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店舗とネットの融合を加速させるABC-MART、新たに打ち出す顧客体験の価値とは?

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国内外に約1,500店舗を展開するエービーシー・マート。ECサイトやスタッフ向けアプリを駆使し、店舗の強みをより活かす販売網を打ち出します。店舗とネットの連携を進めることでどんな効果を見込むのか。顧客にどんな体験価値を提供するのか。エービーシー・マートの代表取締役社長 野口実氏と、同社のECサイトやスタッフ向けアプリの開発を支援し続けるecbeingの代表取締役社長 林雅也氏に、システム構築のポイントや目指すべき顧客体験について聞きました。(聞き手:デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘)

店舗とネットの利点活かした購買体験を提供

――エービーシー・マートは2005年にECサイト「Net-MART」を立ち上げ、2010年にはecbeingのEC構築支援を導入。ECサイトの強化に乗り出しています。EC事業に早くから参入し、店舗とネットの融合を進めています。

野口:店舗とネットを融合する“オムニチャネル”の関心が日本国内で高まり始めたのは2013年です。ECサイトを立ち上げた時点で、オムニチャネルを目指そうと考えていたわけではありません。しかし、当社の事業は「お客様のもとに靴を届ける」がすべてです。この可能性を広げる手段としてネットは有効。そう考え、店舗にとどまらない積極策に打って出ることにしました。ECサイトの構築を支援するプラットフォーム「ecbeing」を2010年に導入以降、現在に至るまでecbeingにはシステム開発や構築などで協力してもらっています。

林:エービーシー・マートの担当役員の方から当時、「これからは店舗とネットがつながる」という話を聞いたのを覚えています。さらに2014年には野口社長から、今後はモバイル向けのWebサイトに注力するという話も聞きました。当時はスマートフォンを片手に店内で商品を下調べする人が出始めたころ。こうした人向けにモバイル用Webサイトやアプリを強化すれば効果が現れる。こう話していた野口社長が想定した通りの消費行動が今、当たり前に根付きました。現在のエービーシー・マートの取り組みを見ると、野口社長をはじめとする経営層の先見性が、店舗とネットをつなぐ世界の実現を強く後押ししていると感じます。

――ECサイトのオープンを皮切りに、利用者向けアプリやスタッフ向けアプリを開発、さらに在庫管理や顧客管理といった基幹システムも刷新。システムを段階的に強化し、店舗とネットがつながる世界を体現しつつあります。新たな世界で顧客体験はどう変わると考えますか。

野口:当社が取り扱う靴という商材は、種類はもとよりサイズも多様です。例えば、25.5センチの靴を希望するお客様に対し、それ以外のサイズは売れないという特性があります。洋服と違い、少しゆったりめのサイズでも購入しようとはならないのです。では、こうした大量の在庫をどう管理するか。そこで最適なのがデジタルです。種類や色、サイズの異なる靴を管理する上で、デジタルの親和性は極めて高いと考えます。デジタルを駆使し、利用者が求める靴を確実に提供できるようにする。今後はこうした体験がより求められると考えます。

一方、靴は実際に履いてみないと履き心地が分かりません。サイズがピッタリでも歩いてみたら違和感が、なんてケースもあります。こうした要望にもきちんと答えられなければなりません。このとき役立つのが店舗です。ECサイトでは満たせない顧客ニーズを補完できるのが店舗の強みです。欲しい靴を確実に用意することと、実際の履き心地を体感できること。これらを満たすには、デジタルと店舗の利点を兼ね備えた購買体験を提供することが必要だと考えます。

写真1:エービーシー・マート 代表取締役社長 野口実氏

――新たな顧客体験創出の必要性を感じつつも、実践できずにいる企業は少なくありません。エービーシー・マートはなぜ、他社に先んじてこうした取り組みを進められるのでしょうか。

林:エービーシー・マートのシステム構築を支援する立場で感じるのは、課題を常に意識し、解決に向けて何をすべきかを前もって把握しているということです。例えば、今回のコロナ禍で多くの小売業がEC事業に舵を切りました。しかし実状は、バタバタしたまま取り組み続けた企業と、事前の計画に基づいて進めた企業で二極化しています。エービーシー・マートは紛れもなく後者です。コロナ禍であるかどうかを問わず、取り組むべき施策と以前から認識していたことが、アプリ開発や基幹システム刷新をスムーズに進めさせていると感じます。

