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インタビュー

2021.04.22

【特別対談:磯村康典×鈴木康弘】オールSaaS化にBPOへ業務集約…、徹底した合理化策と全社一丸の推進体制がDXを加速

「DXビジョン2022」を打ち出すなど、グループの改革に積極的な姿勢を示すトリドールホールディングス。取り組みを主導する執行役員 CIO BT本部本部長の磯村康典氏は改革をどのように成功へ導こうとしているのか。磯村氏が現職に就く前、8年にわたって仕事をともにしてきた本メディア総編集長の鈴木康弘が、当時の仕事を振り返りながら現在の取り組みを聞きました。

時代に追随するプラットフォーム構築へ

鈴木:トリドールホールディングスといえば、子会社が多数の飲食店を展開していますね。磯村さんは2019年9月に着任されたそうですが、会社は磯村さんに何を期待していたのでしょうか?

磯村:一言でいえば「グローバルフードカンパニーにふさわしいIT基盤を作ってほしい」でした。当社は現在、アジアや欧米など、店舗の海外展開を加速していますが、私の着任当時、その裏側を支えるシステムは必ずしも十分なものではありませんでした。当時のシステムの状況を見たときに思ったのは、「各部門が別々にシステムを導入しているな」ということ。Microsoft Accessで開発した小規模なシステムを含めると、180ほどのシステムが使われていたんです。

鈴木:増えすぎたシステムが問題だと思った?

磯村:もちろん必要なシステムもありますが、カスタマイズして運用していることを問題視しました。そのときの課題に応じて「ああしたい」「こうしたい」とカスタマイズした結果、システムをアップデートできず、当時の機能をベースにとどまっていたんです。これでは時代の変化に追随できません。世の中を見てもシステムのレベルが上がっているのに当社だけ乗り遅れている。こうした環境に危機感を覚えました。以前はカスタマイズするのが当たり前でも今は違う。そこで社内で使うすべてのシステムを対象に、SaaSに切り替えるという方針を打ち出したのです。

鈴木:それが2021年1月に発表した「DXビジョン2022」ですね。

磯村:はい。会社が掲げる目標を成し遂げるためには、変化に対応するプラットフォームが不可欠でした。そのプラットフォームを構築するのにやるべきことを3つ宣言したのが「DXビジョン2022」です。

・全てのレガシーシステムを廃止し、 クラウドとサブスクリプションを組合せて業務システムを実現する。
・全てのネットワークには脅威は存在すると考え、ゼロトラストセキュリティを実現する。
・コールセンター、経理、給与計算などのバックオフィス業務を全て手順化し、BPOセンターへ集約する。


 当グループの基幹事業である飲食店は、「手づくり」と「できたて」による食の感動を提供することにこだわっています。お客様と向き合う時間を優先させるために、それ以外は徹底的な合理化を考えました。そのためには世の中の知見をできるだけ活かしたい。こうした考えのもと、打ち出したビジョンになります。

鈴木:もう少し詳しく教えてください。

磯村:1つめの業務システムについては世の中に知見がかなりたまってきたことから、SaaSをフル活用する方向に舵を切りました。2つめのネットワークは、VPN(閉域網)を使えば安全という時代ではないと考えます。いたるところにリスクがあるという考えのもと、VPNを止めてゼロトラストネットワークを構築することに切り替えました。

 そして3つめのバックオフィス業務は、社内で抱えずにBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)センターに思い切って任せようということにしました。当グループの場合、店舗を新たに出店することもあれば撤退することもある。もし自分たちでバックオフィス業務をこなそうとすると、店舗の増減に応じて人員も調整しなければなりません。しかし従業員の調整はそう容易ではない。ならば、人員を融通できる外部に委託すべきではないか。こう考えました。コモディティ化した業務をいくら社内で頑張ったとしても、飲食店を訪れる来店者の価値には必ずしも結び付きません。当社の株主に価値を提供するものでもありません。業務プロセスを見直し、すべてのバックオフィス業務をプロに任せる。こんな方向に切り替えたのです。

鈴木:非常に大胆かつ思い切った戦略ですね。しかし大幅な方向展開は社内調整も難しい。取り組む上での課題は?

