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コラム

儲からない諸悪の根源:小売業が長年抱えるジレンマとは?(後編)【小売業の可能性を解き放て! X人材を育成するTOC入門 Vol.6】

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欠品や過剰をなくし、在庫を適正化するための管理手法とは何か。日本の小売業のDXに精通するデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏(元セブン&アイ・ホールディングス CIO)と、全体最適のマネジメント理論TOC(Theory Of Constraints)を駆使し、グローバルにDXの最前線で活躍するゴールドラット・ジャパンCEOの岸良裕司氏が適正在庫を維持するための方法論を議論します。

売れ行きに応じて在庫上限数を変える仕組みづくりを

岸良:前回は小売業にとって大きな課題の「在庫」について議論しました。儲けるための足腰である在庫の回転率に目を向けるべきだと話しました。そのためには、需要の変化に応じて在庫数を調整できる迅速性も必要だとお伝えしました。
鈴木:目まぐるしく変化する需要を在庫数に反映する取り組みは、相当ハードルが高く感じます。売れ筋だった商品が売れなくなった、あまり売れなかった商品が急に売れ出したなどの変化を、具体的にどう在庫へ反映すればよいのでしょうか。 岸良:シンプルな方法があります。まず商品ごとの在庫数を「多い」「ちょうどよい」「少ない」といった3段階程度で信号機のように色で管理するんです。「多い」は緑色、「ちょうどよい」は黄色、「少ない」は赤です。
図1:信号機のように在庫量を分かりやすく表示する

図1:信号機のように在庫量を分かりやすく表示する

via ゴールドラット・ジャパン
 問題は、売れ行きは常に変化するということです。その中で適正な在庫量をいかに維持するかが課題となりますが、この緑、黄、赤の信号を活用して、需要の変化を素早くとらえ、在庫量の調整に活用することができます。具体的には、売れる量と仕入れる量がほぼ一緒であれば、真ん中の黄色でちょうどよい状態だと分かります。売れる量の方が仕入れる量よりも多ければ欠品の可能性がある赤色、売れる量の方が仕入れる量よりも少なければ過剰になる可能性があるので、緑色とします。  例えばある品番が思ったように売れなかったら在庫は「多い」状態で、その品番は緑色になります。であれば、売れ行きと仕入れ量が一致するように、在庫の定数を下げていけば、「ちょうどよい」黄色に調整することができます。つまり、過剰在庫を防げます。
図2:予想が外れて、思ったように売れない場合

図2:予想が外れて、思ったように売れない場合

via ゴールドラット・ジャパン
 思った以上に商品が売れている場合はどうでしょうか。在庫は「少ない」状態で、その品番は赤色になります。であれば、売れ行きと仕入れ量が一致するように、在庫の定数を上げていけば、「ちょうどよい」黄色に調整でき、欠品を防ぐことができます。 こうすると、信号機のように色で在庫の状況が一目で見える。いわば「色付き単品管理」が可能になります。当然ですが、これを手作業でやる必要はありません。デジタルのパワーを活かし、たとえ数千万ある品番でも適正在庫量をシンプルにオートパイロットできるようになります。
図3:予想が外れて、思ったよりも売れ行きが良い場合

図3:予想が外れて、思ったよりも売れ行きが良い場合

via ゴールドラット・ジャパン
 大切なのは、実際の在庫推移を把握できるのはもとより、売れ行きに応じて在庫を常に適正に保つことです。新商品で人気があるからといって、何カ月も同じ在庫数を維持しなければならないわけではありません。消費者の興味・関心が急に薄れ、翌週や翌月には販売数が一気に落ち込むことだって考えられます。このときに在庫をすぐに減らして適正数を保てるか。変化対応力を備える在庫管理体制こそ求められるのです。 鈴木:需要予測システムが算出した生産数に基づいて適正在庫数を割り出す、もしくは過去の販売量や出荷量などの実績をもとに、AIが未来の需要や適正在庫数を割り出すといった取り組みが進みつつあります。しかしこれらのツールを使い、将来の需要を正確に予測したケースを聞いたことがありません。将来どんな商品が売れるのか、いくつ売れるのかは誰にも分かりません。大切なのは、直近の変化に対して追随できるかどうかです。変化を把握し、把握した内容をもとに行動を起こせるか。これからの企業に不可欠な要素だと感じます。