野口:ご指摘の通りです。当社では、課題を解決する上で何をすべきかを事前に洗い出していました。ToDoリストとしてタスクを管理し、いつでも走り出せる体制を整えていました。コロナ前から必要なシステムを随時構築してきましたが、コロナの際に人的リソースを割り当てられるようになり、計画を前倒しできたのです。こうした準備やタイミングが、新たな顧客体験づくりを前進させていると思います。

ECの仕組みを店舗の強みに変える

――店舗とネットを融合する上で課題になりやすいのが在庫です。店舗とECサイトの在庫一元化や店頭での在庫照会などは、顧客体験を高める上で重要な施策です。エービーシー・マートでは在庫をどう管理、活用しているのでしょうか。

野口:在庫照会に関しては、モバイルを使って照会する環境を段階的に構築しました。まずは2012年、「iChock(アイチョク)」と呼ぶサービスの運用を開始。全店にiPadを導入し、タブレットを使ってECサイトの在庫を店舗で販売できるようにしました。お客様のご自宅に配送手配し、店舗レジで会計いただくシステムとして利用を開始しました。

林:iChockで特徴的なのは、ECサイトの在庫を確認できるようにした点です。当時は「ecbeing」を使ってECサイトを構築した後です。ECサイト用の商品DBを構築し、どの種類のどのサイズが在庫としていくつ残っているのかを把握できるようになっていました。そこでiChock では店頭で EC サイトの在庫や他店舗の在庫を確認し、店舗で販売できるようにしたのです。もし店舗に在庫がなくても EC サイトや他店舗に在庫があれば、販売機会を逃さずに済むわけです。

ECという仕組みの可能性を広げる考え方にとても感心しました。ECサイトはネットでモノを販売するだけにとどまらず、店舗においても強い武器になる。エービーシー・マートのこうした発想は、ECサイトを展開する多くの企業が参考にすべきだと感じました。

写真2:ecbeing 代表取締役社長 林雅也氏

――ECサイトの仕組みを応用した見事な機転ですね。在庫管理を含む仕組みをゼロから開発するのは手間と時間がかかりかねない。こうした課題解決を前提に生まれたのが「iChock」というわけですね。

野口:2010年に「ecbeing」を導入した時点でiChockの構想を描いていました。すでに構築済のECサイト用の商品DBを活用すれば開発を短期間で終えられる、費用対効果を高められる。そんなメリットも見込んでいました。

――iChockをさらに進化させたのが、2018年にリリースした店舗スタッフ向けアプリですね。

野口:店舗スタッフの手元に在庫情報を持ってくる。これが店舗スタッフ向けアプリのコンセプトです。スマートフォンを使って在庫照会すればお客様のそばを離れずに済む、という発想から生まれました。自店、EC、他店、倉庫すべての在庫を照会できるのが特徴で、本部が送付するレポートを参照する機能なども備えます。

――店舗スタッフ向けアプリのリリースを機に、店舗ではどんな顧客体験を創出できるようになりましたか。

野口:店舗スタッフとお客様が一緒にスマートフォンの画面を見て、相談しながら接客するといったスタイルに変わりました。在庫の有無を確認するため、店舗スタッフが店舗裏まで走る必要はなくなり、お客様を待たせずに済むようになりました。お客様がより望む接客方式に近づけたのではと考えます。

現在の消費者は、ネットでモノを買うことに慣れています。コロナを経て、こうした消費行動がさらに加速しました。つまり、店舗でウィンドウショッピングする機会は減り、モノを購入するまでの時間が圧倒的に短くなったのです。しかし店舗に目を向けると、購入までに時間がかかりすぎている。消費者が求めるスピードに追随できずにいます。そこで当社は店舗での「スピード」を重視。アプリを駆使し、消費者が求めるスピードを提供できるようにしました。現在の消費者ニーズを把握し、満たすことが顧客体験価値の引き上げには不可欠です。

