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コラム

節度なき「在宅勤務」が企業を蝕む

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 人材不足を背景に、多くの企業が採用活動を強化しています。とりわけエンジニアの獲得競争は過熱気味です。レバテックが2023年2月3日に発表した転職市場動向(2022年12月)によると、ITエンジニア・クリエイターの求人倍率はなんと15.8倍。厚生労働省「一般職業紹介状況」の有効求人倍率(2022年11月)が1.35倍なのを踏まえると、エンジニアの異常な人気ぶりが窺えます。もっともエンジニアにとどまらず、あらゆる職種の人材を積極的に獲得しようとする企業の動きが顕著に見られます。
 そんな採用市場で今、企業側と就職/転職希望者側との間で考え方のアンマッチが生じています。それが「在宅勤務」に対する考え方です。
 新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、多くの企業が在宅勤務制度を導入しました。コロナがようやく落ち着きつつある今も在宅勤務を推奨し、オフィスへの出社を不要とする企業が多数見られます。東京都産業労働局が2023年2月14日に発表したテレワーク実施状況(2023年1月)によると、都内企業のテレワーク実施率は51.7%。依然として半数超えの高い割合です。ただし、2022年12月の前回調査に比べて実施率は0.7ポイント減少し、3カ月連続で減っています。在宅勤務をいよいよ廃止し、オフィスに出社していたコロナ前の働き方に戻そうとする企業の動きが見て取れます。
 しかし就職/転職希望者の中には、今なお在宅勤務を希望する人が少なくありません。私が代表を務める会社では応募者の書類選考や面談を進めていますが、履歴書の備考欄に「在宅勤務希望」と書き添える応募者が明らかに増えています。
 企業側は在宅勤務をいずれ解除したい。一方で就職/転職希望者側は在宅勤務を望んでいる。このアンマッチが企業の人材獲得を阻害する要因の1つになっています。
 企業はなぜ今になって在宅勤務を解除したいと考えているのでしょうか。そこには丸3年に及ぶコロナ禍での働き方を経験し、対面によるコミュニケーションの必要性に気付いたことが背景にあります。政府が2020年1月に緊急事態宣言を発出して以降、多くの企業は半ば強制的に在宅勤務に舵を切りました。これまでオフィスで肩を並べて一緒に働いてきた従業員たちは、働く場所が離れてもZoomなどのツールを活用することで円滑なコミュニケーションを図ってきました。
 しかし、3年もすれば組織やチームのメンバーは変わります。中途入社や新卒入社組が新たに加わり、オフィスで肩を並べたことのないメンバーとオンラインで意思疎通を図らなければならなくなったのです。新メンバーが仕事をどう考えているのか、高いモチベーションで取り組んでいるのか、会社や事業をどう評価しているのかなどの秘めたる思いは、ツールによる画面越しの会話だけでは読み取れません。
 在宅勤務下でもコミュニケーションを円滑に図れるのは、長年一緒に働いて信頼関係のある従業員同士に限られます。阿吽の呼吸とも言える、相手の些細な気持ちの変化を読み取る関係がなければ、遠隔間での真のコミュニケーションは成り立ちません。
 企業側は、いくら人材不足だからといって在宅勤務希望者を積極的に採用すると、後で苦労するに違いありません。自社の風土や文化、事業に対する姿勢、経営者の思いを知らない在宅勤務者が増えるほど、会社の一体感が損なわれるからです。価値観が異なる者同士では十分な成果も見込めません。会社とは言わば、共通の価値観を持つ者同士の集合体です。同じ価値観のもと、同じ方向に突き進むからこそ成果が付いてくるのです。
 就職/転職希望者側は、こうした企業のビジョンや経営者の思いを汲み取るべきです。汲み取らずして在宅勤務で働いても、成果を上げる戦力にはなれないでしょう。つまり、コロナ禍に対面でのコミュニケーションの必要性に気付いた経営者は、戦力にならない在宅勤務希望者をもはや採用しないでしょう。これは断言できます。働き方の多様性を認める機運が高まる中、経営者は「在宅勤務を認めない!」と必ずしも声高には言えません。しかし、誰が言わずともこの流れは決して止まらないでしょう。
 もちろん、個人の事情に応じて在宅勤務を認める体制づくりは必要です。中には育児や介護など、家庭の事情で在宅勤務を希望する就職/転職希望者もいるでしょう。企業は一様に在宅勤務を否定せず、転職希望者の状況や環境を考慮し、柔軟に対応することが求められます。働く時間帯をずらすことも含め、臨機応変な対応を心掛けるべきです。
 職種や業務内容によっても同様です。プログラムや原稿の単位で報酬が決まるような成果で働くエンジニアやライターなどの職種、または、個人事業主のような原則一人で作業を完結できる人は、在宅勤務は作業効率を高める有効な手段となるでしょう。逆に、組織に属し、時間で働く人や指示を受けなければ仕事をできない人は在宅勤務に向いていません。
 私は在宅勤務を完全撤廃し、毎日オフィスに出社するのが原則だと思っています。その上で、育児や介護のような家庭の事情を考慮して対処することもまた必要だと思っています。企業はこれからも在宅とオフィスを組み合わせたハイブリッドな働き方を模索していくことが求めれてくるでしょう。
 今後、コロナの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行される見通しです。マスクの着用も2023年3月から個人の判断に委ねられる予定です。企業を取り巻く環境は日々変化しています。従業員の働き方も同様です。在宅だけの出勤体制は徐々になくなるでしょう。「効率がいいから」「夜の方が集中できるから」などの理由で在宅勤務を認める風潮も徐々になくなっていくでしょう。企業も就職/転職希望者もこうした変化を受け止め、これからの働き方をきちんと考えるべきです。
 当たり前の制度からありがたい制度へ…。在宅勤務は今後、就職/転職希望者からこのように受け取られる制度であってほしい。心からそう願います。
筆者プロフィール

筆者プロフィール

鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任
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