就任と同時に改革断行! 新たな付加価値創造へ
鈴木:カインズは現在、積極的にデジタル化を推進している。その経緯を教えてください。
高家:新型コロナウイルス感染症がまん延する前の2019年、デジタル化を含む改革に踏み切りました。多くの企業がコロナを機にデジタル化へ舵を切っていますが、当社は企業改革を目的として乗り出しました。
鈴木:競合他社に先駆けてという意味では、アドバンテージですね。
高家:私が社長に就任するタイミングでスタートさせる方向で進めていたんです。その前年に、プロジェクト改革について議論する期間を設けていたのが成果に出たと思います。就任と同時に勢いよくスタートできたのも十分な議論を積み上げられたからと考えています。
鈴木:カインズにとってのDXの位置付けを教えてください。
高家:当社はもともと、地域の百貨店のような位置づけだった「いせや」から独立して、ホームセンター事業を進めてきました。現会長の土屋の時代に製造小売業として、オリジナル商品に付加価値を持たせる方向性で展開して15年くらい経ちます。
次の10年、15年先を考えたとき、未出店エリアに進出して拡大するという手ではパイの取り合いにしかなりません。オリジナル商品を強化して、飽和状態であるホームセンター市場を拡大するという選択肢は当然、追及していますが、これまでと同じ道をたどっても同様の成長曲線は描けないと思いました。今だからこそ、新しい価値を創造する。そのためには会社を丸ごと変革しなければ生き残れないと考えました。こうした考えを「第3創業」や「不連続な改革」という言葉で社員に向けて発信しています。
鈴木:思い切った改革はなかなか断行できるものではない。土屋会長は「第3創業」を高家さんに任せた。大英断ですね。
高家:創業家以外の社長は私が初めてですので大英断だったと思います。土屋が私の社長就任を社内幹部に向けて発表したとき、こんな言葉を言っていました。
「カインズは、これから不連続な改革に取り組む必要がある。今までのやり方を大きく変えていく。そのために、一番大きな人事をやるべきだと私は思いました。だから社長が変わるのです」
これを聞いて改めて、期待値の高さを認識しましたね。
鈴木:変革のためには人が変わらなければいけない。カインズも従業員の意識を変えることに苦労しているのでは。
高家:人の考え方を変えるためには時間が必要ですよね。当社では、本部や店舗を含め、全国で2万人以上ものスタッフが働いていますので、全員の意識が変わっていくのはそう簡単ではないと覚悟はしていました。改革に踏み切って半年ほど経ったころ、「Find in CAINZ」という業務用アプリをリリースしたんです。商品名を入力すると、店内のどの棚にあるのか、在庫はいくつあるのかなどを教えてくれる機能を備えています。このアプリを利用し始めたことで、スタッフの負荷も軽減されるようになった。そのとき、「デジタルってうまく使うとなんか良いよね」という空気が生まれた気がします。
鈴木:顧客体験だけでなく従業員体験も合わせて作り出したのは、素晴らしいですね。
高家:デジタル戦略は、「ストレスフリー」「パーソナライズ」「コミュニティ」「エモーショナル」という4つを目的としています。例えば、ストレスフリーの点で取り置きサービスをローンチしたら利用者に好評だった。こうした体験から、社内全員の発想が、“デジタルを使おう”に変わっていきましたね。
鈴木:ストレスといえば、レジはどのように変化していますか?
高家:セルフレジの設置については、初期の目標を達成しています。レジにかかる時間を短くするのが目的なので、キャッシュレスでレジ通過スピードを上げたり、レジのオペレーションを削減したりということにも着手し始めています。非接触で商品を受け取れるピックアップロッカーも提供し、利用件数は一気に跳ね上がりましたね。
鈴木:巣ごもりが増えたことで、ペットやDIYへの需要が増えたそうですね。
高家:デジタル戦略の目的の1つである「コミュニティ」の点からは、オウンドメディアを立ち上げました。カインズは「お客様の暮らしに寄り添う」というビジョンを掲げています。買って終わりではなく、利用者の暮らしをより良くできるようつながっていたいと。
そこでペットオーナー向けの「Wanqol(わんクォール)」 、暮らしの知恵を詰めた「となりのカインズさん」 、動画を集めた「カインズテレビ」 を立ち上げました。これらを合わせると、月間のページビューは約320万(2021年5月時点)もあります。これは、リアル店舗への来店者の約3割弱に相当し、かなり大きな数字ととらえています。
DIYもカインズの本業の1つで、DIYを日本の文化として定着させたいと考えます。また、ホームセンターを訪れるプロ職人の人と一般の来店者をどう結びつけるか、これはビジネスのタネになるのではと考えています。
トップのリーダーシップでデジタル戦略を進める組織づくり
鈴木:デジタル人材を集めて、デジタル戦略本部を作った経緯を聞かせてください。
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