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インタビュー

【JOAフェロー林直孝氏に聞く】顧客接点創出や顧客情報収集の手段はアプリだけではない、自社の価値を最大化できる手段を模索せよ

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日本オムニチャネル協会の活動をサポートする「フェロー」。分科会に参加してオブザーバーとして意見したり、会員にアドバイスしたりとその取り組みは多岐に及びます。オムニチャネルやDXに取り組む企業に対し、どんな課題を払拭し、どんな一歩を踏み出すべきと考えるのか。今回は、商業施設「PARCO」のDXやオムニチャネルを主導してきた林直孝氏に話を聞きました。(聞き手:DXマガジン編集部)

 フェローの林直孝氏は、J.フロント リテイリング 執行役常務 グループデジタル統括部長として、百貨店やショッピングセンターのデジタル化推進を主導しています。これまで、商業施設「PARCO」のアプリ開発やCRM構築、オムニチャネル推進などに携わり、顧客となる来店者の買い物体験向上、施設で働く販売員の働き方改革などに従事してきました。コロナを機に小売事業者のDXが加速しつつある中、林氏はこの波に乗り遅れた事業者がDXやオムニチャネルをどう進めるべきと考えているのでしょうか。
写真:日本オムニチャネル協会フェロー 林直孝氏

写真:日本オムニチャネル協会フェロー 林直孝氏

――ECの創成期よりPARCOの店舗改革やオムニチャネルを主導されてきたそうですが、具体的にどんな取り組みを進めてきたのでしょうか。

林:現在は多くの企業がCRMを活用し、顧客に応じたアクションや施策を実施できるようになりつつあります。もっとも、そのためにはCRMが保有する顧客情報の活用が欠かせません。PARCOでもCRMを軸にした運用体制を構築すべきという考えに基づき、顧客データの収集方法や運用方法を模索してきました。

 大きな転換期を迎えたのは2019年です。購入額に応じてポイントを付与するシステムを導入しました。これまではクレジットカード会社と連携し、カードの年間利用額に応じて数パーセントを割り引く特典を用意するだけでした。特典の利用期間が限られていたこともあり、十分な来店促進を見込めなかったのです。ポイント制度なら、来店者は期間を問わずポイント分だけ何度でも商品を安価に購入できます。その結果、来店頻度を底上げできるようになったのです。

 来店者の購買履歴を把握できるようになったのも大きな変化です。これまではクレジットカード会社から、加工済の購買データを受け取っていたため、自社で緻密に分析できない状況でした。例えばDMが購買にどう影響したのかを探りたくても、クレジットカード会社と一緒に分析しなければなりません。分析対象となる顧客データが制限される、時間がかかるなどの問題を抱えていたのです。

 スマートフォン向けのアプリを使い、利用者IDに基づき、誰がいつ、どの店でいくら買い物したのかを把握できるようにしました。現在、多くの企業が目指す、顧客一人ひとりの購買行動を追随できる環境を構築したのです。アプリでどんな記事を見てから商品を購入したのかなど、購買前の行動も含めて細かく把握、分析できるようにしました。

 そのほか、1店舗と言わず2店舗、3店舗で買い物してほしいという思いから、施設内を回遊、つまり歩いた歩数に応じてコイン(ポイント)を付与する機能もアプリに実装しました。買い物後に買い物体験を5段階で評価してもらう機能も装備するなど、アプリを活用して顧客のさまざまな購買行動を収集できるようにしていったのです。

――顧客接点という意味でアプリの重要性が増しています。しかし、「自社ではアプリを開発できない」「十分な開発コストを投じられない」という企業は少なくありません。こうした企業が顧客接点を増やすためには、何から取り組むべきでしょうか。

林:アプリは手段に過ぎません。顧客との接点を作って顧客にアプローチできるなら、どんな手段、方法も模索すべきです。PARCOではアプリを提供する前、スマートフォンユーザーとつながろうという思いで、FacebookやTwitterなどのSNSを徹底活用しました。どれか1つ運用するのではなく、当時の主要SNSをすべて活用して顧客接点を積極的に作り出す施策に打って出たのです。さらに、オンラインを使って店舗(オフライン)へ誘導するO2O(Online to Offline)サービスも活用し、顧客接点作りに奔走しました。こうして集めた潜在顧客をPARCOのWebサイトに誘導してファン化し、段階的に関係を深化させていったのです。

 大切なのは、アプリを使って顧客接点の創出や顧客情報の収集を目指すかどうかではなく、顧客接点をデジタルでどう築くかを考えることです。最近はInstagramやTiktokをはじめ、数多くのSNSが登場しています。「LINEミニアプリ」のような専用アプリを簡単に始められるサービスもあります。自社にとって消費者との接点を創出しやすい、つながりやすいプラットフォームやサービスは何か。さまざまな選択肢から最適解を見つけ出すべきです。

 最適なツール選びは、顧客接点創出時に限らず自社のDXやオムニチャネルを推進する際のさまざまな局面で重要な作業です。このとき、自社が提供する価値に目を向けることが大切です。自社の価値を消費者に提供、訴求するのに最も効果的なツールを選ぶようにします。競合の他店が使っているツールやサービスだからといって自社に最適だとは限りません。店舗やブランドごとに価値が異なるように、最適なツールやサービスも店舗ごとに異なります。自社の価値を徹底的に追及して言語化する。DXに必要なツールを探すなら、まず最初に価値を定義する取り組みも必要です。

 例えばPARCOでは、施設に出店するテナントの売上向上が何より重要だと考えます。そこで、出店企業の商品と顧客が欲しいと思う商品をマッチングすることがPARCOの役割の1つだと考えます。この価値を一番提供しやすい方法をデジタルでどう具現化すべきか。こんな視点でツールを選定、活用しています。店頭商品をWebで注文したり店舗に取り置きしたりするサービスが一例です。利用者の買い物体験を向上できるよう、テナントの販売員向けに接客の研修サービスや外国人向けの翻訳サービス提供したのもその一環です。PARCOでは、テナントの販売員が商品を販売しやすくなることに主眼を置き、そのための方策をデジタルで具現化するという考え方でサービスを拡充していきました。

 もっとも、どのツールやサービスが自社に最適か。この答えを出すのは容易ではありません。ときには失敗するでしょう。ツールやサービスを一度導入しさえすれば効果を出せると考えず、失敗して当然と思うようにしましょう。手数を打って何が自社に合うのかを試行錯誤しながらDXを進めていくのが望ましいでしょう。

――DXやオムニチャネルに取り組めずにいる企業に向けてアドバイスをいただけますか。

林:私は現在、日本オムニチャネル協会のフェローとして企業のDXやオムニチャネルを支援する役割を担っています。協会にはこれまでDXやオムニチャネルを実際に主導してきたフェローの方々が多数います。今まさに自社のDXやオムニチャネルを主導中の協会員の方々も多数います。こうした人と意見交換するだけでも、自社のDXやオムニチャネル推進のヒントを得られるはずです。同じ課題を抱える人と情報を共有し、1つでもヒントを得られれば自社のDXやオムニチャネルを加速させられるはずです。

 DXやオムニチャネルを主導する人の多くが社内で孤立しがちです。しかし、日本オムニチャネル協会には、同じ課題を抱える人がたくさんいます。お互いを助け合うことで勇気づけられることもあるでしょう。こうしたコミュニティを積極的に利用することが、DXやオムニチャネルを加速、もしくは最初の一歩を踏み出す契機になるかもしれません。

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