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インタビュー

【特別対談:佐藤恭平×鈴木康弘】単なるEC拡張ではない! 企業のBX成功の切り札となるマーケットプレイスソリューション

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Amazonや楽天のようなマーケットプレイス構築を支援するMirakl。ECサイトの商品拡充や運用効率化にとどまらず、マーケットプレイスを使った新たな共創ビジネス創出を見据えます。同社が描くマーケットプレイスビジネスとは。Mirakl 代表取締役社長 佐藤恭平氏に話を聞きました。(聞き手:DXマガジン総編集長 鈴木康弘)

マーケットプレイスがビジネスを変える

鈴木:Miraklとはどんな会社なのでしょうか。自己紹介をお願いします。

佐藤:当社は2012年にフランスで創業した会社です。ECサイトを構築、展開する企業などに向け、マーケットプレイスソリューションを提供しています。

 もともとは創業者の2人が2005年、SplitGamesという会社を立ち上げたのが由来です。あちこちの店舗で販売するゲームソフトを仮想的に一カ所に集約して販売できれば…。そんなアイデアのもと、マーケットプレイスソリューションの開発に乗り出します。その後、ソリューションを使えばECサイトの商品を容易に拡充できるという狙いで、フランスの小売チェーンであるFnacが2008年にSplitGamesを買収します。当時、攻勢を強めるAmazonにこのソリューションを使えば対抗できると考えたわけです。さらにその後、ECサイトの拡充が一段落したFnacから2012年にスピンアウトして立ち上げたのがMiraklです。

鈴木:マーケットプレイスソリューションとは具体的にどんなものでしょうか。

佐藤:企業がECサイトを運営する場合、そこで扱う商品は原則、自社のものに限りますよね。一方でAmazonや楽天ではいろいろな企業が出店し、さまざまな商品を販売しています。こうしたAmazonや楽天のような仕組みを自社ECサイトで可能にするのがマーケットプレイスソリューションです。

鈴木:自社のECサイトで自社商品以外の幅広い商品群を扱えるようになるわけですね。それはすごい。しかしAmazonや楽天のような仕組みを構築するには、相応のコストがかかるのではないでしょうか。

佐藤:一般的にそう思われがちですよね。しかし、当社のマーケットプレイスソリューションを使えば、原則として月額いくらといったSaaSの費用で構築することが可能です。Amazonのような巨大企業にしかできないと思われているマーケットプレイスのプラットフォーム事業を展開できるようになるわけです。当社はマーケットプレイスのプラットフォーム民主化を掲げ、多くの企業がAmazonに類するビジネスにチャレンジすることを支援します。

鈴木:どんな企業の利用を想定しているのでしょうか。

佐藤:日本企業がEC事業を展開する方法は、主に2つの選択肢があると考えます。1つは、Amazonや楽天などといったメガプレイヤーに出店する方法。もう1つは自社独自のECサイトを構築する方法です。特に後者は、D2C(Direct to Consumer)の機運が高まり出した数年前から注力する企業が増えています。

 当社のソリューションは、両方法の「間」を狙う企業にマッチすると考えます。Amazonや楽天を使えば集客を見込めるものの、商品が売れたときには成約手数料を支払わなければなりません。一方、自社独自のECサイトなら成約手数料は必要ないものの、集客や品ぞろえの面で課題が残ります。双方のこうしたデメリットを補完できるのが当社のソリューションです。メガプレイヤーやD2Cのこれまでの選択肢に加えて、D2Cを第三者とともに作り上げていきたい、そんな声に応えるソリューションであると自負します。

鈴木:EC事業者に対し、これまでにない第3の選択肢を提供できるようにするわけですね。ただ、Miraklのマーケットプレイスソリューションを使って品揃えを拡充したとしても、Amazonや楽天には及ばない。そんな気がします。Miraklのマーケットプレイスソリューションを利用する強みはどこにあるのでしょうか。

