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コラム

月曜日が楽しみな会社にしよう!:みんなが助け合う職場が儲かる理由とは?(前編)

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世界的なベストセラー「ザ・ゴール」の中で、著者のゴールドラット博士が提唱する全体最適のマネジメント理論「TOC」。TOCを実践するための勘所は。企業にはどんな体制や心構えが必要か。日本の小売業のDXに精通するデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏(元セブン&アイ・ホールディングス CIO)と、全体最適のマネジメント理論TOC(Theory Of Constraints)を駆使し、グローバルにDXの最前線で活躍するゴールドラット・ジャパンCEOの岸良裕司氏が、TOCについて改めて分かりやすく解説します。【小売業の可能性を解き放て! X人材を育成するTOC入門 Vol.11】

従業員の給与アップにはサプライチェーン改革が特効薬

岸良:小売業に目を向けると、薄利多売で儲からないなんて声をよく聞きます。しかし、本当に儲かりにくいのでしょうか。小売業は新たな施策を次々打ち出す積極性が強みで、他の産業界よりもむしろ進んでいるとさえ言えます。接客に注力するのはもとより、最近はサイネージやメタバースといったデジタルツールを活用する店舗も少なくありません。他の業界からすると、思いもしないレベルの施策です。

鈴木:小売の中でもアパレルは斬新な施策が目立ちます。ECサイトの利用割合が高まる中、オムニチャネルによってリアルとネットを組み合わせた販売手法を打ち出すケースが定着しつつあります。店舗とEC双方のデータを活用し、顧客体験価値を向上しようとする施策も増えています。売上を増やすアパレル事業者は決して珍しくありません。

岸良:ファッションやビューティといった産業は積極的な姿勢が特に見られますね。顧客のニーズが多様化する中、ニーズに追随する施策を早期に展開しなければならない点が背景にあると考えます。さらに、これら業界に属する企業は独自のクリエイティビティを打ち出し、競合との差異化を図っています。自らトレンドを作り出せるといった業界固有の特性もあります。にもかかわらず、これらの業界に関わる人の給与は他の業界の人より低い、なんて言われますよね。現在は上がる傾向があるとはいえ、他の産業と比較すれは低いとよく指摘されます。でも、この業界のユニークな素晴らしい特性を考えれば、私はもっと高い給料を従業員に支払えるのではと思います。

鈴木:同感です。業務を細かく分割してみると、そこには無駄が多いのではと感じます。その結果、労働分配率が低くなり給料も十分な額を支払えない。そんな問題を抱えているのではないでしょうか。

岸良:小売ってとても魅力的な業界だと思っています。そこで働く従業員も働くことが楽しいと感じているはずです。なぜなら、「顧客」と接する機会があるからです。来店者と直接会話し、感想や意見をダイレクトに聞ける職種って魅力的だと思いませんか。来店者の喜ぶ顔を見られるんですよ。B2Bの業界と違い、自分たちの施策や姿勢に対する手応えを直接感じられるんです。

鈴木:魅力的であるにもかかわらず、従業員の給料は低い。岸良さんは小売業界の問題はどこにあると考えますか。

岸良:小売業の弱点はたった1つ。サプライチェーンです。調達や生産、営業、物流といった、小売以外も含めた全体最適に取り組むべきです。小売業に限らず、儲けを生み出している企業は、優れたサプライチェーンが儲けの土台となっています。サプライチェーンを全体最適に導き、お金の流れを良くすることで儲けを生み出しているのです。利益が増えれば当然、従業員の給料だって増えます。より魅力的な業界になるわけです。

鈴木:サプライチェーンの全体最適化については、この連載でこれまで言い続けてきたテーマです。サプライチェーン改革に乗り出す企業の多くがTOCを実践し、実際に効果を上げた事例も紹介してもらいましたね。

岸良:国内外の著名な経営者や研究者が「ザ・ゴール」を愛読し、TOCの実践者として効果を上げています。小売でもっとも成功したと言われるAmazon.com創業者のジェフ・ベゾス氏もその1人です。彼はAmazon.comの全幹部に対し、10年後の未来を描くときの必読書として「ザ・ゴール」を読むように言っています。それだけ「ザ・ゴール」、引いてはTOCの考え方に感銘し、実践してきた1人とも言えますね。

図1:名立たる経営者や研究者が「ザ・ゴール」を愛読している

図1:名立たる経営者や研究者が「ザ・ゴール」を愛読している

via ゴールドラット・ジャパン「ゴールドラット博士メモリアルサイト」
 「ザ・ゴール」のストーリーは、舞台が工場なので製造業向けと受け止める人がいますが、それは読み方が浅いに過ぎません。本の中での舞台は製造業ですが、著名な経営者や研究者は自分の置かれた状況に当てはめて問題解決に活用しています。鈴木さんも「ザ・ゴール」を何度もお読みになったんですよね。