在庫管理における「Min-MAX法」の根本的な欠陥

岸良:では在庫の適正数量どう決めるべきでしょうか。  現在、ほとんどの企業のシステムの中で使われている基本的な在庫管理計算方法「Min-Max法」には根本的な欠陥があることが分かっています。この欠陥のせいで、欠品と過剰在庫は避けられない状況となっているのです。  「Min-Max法」は適正在庫数を維持するのに使われる計算方法で、在庫が減り続けて、ある値(Min値)を下回ったら在庫上限(Max値)まで商品を発注(在庫を補充)するという考え方です。1957年にH.E.Scarf氏がMin値とMax値を算出する「Min-Max法」を発表して以来、現在のERPパッケージでも在庫補充の標準的な考え方として使われ続けています。  ちょっと専門的になりますが、Min-Max法は、過去の消費数をもとにMin値とMax値を算出するのが特徴です。直近の一定期間の平均消費数を計算して、補充リードタイムや発注単位、安全係数を組み合わせてMin値とMax値を割り出します。なお、ここで言う安全係数とは、消費のバラツキ(標準偏差)、店舗の陳列スペースの大きさ、過剰在庫や欠品時の損失ダメージなどといった個社特有の事情を勘案して割り出した値になります。  具体的には図のように在庫数がMin値に達した時点で商品を発注、つまり在庫を補充します。発注してから商品が届くまでの期間も在庫は減り続けることを想定してMin値を算出します。欠品を免れる最低限の在庫(安全在庫)をMin値に設定するのが一般的です。
図4:Min-Max法に基づく在庫補充の仕組み

図4:Min-Max法に基づく在庫補充の仕組み

via ゴールドラット・ジャパン
 Max値は、先ほど述べたように、過去一定期間の平均消費量から、補充リードタイムや発注単位、安全係数を計算して決めます。 鈴木:確かに、私が関わってきた多くのシステムのアルゴリズムは「Min-Max法」でした。 岸良: Min-MAX法は、昔のように商品寿命が長かった時代では問題はありませんでした。しかし、現在のような変化の激しい時代の中で、問題点が露呈してきたのだと思います。特に問題なのが、過去どのくらいの期間を見て平均消費数を算出する「監視期間」にジレンマがあるのです。  変化に迅速に対応しようとするならば、なるべく短い監視期間、たとえば過去7日間をモニターして平均消費数を計算することになります。下図は、その事例を示したものです。水色の線は消費、オレンジの線が在庫定数の変化です。これだと確かに消費の変化に素早く対応できるようになりますが、一方で、ノイズかもしれない需要の乱高下さえも拾い上げてしまいます。在庫定数が跳ね上がったり、下がったりすることになり、この図のグリーンの矢印が示す過剰在庫やオレンジの矢印が示す欠品の状態を招くことになります。
図5:監視期間を短くした場:

図5:監視期間を短くした場:

via ゴールドラット・ジャパン
 一方、ノイズかもしれない需要の乱高下を拾わないように、今度は比較的長い期間、たとえば過去28日間をモニターして平均消費数を計算すると、今度は下図のように、確かにノイズを拾わなくなり、在庫定数は安定しますが、一方で、需要の急激な変化に対応できないので、先ほどの事例と同じように、過剰在庫と欠品を招くことになります。
図6:監視期間を長くした場合

図6:監視期間を長くした場合

via ゴールドラット・ジャパン
 短い期間を選んでも長い期間を選んでも、過剰在庫と欠品を招くことになります。コンピュータが出した計算結果は信頼できないことになり、結果的に人手によって調整するようになります。一般には、欠品するとお客様に迷惑をかけてしまうし、貴重な販売機会を失ってしまいます。そのため、現場担当者は在庫定数を多めに調整し、これが過剰在庫となってしまいます。会社の運転資金を無駄に消費することになったり、過剰在庫起因のディスカウントで、利益を減らしてしまったりすることにもつながります。

欠品と過剰在庫を同時解消するダイナミック・バッファー・マネジメント

岸良:​では監視期間を何日に設定するのが最適か。答えは、何日にも設定しません。この監視期間という概念をなくし、期間を設けることによる欠品、過剰在庫のリスクを排除できるようにすればいいのです。先ほど説明した「多い」「ちょうどよい」「少ない」を使って説明しましょう。在庫が赤色なのは「少ない」という状態で欠品しそうなリスクが高まったということを示しています。ここで、在庫が赤色に浸食した面積を計算すると、下図のような急激な消費の変化でも、また右下のなだらかな消費の変化でも、期間という概念なしに面積で捉えることができます。この面積の大きさをトリガーとして、在庫定数を増せば、欠品リスクが解消でき、また同様に、緑色に浸食した面積を計算して、それをトリガーとして在庫定数を減らせば過剰在庫を解消できます。
図7:欠品と過剰在庫の同時解消を実現するダイナミック・...