――アプリ開発の一方、基幹システムにもメスを入れました。2021年には顧客データ基盤を構築。店舗とECサイトのシームレスなデータ連携を図ります。

野口:店舗向けの基幹システムとECサイト向けの基幹システムを統合し、フロント系の業務を支援するシステムを切り離しました。統合した基幹システムは必要最小限の機能にとどめ、必要な機能を後付けで連携できるようにしました。基幹システムをシンプルにし、改修しやすくするのが狙いです。

さらに、商品マスターを含むすべてのマスターデータ管理基盤も刷新。店舗とECサイトが共通マスターを使って業務を進められるようにしました。これまでは店舗向け商品マスター、ECサイト向け商品マスターといった具合に、店舗とECサイトで異なるマスターを活用していました。

――店舗とECサイトの在庫をついに一元化したわけですね。

野口:はい。在庫を一元管理したことで、各店舗の在庫も含めてどこにどのサイズの靴が何個あるのかを容易に把握できるようになりました。アプリと組み合わすことで、お客様に寄り添う接客に時間を費やせるようになったのです。満足度の高い顧客体験を提供することも可能です。顧客起点を前提とする素地をようやく整えられたと考えます。

当社は「モノを届ける」ことにこだわっています。そのための仕組みづくりに余念がありません。誤解を恐れずに言えば、アプリの見栄えなんて二の次です。見栄えをよくするためにコストを投じるより、お客様が欲しいタイミングで商品を届けられるようにすることにコストを注ぎます。エービーシー・マートとして何を大切にするのか。この軸をブラさないことがシステム構築でも強く求められると考えます。

――店舗とECサイトともに、顧客ニーズをとらえる運用体制を迅速に構築したことに感心します。新たな取り組みに対し、野口社長がトップダウンでアクセルを踏み続けられることが改革を後押ししていると感じます。

林:野口社長を含む経営層が、システムの開発や構築に深く関与しているのが他社との大きな違いです。システムを使って何を目指すのか、ITでどんな課題を解消したいのかなど、目的や手段を明確に打ち出すことができるのもエービーシー・マートの強みです。システムを開発する当社もエービーシー・マートの狙いを理解しやすく、開発をスムーズに進められたと思います。

――野口社長はシステムの開発や構築で気を付けていることはありますか。

野口:私自身、ITを専門的に学んだ経験はありません。しかし、要件定義には十分注意します。要件定義が曖昧だったり不完全だったりすると、システム開発は暗礁に乗り上げ、導入プロジェクトは必ず失速します。当たり前のことですが、何のためのシステムか、どんな課題をどんな機能で解消するのかをきちんと整理、把握することが何より大切だと考えます。

――野口社長は今も店舗で定期的に接客されていると聞きます。こうした経験もシステム開発や顧客ニーズの把握に役立っているのではないでしょうか。

野口:現場で経験したことは何よりの財産です。現場が何に手間取り、どんなことに困っているのかは、店頭に立たなければ分からないこともあります。私が手間取っていることを解消すれば、店舗スタッフ1万人の手間が解消される。こう考えると、手間を解消する取り組みって非常に有益になるわけですよね。

なお、当社ではECサイトを運営するチームのメンバーも毎週、店舗スタッフとして接客に従事しています。ECサイトの担当者だからECサイトの売上だけ目標達成すればいい、という考えはありません。全社員が店舗にどれだけ貢献できるか。こうした風土が根付いていると感じます。

――店舗スタッフ向けアプリの開発や基幹システム刷新を推進したecbeingの功績も見逃せません。野口社長はecbeingの取り組みをどう評価しますか。

野口:ecbeingの中に当社の専門チームを作ってもらいました。このチームメンバーが頻繁に変わらない点は、頼もしくありがたいですね。当社のシステムに長く関わるメンバーなら、社内用語も問題なく通じます。iChockというサービス名はもちろん、当社ならではの在庫の呼び方など、一般的に聞きなれない言葉を理解してくれるのは助かります。外部のメンバーと社内用語で会話できれば、システム開発は大きく加速します。その意味でecbeingのメンバーとのやり取りには安心感を覚えますね。

ecbeingの担当者の説明が分かりやすいのも評価すべき点です。難解なIT用語を並べることなく、素人でも理解できる説明を心掛けている。システム開発に携わる当社のチーム内は、こうした声で溢れていますね。