鈴木:はい。何度も読み直し、TOCを実践しています。読み直す中で思ったのは、何度読んでも新しい発見があるんです。

岸良:私も同じです。読むたびに新たな発見を感じます。ゴールドラット博士にこの話をしたら、自分の成長がそうさせていると言われましたね。深いレベルで読めるようになっているとも言われました。読む人ごとに違う読み方をし、自分なりの解釈を出せる面白さがあります。さらに実践することで実際に効果を上げているのも「ザ・ゴール」の魅力ですよね。ちなみに、「ザ・ゴール」は1984年に出版され、40年近く経った今も米Amazonのサイトではビジネス書部門で1位になっています。

みんなの助け合いでボトルネックを解消せよ

岸良:「ザ・ゴール」で説明している「TOC」について、分かりやすく解説します。TOCとは、全体最適を目指すためのマネジメント理論です。難しそうに感じる人がいると思いますが、複雑な考え方では決してありません。

まず、皆さんの働いている環境を思い浮かべてください。皆さんの仕事は、他の人とつながっていますよね。例えば小売業の接客担当者の場合、商品がなければ売れないし、商品を仕入れてもらわなければ売れません。商品を作る人や仕入れる人など、いろいろな人が関わって仕事が成り立っています。

一方、こうしたいろいろな人が関わって働く中で、それぞれの人やそれぞれの組織の能力ってみな一緒でしょうか。それともばらついていますか。当然、人によって能力は異なりますよね。つまり私たちは、「つながり」と「ばらつき」がある中で仕事をしているのです。言われてみれば当たり前ですよね。しかし、この状況を本当に真剣に考えていますか。実は多くのケースで考えられていないのです。

鈴木:仕事の仕組みを考えれば、「つながり」や「ばらつき」があるのは常識。この意識が欠如しているのがなぜ問題となるのでしょうか。

岸良:今度は会社に置き換えてみましょう。いろいろな人には例えば、営業担当や生産担当、調達担当などがいます。こうした人たちとつながって仕事の流れができています。しかし実際の業務では、営業担当は営業部という組織の中で、生産担当は製造部という組織の中で、といった具合に仕事をしています。部署という閉じた組織の中で仕事をしているわけです。いわば「縦」のつながりだけを意識し、他部署との「横」のつながりを意識することがほぼないのです。つながりがあるのを分かっているのに、あたかもつながりのないがごとく仕事をしているのです。これって論理的に誤っていませんか。実はこの組織マネジメントにこそ重大な欠陥があるんです。

鈴木:サイロ化した縦の組織構造が横のつながりを希薄にし、全社一丸となった取り組みを阻害します。こうした組織の問題は以前より指摘されていたものの、多くの企業が効果的な対策を必ずしも打ち出せずにいますよね。

岸良:横の仕事のつながりを意識しない結果、人や組織ごとの能力にばらつきがあることも日常的に意識しなくなります。しかし実際は、部署や人ごとに能力は異なります。例えば、マーチャンダイザーって一般的に忙しいですよね。豊富な経験も求められることから、簡単に増員もできません。

鈴木:マーチャンダイザーを抱える部署は多忙になりやすく、その結果としてボトルネックに陥りやすい。増員しにくく、簡単にはボトルネックを解消できない。

岸良:その通りです。つまり、実際は多くの企業がこうした簡単には解決できないボトルネックがある状況で仕事に取り組んでいるわけです。

この状況をどう解決するか。「ザ・ゴール」に描かれている事例で説明しましょう。大勢の子供がハイキングに出かけました。その中に1人だけ、歩くのが遅い子がいます。みんなが一列で歩く中、その子の影響で全体が遅くなってしまうのです。

この状況をどう解消すべきでしょうか。答えは、周囲の子供が手を差し伸べる、です。遅い子が背負っていた重いリュックの中身をみんなで分担し、身軽にすることで早く歩けるようにしました。その結果、全体が遅くならずに進めるようになったのです。

まさに仕事で「つながり」と「ばらつき」があるのと同じ状況です。このとき注目すべきは、歩くのが遅かった子が何かを変えたわけではないということです。つまり、制約自体は仕事の仕方を変えないわけです。歩くのが遅い子を周囲が手助けしたのです。つまり、非制約が仕事のやり方を変えたわけです。

鈴木:ボトルネックとなる人自体は、仕事のやり方を変える必要はない。変えるのは他の方であると。

岸良:その通りです。マーチャンダイザーが忙しすぎてボトルネックになっているなら、マーチャンダイザーの仕事を周囲が手伝えばいいわけです。経験が求められる職種ではあるものの、実はその人にしかできない仕事だけやっているケースはほとんどありません。むしろ、マーチャンダイザーがやらなくてもいい仕事をしていることって多いんです。こうした仕事を周囲が助ければ、ボトルネックは解消されるのです。

ちなみに、ボトルネックに陥りやすいのは、経験が必要などの理由で簡単に増員できない人や部署であることが多い。つまり、会社にとっては重要な、希少リソースと言い換えることもできます。「お前はボトルネックだ」と言われたらうれしくないですよね。しかし、「お前は希少リソースだ」と言われたらどうですか。きっとうれしいに違いないですよね。

