4 システム部門に任せたために、開発・ツール導入が増加
システム部門がDXを推進するケースも失敗しがちです。
システムに精通するシステム部門は、デジタルにも強いと思われがちです。しかしその仕事スタイルは原則、現場要件をシステム化する“受託型”です。何をすべきかといった要件を求め、“お抱え”のシステム会社に相談するといった仕事が大半です。
ツール導入≒DXと考える傾向も、失敗要因の1つです。システム部門はシステム会社からの最新システムなどの提案を待つ傾向が見られます。これらの提案を受け入れれば、システム導入が加速して業務は効率化するかもしれません。しかし、多くのシステム導入は費用が膨らむのはもちろん、現場を混乱させかねません。業務が複雑化すれば、DXすらままならない状況に陥ってしまいます。
5 変革するも長続きせず、全社定着に至らず自然消滅
DXがある程度進んだとしても長続きせず、全社に根付かせられないのも失敗要因の1つです。全社に定着できず、DXプロジェクトが自然消滅することは少なくありません。とりわけ、大々的にデジタル化へと舵を切る大企業によく見られます。
DXは全社を巻き込み、トライ&エラーで前進させることが常道です。しかし大企業がDXに取り組む場合、コンサルティング会社やシステム会社に“丸投げ”することが珍しくありません。とはいえ、費用を無尽蔵に捻出できるわけもなく、取り組みが長続きせず自然消滅してしまうのです。丸投げした結果、社内にノウハウも残りません。
迷走を生む“デジタル格差”の広がり
ここで取り上げた5つの失速要因は、どれも多くの日本企業で実際に起きている問題です。リーダーのDXへの覚悟不足、エンジニアやマーケターへの過度な期待、外部依存による継続困難など、これらはどれも、DXに対する「他人任せの意識」によるものです。こうした意識に気付かずにいると、DX推進プロジェクトが迷走してしまうのです。
この「他人任せの意識」は、仕事に対する取り組みの違いである「デジタル格差」を生む要因にもなります。デジタル格差とは、デジタル化に積極的な人とそうでない人の差を指します。
デジタル化に積極的な人は、デジタルを進んで活用し、自分の仕事の在り方を変えようと努力します。ITの知識や業務経験などを問わず、新しいものに抵抗なく挑戦できる人が多くいます。
デジタル化に消極的な人は、デジタルを活用せず、仕事の在り方を変えようとしません。特に中高年世代や安定した職種に就いている人、過去の成功体験や安定した生活を壊したくない人に多くいます。
業務や事業のデジタル化が前提となりつつある中、この格差は今後、さらに広がることが予想されます。「他人任せの意識」を払しょくできなければ格差は拡大し、全社を巻き込んだDX推進プロジェクトの道のりもより険しくなるでしょう。
では、「他人任せの意識」を取り除くためには何が必要か。その1つが、全社員によるデジタルスキルの底上げです。DX推進プロジェクトは、主導する部署や担当者が取り組めばいい、というものではありません。全社員を巻き込み、デジタル化という企業風土を新たに醸成することに目を向けなければなりません。そのためには全社員が自分事としてDXを捉え、変革のために自身のデジタルスキル強化が必要だと認識することが大切です。企業は全社員のデジタルスキル強化を支援し、全社一丸でDXに取り組む環境づくりを目指すべきでしょう。
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本連載は、プレジデント社刊行の「成功=ヒト×DX」の内容をもとに、筆者が一部編集したものです。
プレジデント社「成功=ヒト×DX」
筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任。
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