実践者インタビュー

    2021.12.10

    卓越したプロジェクトを表彰する「PM Award 2021」、AI画像診断でインドの結核患者根絶を目指すNTTデータのプロジェクトが最優秀プロジェクト賞受賞

    「プロジェクトマネジメント」を通じて社会課題の解決やイノベーションを目指すPMI(プロジェクトマネジメント協会)「プロジェクトマネジメント協会」(PMI)日本支部は2021年11月23日、日本の優れたプロジェクトを表彰する「PM Award 2021」を発表しました。最終選考に残った6者の中でもっとも高い評価を受けたのは、NTTデータの「AI画像診断技術によるインドで10万人に結核診断アクセスを支援する社会貢献プロジェクト」。具体的にどんなプロジェクトなのか。プロジェクトを成功へと導くためにどんな点に気を付けたのか。プロジェクトを主導したNTTデータ 技術革新統括本部 技術開発本部 シニアスペシャリストの及川晃樹氏と技術革新統括本部 技術開発本部 シニアエキスパートの田代裕和氏に聞きました。

    AI画像診断技術で結核患者の早期発見を支援

     一般社団法人PMI日本支部が主催する「PM Award 2021」は、日本企業・団体の卓越したプロジェクトを表彰する制度。先端技術を取り入れる新規性や、社会の行動変容やライフスタイルに変革をもたらす有用性、社会や地域振興に寄与する貢献性などの選考基準に照らし、参加者の投票によって優秀なプロジェクトを選出します。

     今回は2021年5月にファイナリスト6者を選定し、同年9月にファイナリストのプレゼンテーションを開催。その上で参加者によるオンライン投票を実施しました。その結果、NTTデータのプロジェクトが、トップである最優秀プロジェクト賞を受賞しました。
    写真:最優秀プロジェクト賞を受賞したNTTデータ 技術...

    写真:最優秀プロジェクト賞を受賞したNTTデータ 技術革新統括本部 技術開発本部 シニアスペシャリストの及川晃樹氏(写真左)と、技術革新統括本部 技術開発本部 シニアエキスパートの田代裕和氏

     同社のプロジェクトは、インドのチェンナイ市で住民の結核を診断するというもの。インドは世界一の結核まん延国で、世界の感染者の約3分の1をインドが占めていると言われています。国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」の中でも、結核を2030年までに根絶することが打ち出されています。同社はこうした背景から、社会に貢献する取り組みとして同プロジェクトの実施を決めました。

     同プロジェクトでは先端技術であるAIを活用し、X線画像から結核の疑いがある患者を識別します。AIによる画像診断システムを検診車に搭載することで、遠方の病院まで足を運べない住民でも結核を調べられるのがメリットです。放射線科医が検診車に搭乗せずとも、結核の疑いがある患者を識別することもできます。「本システムではエッジAI技術を活用し、X線画像から結核の疑いを即時に判定できる。結核の検出精度は約92%を誇る。2021年8月時点で約3万の住民を診察し、そのうち約1000人の結核被験者を検出した実績がある」(及川氏)といいます。なお、結核の疑いがあると診断した場合、患者から採取した痰を病院に送り、精密検査で結核の有無を改めて判別します。
    図1:チェンナイ市に配備した、AI画像診断システムを搭...

    図1:チェンナイ市に配備した、AI画像診断システムを搭載する検診車

    図2:AIを使って患者のX線画像から病変を検知する

    図2:AIを使って患者のX線画像から病変を検知する

     インドではこれまで、結核患者の受診が遅れたことで症状が重症化したり周囲に感染させたりするケースが少なくありませんでした。X線画像から結核の疑いを診断する放射線科医が不足している国内事情も、患者の受診機会を減らす要因でした。「本システムを使えば受診の早期化、受診機会の創出、検査短期化などの効果を見込める。同プロジェクトでは、結核患者の診断に要するコストを9割減らした」(及川氏)とシステムのメリットを強調します。

     検診車に搭載するシステムとは別に、クラウドを使った診断環境も用意します。マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Azure」を使い、X線画像から結核以外の病気も診察できます。クラウド上に構築したAI画像診断システムを使えば、心肥大や肺炎、繊維症、胸水、気胸、脳膜肥厚、浸潤、硬変、ヘルニアなどの症状も読み取れます。

    コロナがプロジェクト直撃も柔軟に対応

     一方、「プロジェクトを進めるにあたって、いくつもの難題に直面した」と及川氏は振り返ります。中でも一番の問題が新型コロナウイルス感染症の影響です。同社がプロジェクトを立ち上げたのは2020年1月。新型コロナウイルス感染症がまん延し始めた時期と重なります。インドでは外出禁止令などの制限措置が講じられ、チェンナイ市との企画調整や契約締結までのスケジュールが遅れることになりました。「コロナの影響はもちろん、交渉相手であるチェンナイ市の重要人物がコロナ感染する事態も発生した。1カ月もあれば十分と思われた企画の合意に3カ月、6カ月を予定していたプロジェクト開始から契約締結までに1年を要した」(及川氏)といいます。