佐藤:自社の価値やECの世界感に賛同する企業と、ビジネスをともに展開できるのが何よりの強みです。マーケットプレイスソリューションには現在、欧米中心にはなりますが約5万の出品企業(セラー)が登録されています。5万という数字はメガプレイヤーのモール出店企業数と比べると、必ずしも多くはないでしょう 。しかし、世界の名だたるマーケットプレイスオペレーターの品質基準を満たす優良企業が残っていることになります。つまり、良質なECサイトを構築できるようになるわけです。自社のブランド力を維持、向上する上でも品質基準は重要な指標となります。セラーと組むことで、自社だけでは成し得なかった高い専門性を打ち出すことも見込めます。EC事業者はセラーとともに、どんなビジネスを描くのかといった構想から手を取り合って事業を練れる。さまざまなセラーと共創ビジネスを模索できるのが、マーケットプレイスソリューションを使う強みですね。

鈴木:Miraklのマーケットプレイスソリューションは、ECサイトを単に拡張するためのものではない気がします。むしろECを軸に新たなビジネスモデルをどう創出するか。新ビジネス成功の手段と位置づくソリューションであると感じます。

佐藤:ありがとうございます。まさにその通りです。当社のソリューションは企業のBX(ビジネス・トランスフォーメーション)を支援するものであると位置づけています。ソリューションを利用する目的は導入企業によってさまざまです。ただし共通するのは、すべての企業が既存のビジネスをどう変えるのか、もしくは新たなビジネスをどう展開するのかを考え抜いている点です。企業のDXを成功させるための「要」となるソリューションとも言えます。

セラーの品質を自動管理する機能を装備

鈴木:マーケットプレイスソリューションの機能や特徴を詳しく教えてください。

佐藤:当社のマーケットプレイスソリューションは「Miraklマーケットプレイスプラットフォーム」と呼びます。これをSaaSで提供しています。EC事業者が利用するSAPやAdobe (Magento)、セールスフォースなどといったコマースアプリケーションと連携して使うことになります。特定のアプリケーションだけではなく、自社開発したECサイトとの連携も可能です。プラットフォームとアプリケーションはAPIで連携し、セラーが出品する任意の商品、もしくは特定カテゴリの商品群をワンクリックでECサイトに掲載できるようにすることもできます。

図1:Miraklマーケットプレイスプラットフォームの...

図1:Miraklマーケットプレイスプラットフォームのイメージ

 取引のあるセラーを管理する「セラーコマンドセンター」と、商品や運用ルールなどを管理する「マーケットプレイスコマンドセンター」の2つの機能を備えます。前者は、セラーとの交渉に使うオファー管理や、商品の受注管理、各セラーの品質をKPIに基づき可視化するダッシュボードなどの機能を用意します。

 後者は、商品やセラー、商品カテゴリなどに応じた成約手数料を設定したり、異なるセラーが同一商品を扱っているときの商品情報をAIでマッピングしたりする機能を用意します。特徴的なのは、セラーの品質をKPIで規定、管理する機能を備える点です。例えば、納期は守られたか、ユーザーの評価は一定基準を満たしているかなどの指標をKPIで定め、KPI未達のときにはEC事業者に通知します。一定の品質基準を満たさないセラーとの取引中止を検討するといった用途に役立ちます。

鈴木:多くのセラーや商品管理を効率化する機能を中心に備えているわけですね。

佐藤:はい。Miraklマーケットプレイスプラットフォームを使えば、自社ECサイトの出品数を飛躍的に増やすことができます。一方、各セラーとの商談や品質管理といった新たな業務も発生します。これらを人手で管理するのは現実的ではありません。そこでAIを駆使し、担当者の負荷を軽減するための機能を拡充させています。

鈴木:Miraklマーケットプレイスプラットフォーム導入企業の中には、新たなビジネスモデルを描けない、収益向上策が分からない、セラーとビジネスをどう進めればいいのか分からないなどの声もあるはずです。こうした企業をどうサポートしているのでしょうか。

佐藤:当社では、導入企業をサポートする「カスタマーサクセスチーム」を用意します。当社の従業員数は現在、グローバルで約700人ですが、そのうち約150人がカスタマーサクセスチームに在籍しています。例えば、どんな価値を消費者に訴求すべきか、どんなビジネス、収益モデルを構築すべきか、さらには売れ筋であるセラーの商品と一緒に自社商品をどう販売すべきかなどを導入企業と伴走しながら考えます。「顧客の成功=Miraklの成功」、こんな思いで導入企業の成功を継続して支援します。