多くの人が、マーチャンダイザーのような希少リソースがヒーローだと思っています。しかし、全体最適のマネジメント理論TOCでは、希少リソースをサポートする非制約こそが、自らの行動を変えることで全体に貢献するヒーローになるんです。

■「部分最適」を「全体最適」へとシフトする方法や考え方について詳しく知りたい人は、以下の動画をご参照ください

鈴木:「つながり」と「ばらつき」のある仕事の流れの中では、ボトルネックに陥った「希少リソース」を助けることが、全体最適になるのですね。

岸良:例えば総務部門や人事部門が希少リソースを助けることで、会社全体が良い方向に進み出すんです。TOCを提唱したゴールドラット博士は、こうしたみんなが助け合う美しいシチュエーションを描いていたわけです。「ザ・ゴール」を読んだ多くの人が、「なるほど」と感じてもらえるシチュエーションなんですよね。

今の仕事の仕方といえば、多くの場合、部署ごとに、またそれぞれの人が一生懸命仕事をしようと効率性を追求しています。部署に応じた目標管理を実施し、事前設定したKPIに基づき、売上や生産数、販売数達成などを目指しています。その結果、全体の流れの中では、希少リソースに仕事が溜まってしまうわけです。ほかの部署の状況もKPIよりも自部署のKPIを当然優先することになります。

鈴木:この状況がまさに部分最適。小売で言えば、仕入れ担当者が商品を大量かつ安く仕入れた結果、在庫が溢れる状況を生み出しているのと同じですね。仕入れ担当者にとっては安く仕入れることがKPIで、倉庫にモノが溢れようが、商品が店頭で売れなかろうか関係ないわけです。部分最適が過剰在庫や欠品を生み、ディスカウントで在庫をさばくことで利益も見込みにくくしているわけですね。

岸良:希少リソースをみんなが助けることで、会社がうまく動き出します。儲けも生まれます。こうした未来が分かれば、助けようと率先して動き出すはずです。全体最適への道は、希少リソースをどうやって助けるか。こんな思考が必要で、実際に行動に移すことが何より求められるのです。

鈴木:岸良さんが代表を務めるゴールドラット・ジャパンは、企業の全体最適化を支援していますよね。具体的にどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

岸良:当社は小売だけでなく、いろいろな業界の企業などを支援し、実際に成果を上げています。ただ、取り組むことといえばシンプルで、顧客の業務を俯瞰し、どこがボトルネックになっているのかを見える化しているに過ぎません。このボトルネックさえ解消すれば会社はよくなるということを、どれだけ儲けを生み出せるかといった形で示しています。

日本企業に対し、全体のためにお互いに助け合おうと提案すると、すごく喜んでくれるんですよ。さらに、希少リソースの仕事を周囲が1つでも2つでも手伝えるようになれば、希少リソース側の人はもちろん、手伝った人もうれしくなるんです。希少リソース側の人は感謝の気持ちを抱くし、手伝った側は自分が貢献したと充実感を持てるようになるわけです。つまり、職場の和を生み出すきっかけにもなるのです。

では、みんなが助け合うことと儲けを生むことが、なぜイコールで結びつくのか。次回は本記事のタイトルでもある「月曜日が楽しみな会社」、そして「みんなが助け合う職場が儲かる理由」、この2つについて掘り下げます。

岸良裕司氏 ゴールドラット・ジャパン CEO

岸良裕司氏 ゴールドラット・ジャパン CEO

1959年生まれ。ゴールドラットジャパンCEO。全体最適のマネジメント理論TOC(Theory of Constraints:制約理論)をあらゆる産業界、行政改革で実践。活動成果の1つとして発表された「三方良しの公共事業改革」はゴールドラット博士の絶賛を浴び、2007年4月に国策として正式に採用された。成果の数々は国際的に高い評価を得て、活動の舞台を日本のみならず世界中に広げている。2008年4月、ゴールドラット博士に請われてゴールドラットコンサルティング(現ゴールドラット)ディレクターに就任し、日本代表となる。
鈴木康弘氏 デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長、一...

鈴木康弘氏 デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長、一般社団法人日本オムニチャネル協会 会長

1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。1996年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 1999年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。2014年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年同社取締役執行役員CIO就任。 2016年同社を退社し、2017年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任。
DXマガジン編集部編集後記
 ボトルネックという言葉。悪いイメージを持ちがちですが、希少リソースと言われると、確かに良いイメージが先行します。全体最適を目指す勘所がボトルネック、つまり希少リソースの負担をどう減らすかにあるというのは盲点でした。周囲がどう手伝うか。TOCの本質は決して難しい取り組みではないことを知り、驚きました。と同時に、岸良氏と鈴木氏の説明を聞き、納得させられることも多かったです。

次回はいよいよ最終回。タイトルにある「月曜日が楽しみな会社」とはどんな意味なのか。「みんなが助け合う職場が儲かる理由」とは何なのか。どんな展開になるのか楽しみです。ぜひご期待ください!

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