     そこで同社は遅延を少しでも解消するため、契約から見直しを検討します。チェンナイ市と契約せず、同社が出資するインドのDeepTekとチェンナイ市による契約締結へ切り替えることにしました。「チェンナイ市、NTTデータ、DeepTekによる三者間の契約締結で進める予定だったが、締結には時間がかかる。日本の企業がチェンナイ市と契約するより、DeepTekとチェンナイ市による契約締結の方が、時間的ロスが少なく合理的と判断した。当社はDeepTekと契約を締結することで本プロジェクトを主導した」(及川氏)と機転を利かせた策を打ち出します。

     さらに、契約締結後に実施予定だったクラウドサービスの検証も前倒します。「契約締結後に分析環境をクラウドに構築してテストを実施するのは遅い。契約締結前にシステムを構築することは本来ないが、本プロジェクトの社会的意義や重要性を加味して断行した」(及川氏)と、ここでも融通を利かせます。

     プロジェクトメンバーが現地に渡航できないことによるコミュニケーション不足も課題でした。「オンラインの打ち合わせを余儀なくされた。しかし、これでは理解を深めてもらうのに時間を要しかねない。そこで、チェンナイ市の担当者との交渉をDeepTekにすべて委託した。当社はDeepTekと打ち合わせし、チェンナイ市と何を決めればいいのかなどを洗い出して依頼することにした。たとえオンラインでも、インド国内の二者で話を進めた方がプロジェクトを加速させられると考えた」(田代氏)と経緯を話します。結果、無駄なコミュニケーションなしに懸案事項を効率よく解決できたといいます。プロジェクトの全ステークホルダーが一度も対面せずにプロジェクトを進めることになりました。

     そのほか、サービスを無償提供する際の課題やリスクも洗い出しました。同社にとって海外の自治体にサービスを無償提供するのは初めてのケースとのこと。寄付に該当するスキームは未整備でした。「税法や契約、輸出などの面で想定されるリスクを検討し、1つずつ解決した。当社の財務や法務部門と連携しながら対処したほか、社内のCSRの有識者から社会貢献に必要な心得や勘所も学んだ。前例のない取り組みだったが、周囲の協力により、当社初となる寄付スキームを確立できた」(及川氏)といいます。

    社会貢献こそがメンバーのモチベーション維持に

     プロジェクトを統括する立場として、及川氏はどんな点に気を付けたのか。同氏は「課題やリスクを想定することが必要」と指摘します。「スケジュール遅延などのトラブルは当然起こり得る。本プロジェクトを進めるにあたり、どんなトラブルが起こるのかを事前に頭の中で描いた。コロナのような想定外のトラブルもあるが、トラブルをイメージできるかどうかが柔軟な対応を導く。トラブルがプロジェクトにどう影響するのかを具体的に考えられるかがプロジェクト成功を左右する」(及川氏)と強調します。

     一方、新型コロナウイルス感染症の影響でスケジュールが大幅に遅延した点について、田代氏は「プロジェクトがいつ本格稼働するか分からない状況では、プロジェクトメンバーのモチベーションが低下しかねない。しかし、今回のプロジェクトは『結核根絶』という社会に貢献し、世界的に意味のあるもの。自身の取り組みが社会に貢献できることを考えると、モチベーションは必然と維持できた。目先の作業や遅延ばかり気にせず、プロジェクトの目的や意味を見失わないことがプロジェクト推進の原動力 になる」と指摘します。

     同社は今後、AI画像診断システムをインド国内に展開する考えです。NPO(非営利団体)やNGO(非政府組織)と連携し、アジア地域への展開も見据えます。一方、システムの商用化も図ります。X線画像診断に加えてCT/MRIを用いた病変診断AIを開発し、「Maestro AI」として商用展開する予定です。さらに、新型コロナウイルス感染症向けのAI画像診断技術の開発も進めます。「実証実験では、AIによる画像診断が放射線科医と同等精度でコロナ感染を特定した。コストと時間がかかるPCR検査の事前スクリーニングとしての用途を想定する。PCR検査の実施が不十分なフィリピンやインドネシアではすでに実フィールドで実用性を評価する段階まで来ている。社会貢献とビジネス展開の両面から利用を拡大させたい」(及川氏)と意気込みます。

     なお、プロジェクトの専門家やチェンジメーカーなどで構成する協会「Project Management Institute(PMI)」のアジア太平洋地域のマネージングディレクター兼建設部門のグローバル責任者 べン・ブリーン氏は、最優秀賞プロジェクト賞を受賞したNTTデータを含むPM Award 2021のファイナリスト6者に対し、次のようにコメントしています。

     「今回受賞したすべてのプロジェクトは、組織やプロジェクトマネージャー、あるいはチェンジメーカーたちが如何に変革をもたらし、より良い未来に影響を与える革新的な功績であるかを反映したもの。これらのチェンジメーカーたちは引き続き変革を牽引し、プロジェクトマネジメントが組織にどれだけ効果的な価値をもたらすかということを証明し続けるでしょう」

     DX推進が叫ばれる中、今後はさらに重要性が増すプロジェクトマネジメント。成功へと導くためには、プロジェクトマネジメントのための知識やスキル習得はもとより、社会課題への貢献度やトラブルを受け入れる姿勢、周囲を巻き込むリーダーのけん引力こそ求められるのかもしれません。
    PM Award
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    PMI (Project Management Institute)
    https://www.pmi.org/

    PMI日本支部
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