目的や狙いの異なる導入事例

鈴木:御社は日本で展開して間もないものの、海外では導入効果を上げたさまざまな事例があると思います。どんな企業がどんな効果を上げているのか。主な取り組みを教えてください。

佐藤:家電量販店を展開するベスト・バイ・カナダは、ECサイトの取り扱い商品を拡充する目的で当社のプラットフォームを利用しています。自社商品を開発したり、在庫を抱えたりといったリスクを負わなくて済むのも導入の決め手ですね。同社では、これまで取り扱っていなかった健康や美容などの新カテゴリを増やすのにプラットフォームを使っています。現在ではECサイト全商品の93%をセラー商品が占めるに至ります。こうした商品拡充策により、プラットフォーム導入から3年でECサイトの取引は3倍に成長しています。なお、プラットフォームを使えばどんな商品が売れているのかといったデータを取得することもできます。

 スーパーマーケットチェーンを展開するカルフールは、社会貢献を目的にプラットフォームを活用します。フランスでは日本同様、新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、カルフールへの来店者数はもちろん、地場産品などを取り扱う小規模店舗への来店者数も激減しました。そこで同社は小規模店舗をセラーにし、カルフールのECサイトでセラーの商品を出品できるよう開放したのです。いわゆる“ローカルエコノミー”をオンラインで実現しました。地場産品を欲するニーズは潜在的に高いことから、カルフールにとっても商品力を強化するメリットがあります。最終的には105社のセラーを集めました。フランスの地域貢献、小規模店舗の活性化に寄与したユニークな事例です。

 プラットフォームを使い、自社のサステナビリティ戦略を全面に打ち出せるようにしたのがH&Mです。欧州では現在、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の意識が高く、衣料の大量廃棄が難しくなりつつあります。そこで同社はリアル店舗をセラーと位置付け、返品されて店舗に置かれたままの衣料、しばらく売れない店頭在庫をECサイト、AFOUNDで取り扱うようにしました。特に環境への意識が高いZ世代はこうした衣料品を購入する傾向が高く、衣料廃棄物の削減に寄与しています。

鈴木:3社とも異なる目的、狙いのもとでプラットフォームを活用しているのに驚かされます。商品拡充はもちろん、地域との連携や環境社会への適応など、日本企業も参考になる事例ばかりですね。

佐藤:特にAFOUNDが打ち出すサステナビリティは今後、日本企業にとっても重要な戦略になるでしょう。当社のプラットフォームを使えば、さまざまな構想を具現化できるはずです。サステナビリティをどう表現するか。プラットフォームを使ってぜひ模索してほしいと思います。

鈴木:日本に限ると、例えば百貨店に向くプラットフォームではないかと感じました。上質な商品群を世界中から取り揃えるECサイトを展開しやすくなりますよね。コロナで世界中から商品を仕入れるのが難しくなる中、マーチャンダイザーの商品化業務を支援するのにプラットフォームが役立つと思いました。一方、強力なコンテンツを武器にする企業にも向きますね。例えば医療従事者向けの教材などを扱う出版社の場合、Webサイトは医療を学ぶ学生や従事者からのアクセスが多いですよね。こうしたWebサイトをEC化し、教材以外の介護用品や医療機器などを扱うようにする。医療を学ぶ学生や従事者が必要とする商材がワンストップで揃うECサイトを構築すれば、さらに高い集客力を見込めるようになりますね。

佐藤:貴重なご意見、ありがとうございます。参考になります。日本では多くの企業が「マーケットプレイスソリューション」と言われても、まだピンと来ないと思います。当社は日本法人を設立してまだ半年に満たないですが、その役割はソリューションの機能やメリットを訴求するだけではなく、利用することで自社のDXがどう加速するのか、BXによって業務がどう変わるのかなどを具体的に提案することだと考えます。企業のDXやBXを支援する立場として、日本の変革を支えられればうれしいですね。

鈴木:御社の日本市場参入により、今後のEC市場は激変するかもしれませんね。マーケットプレイスの動向、私も注視させていただきます。本日はありがとうございました。

佐藤:こちらこそありがとうございました。

Mirakl株式会社
https://www.mirakl.com/ja-jp/

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