磯村:システムを大幅に見直すということは、業務プロセスにも当然メスを入れます。業務の進め方が変わることで現場も戸惑ったに違いありません。私に届かなかったものを含めれば、抵抗する声はかなりあったのではと推察します。

 しかし「グローバルフードカンパニー」を目指す企業として、社長の粟田自身も「変える」という意識を強く持っており、私の取り組みを支持してくれました。社内の調整が難しい、現場の反発が根強いなどを理由にストップさせることはありませんでした。干渉することもありませんでしたね。

鈴木:磯村さんに任せているという体制だと進めやすいですね。

磯村:進めやすい点がもう1つありました。それは私がトリドールビジネスソリューションズというシェアードサービス会社の社長を兼務していることです。トリドールグループのバックオフィス業務を実質的に担う会社になります。例えば帳簿への記帳や給与計算、電話を受けるコールセンター業務、システムの運用や監視などはトリドールビジネスソリューションズが行っているんです。業務を改革しようと言ったとき、その対象となる大半が、トリドールビジネスソリューションズが担っている業務になるんです。改革の対象が自分の配下にあるという状況も進めやすい要因ですね。

鈴木:BPOセンターへ業務を任せれば、最終的にはトリドールビジネスソリューションズは不要になる?

磯村:その通りです。すでにバックオフィス業務のBPOセンターへの移行はほぼ済んでいます。役割を終えたトリドールビジネスソリューションズは2021年9月30日をもって解散します。

鈴木:ここまで割り切った戦略はそうそう打ち出せないですね。一方、「DXビジョン2022」を成功させるためにはコストもかかるはず。業務システムのSaaS化やバックオフィス業務のアウトソースといった取り組みを進めるための費用はどう捻出した? コストが膨らめば経営陣も黙ってないはず。

磯村:まずは当社の財務諸表を分析し、DXビジョン2022を推進する費用はこの中から捻出しようと考えました。つまり、無駄なコストを洗い出し、それらをすべて削ってDX推進に割り当てるようにしたのです。そのため、損益計算書(PL)に記される数字自体はほぼ増減していないんです。これなら経営陣も納得してもらえるのではと考えました。

 さらにすべての業務システムをSaaS化してサブスクリプションに切り替われば「ノンアセット」になります。最終的にIT資産、ソフトウエア資産はゼロになるわけです。貸借対照表(BS)を軽くしつつ、PLにインパクトを与えない。これがDXビジョン2022をスタートさせる条件だと考えました。でなければ経営陣は味方してくれないと思いましたね。社外取締役も「これならとりあえずやってみれば」と言ってくれるに違いない。こんな説得材料を用意しました。

鈴木:経営状況を客観的に示す財務諸表をトリガーにしてDXを進める。当たり前なのかもしれませんが、理にかなったアプローチですね。私の下で働いていたころとは見違えるように成長して(笑)。

磯村:ありがとうございます(笑)。

鈴木:入社して約1年半。これまでの取り組みを自己評価すると何点?

磯村:厳しい質問ですね(笑)。50点でしょうか。

鈴木:評価できた点とできなかった点、具体的にはどんなところでしょうか?

磯村:とりあえずかもしれませんが、こうして進められたのは評価したいと思います。一方で、もっと進めれられたのではないかとも思いますね。また、私が掲げた取り組みに賛同できなかった従業員がいるのも事実。途中で辞めていった人もいるはずです。私がもっとフォローできたのではと思うこともあります。ただ、判断は迷ってはいけません。決して後悔しているわけではありません。

鈴木:磯村さんのように改革を主導できる人材はなかなかいない。

磯村:トリドールホールディングスの入社前、投資会社で働いていた経験が生きているのかなと思います。投資先企業の経営に直接参画するハンズオンで経営再建してきた経験が、現在の改革に活かされていますね。投資会社って良くも悪くも容赦ないじゃないですか。しかし、いろいろな選択肢の中から最良の策を講じる、全体を俯瞰する目を養えたことが、思い切った施策を打ち出せた要因かもしれません。
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