林:ありがとうございます。とてもうれしい言葉ですね。

野口:ecbeingが開発したシステムは秀逸な仕組みであると認識しています。当社の販売スタッフに使い方を教育せずとも、自然と使い出しているのを見てそう感じます。新しいシステムといえば、操作さえままならないものが少なくありません。しかし、販売スタッフの多くが近隣店の在庫を調べたり、EC用の在庫を確認したりするのに使っています。便利であることが分かれば、使わない手はないですよね。「良い仕組みであれば皆使う」。ecbeingはまさに良い仕組みを具現化してくれたのだと思いますね。

林:ありがとうございます。エービーシー・マートの店舗スタッフは、システムを活用することを自分事として捉えています。他人に任せればよいと考える店舗スタッフはいません。こうした前向きな姿勢が、システムの利活用を促進させているのだと感じます。

写真3:これからの顧客体験やあるべきシステム像などをテーマに、両氏の話は膨らんだ

新たな関係構築で次のステージへ

――顧客データ基盤を構築したことで、顧客の利用状況に応じた施策を展開しやすくなります。例えば優良顧客、ロイヤルカスタマー向けに新たな施策を打ち出すなどの予定はありますか。

野口:当社はお客様に対し、ランクを付与するなどの取り組みは一切していません。当社のポリシーとして、すべてのお客様に同じサービスを提供することを心掛けています。

マーケティングツールを扱う外資系ベンダーの中には、ロイヤルカスタマー向けの施策の重要性を訴求するケースが少なくありません。しかし国や商材などの特性に応じて、その必要性はすべてに当てはまるとは限りません。あるECサイトで買い物をしたら「ダイアモンド会員」になっていたのに、久しぶりにECサイトにアクセスしたら「ブロンズ会員」になっていたら気分悪いですよね(笑)。店舗やECサイトを利用するお客様に対し、気分を害するような取り組みを、コストを投じてまで実施したくはありません。

――ポイントカードなどを使った取り組みを強化するのでしょうか。

野口:これまで紙だったポイントカードをアプリ化し、アプリ上でポイントをためられるようにしています。アプリ会員向けにさまざまなサービスを提供するなど、アプリを使った施策を強化します。アプリで大切なのは、お客様である会員とつながるということ。エービーシー・マートとしてどんなキャンペーンを展開するのか、どんなサービスを用意するのかなどの情報を発信する環境は、今後ますます重要になるでしょう。購買方法が多様化する中でも、すべてのお客様に偏りなくサービスを提供するにはアプリが欠かせません。価値ある顧客体験を提供するためにも、会員との接点を大事にしたいと考えます。

――エービーシー・マートとして今後の展望や計画があれば教えてください。

野口:基幹システムを刷新するとき、ecbeingに無理なお願いをしました。「ecbeing」の機能の一部だけを取り出して販売できないかという相談です。つまり、当社が内製化すべき領域と、引き続きecbeingに開発を支援してもらう領域を分けられればという考えになります。ecbeingのシステムや支援体制をこれまで同様に継続利用するのではなく、両社の関係を次のステージに引き上げたい。こんな構想を描いています。

林:当社としても専門チームを発足し、今後どんな体制であるべきかを模索しています。これまで同様、エービーシー・マートとの対話を重ね、両社がともに成長する関係を継続できればと考えます。

野口:当社にとって店舗とネットの融合はまだ始まったばかりです。今後は顧客のリピート率をどう高めるかなど、取り組むべき課題は山積しています。こうした課題に対し、ecbeingとどう取り組むか。発展的な関係で乗り越えられえばと思います。

林:お客様と一緒に成長したい。これは当社の理念です。この理念を実現する一社がエービーシー・マートです。システム構築に際し、アドバイスを求められる立場ではありますが、一方で当社がエービーシー・マートに相談することもあります。こんなWin-Winで対等の関係こそ望ましいと思います。両社の新たな未来を描くためにも、これまでの枠にとらわれない一歩をともに踏み出したいと考えます。

――野口社長、林社長、本日は貴重なご意見をありがとうございました。

野口、林:ありがとうございました。


株式会社エービーシー・マート
https://www.abc-mart.net/shop/

株式会社ecbeing
https://www.ecbeing.net/

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