図7:欠品と過剰在庫の同時解消を実現するダイナミック・バッファー・マネジメント

via ゴールドラット・ジャパン
 数学が得意な方や品質管理に関わるならば、お気づきと思いますが、実はこの管理方法は、製造現場で一般的に広く活用されている統計的品質管理をベースにしています。黄色のゾーンは1シグマで、統計的変動と言われ、その範囲での小さなバラツキに対していちいち対策を打つと、ノイズに反応することになり、その対策が仇となり、かえってバラツキを大きくしてしまうことが知られています。  1シグマを超えたところ、ここでは赤色と緑色の部分に入ったら、シグナルとして認識し、手を打つことが推奨されています。こうすると、数学的には95%は欠品しないようにしたいなら2シグマで、99%以上欠品したくないならば3シグマで管理するということを計算できますので、在庫管理をオートパイロットで行うことが可能になります。需要の変化を素早く捉えて、在庫量をダイナミックに変化させるので、ダイナミック・バッファー・マネジメントと言います。 鈴木:Min-Max方が算数のレベルとすると、ダイナミック・バッファー・マネジメントは面積を積分で計算しているわけですね。算数が数学に進化したということかと(笑)。 岸良:はい。その通りなんです。ちょっと聞きなれない言葉が多く、少々難しい内容かもしれませんね。これを分かりやすく説明したYouTube動画もありますのでご覧ください。
 ここで大切なのは、Min-Max法に代わり、より優れた在庫適正化するための方法論やアルゴリズムがすでにあるということだと思います。こういう計算はコンピュータにさせてしまえば、現場で見えるのはシンプルに緑色、黄色、赤色と一目で、誰でも在庫の状況が見えるようにできます。また、例えば過去6カ月のデータを使って、今までのMin-Max法とダイナミック・バッファー・マネジメントの在庫管理の違いによってもたらされる欠品の解消による売り上げの向上の効果や、過剰在庫解消による資金繰りの改善などの財務効果を簡単に出すことも可能です。 鈴木:在庫の適正化は在庫を管理する担当者の問題にとどまりません。自社に利益をもたらすかどうかの経営レベルの課題です。経営者や在庫管理担当者は、これらのアルゴリズムまで詳しく理解する必要はありませんが、欠品や過剰在庫の解消によって業務や組織体制、運用ルールの見直しに乗り出すべきでしょう。 岸良:在庫の状態を3色で色分けし、視覚で瞬時に過不足を把握できるようにするのは現場にはとても有効です。先ほどの、在庫の多い状態を緑色、ちょうどいい状態を黄色、在庫が少ない状態を赤色で示せるシステムや仕組みを導入すれば、現場も専門知識なしにすぐ運用できるようになるはずです。  こうした色を使って在庫状態を可視化する手段となるのが「Onebeat」と呼ぶSCMアプリです。倉庫や店舗ごとの在庫を色で示し、すぐに補充すべき商品かどうかを簡単に把握できるようにします。本部からの指示で動くのではなく店舗スタッフが自律的に在庫の過不足を調整するのにも役立ちます。サプライチェーンを構成する取引先ごとにシステムやデータ形式が異なることを想定し、他社の業務システムやエクセルファイル、テキストファイルなどをOnebeatに集約、小売やメーカーの業界の壁を超えて、サプライチェーン全体の在庫を可視化できるのも特徴です。
図8:Onebeatの画面上では在庫の過不足を色分けして示す

図8:Onebeatの画面上では在庫の過不足を色分けして示す

via ゴールドラット・ジャパン
鈴木:システムは現場が使いこなせるか、使い倒せるかが極めて重要です。使いやすければ使いやすほどシステムが関わる業務領域は拡大し、現場にゆとりも生まれます。在庫を適正化するのに高度な機能を事前の細かなチューニングが必要なシステムは必ずしも必要ありません。岸良さんが提示した色分けによる在庫管理手法のように、瞬時の状況把握と迅速に応対できるかどうか。さらには結果がすぐに出るかどうか。小売業はこうしたシステムや仕組みこそ必要だと感じます。
岸良裕司氏 ゴールドラット・ジャパン CEO

岸良裕司氏 ゴールドラット・ジャパン CEO

1959年生まれ。ゴールドラットジャパンCEO。全体最適のマネジメント理論TOC(Theory of Constraints:制約理論)をあらゆる産業界、行政改革で実践。活動成果の1つとして発表された「三方良しの公共事業改革」はゴールドラット博士の絶賛を浴び、2007年4月に国策として正式に採用された。成果の数々は国際的に高い評価を得て、活動の舞台を日本のみならず世界中に広げている。2008年4月、ゴールドラット博士に請われてゴールドラットコンサルティング(現ゴールドラット)ディレクターに就任し、日本代表となる。
鈴木康弘氏 デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長、一...

鈴木康弘氏 デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長、一般社団法人日本オムニチャネル協会 会長

1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。1996年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 1999年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。2014年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年同社取締役執行役員CIO就任。 2016年同社を退社し、2017年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任。
DXマガジン編集部編集後記
 2週間程度の在庫推移をもとに在庫上限数を変動させる仕組み。取り扱う商品点数が多い企業の場合、在庫数を短サイクルで見直すにはシステムの活用が欠かせません。そのためには鈴木氏と岸良氏が指摘する通り、分かりやすく使いやすいシステムであることが望まれます。  これまでのシステム導入といえば情報システム部門が主導し、現場のニーズを必ずしも反映しないシステムを構築するケースが少なくありませんでした。しかし今では、そんなシステム導入は考えられません。現場主導でSaaSを導入したり、ノーコード・ローコードで現場が業務アプリを開発したりする方法が定着しつつあります。現場の声を大いに反映したシステム導入が当たり前です。  在庫管理を振り返ると、これまでのシステムはSCMや需要予測、生産計画などの基幹システムと連動した高度なシステムが多かったのかもしれません。現場には不要な機能や設定も少なくなかったのではないでしょうか。  今後は実用性が何より求められるはずです。実用性がなければ、在庫適正化は絶対成し得ません。Onebeatのような分かりやすい仕組みが今度、在庫管理業務にどれだけ浸透するか。楽しみです。

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