。
しかしクラウドの登場により、こうした常識は覆ります。ハードウエアを調達する必要もなければ、ソフトウエア開発もネットワーク構築も不要になったのです。SaaS事業者が提供するサービスを申し込めば、ITシステムを即日から利用できるようになったのです。“所有から利用へ”という言葉がある通り、クラウドの登場によってITシステムは資産という考え方から、費用を払って利用するものという考え方に変わりました。
もっとも、企業の中には今なお、以前のITシステムの開発や運用の考え方から脱却できないケースが見られます。とりわけソフトウエアをカスタマイズし、自社の業務の進め方に合わせようとする企業は少なくありません。これでは開発期間の短縮とコスト削減といったクラウドの恩恵を、自ら放棄していることになりかねません。バージョンアップによる機能強化ももちろん見込めません。
DX時代の今、ITシステムに求められるのはスピードです。重厚長大で豊富な機能を備えるものより、ユーザーのニーズをどれだけ早く満たせるかが重要です。そのためには、ITシステムを自社の業務に合うようカスタマイズするのではなく、ITシステムに合うよう自社の業務を見直すことが大切です。自社の強みや競争優位の源泉となる業務以外は、汎用的で多くの企業のノウハウを詰め込んだSaaSに業務を合わせるようにします。2000年初頭に多くの企業がERPを導入したものの、カスタマイズによってバージョンアップできなくなったり、構造が複雑化して手をつけられなくなったりしたのと同じことをSaaSでも繰り返しかねません。
ITシステムの開発や導入を支援するSIerの中には、カスタマイズによる開発が中核事業という企業もあります。こうしたSIerの提案を鵜呑みにすれば、ITシステムの役割が変わった今もコストと時間を無駄に消費し、ビジネススピードに追随できないITシステムを構築してしまうでしょう。
近年は、業務部門によるシステム開発を支援するノーコード・ローコードツールも台頭しています。今後はさらに普及し、業務部門がシステムを開発するのが常態化するでしょう。企業は新たな技術やIT製品・サービスの動向に注視し、それらのメリットを享受することに目を向けるべきです。そのためには、ITシステムをなぜ導入するのか、どんな効果を見込むのかを明確にすることが大切です。さらに、旧来の開発・運用ノウハウや手法はもはや通用しないことも意識すべきです。現代の開発・運用ノウハウを積極的に活用することが、ITシステムの導入効果を最大化し、ビジネススピードに乗り遅れない企業へと成長させるのです。
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任