ITを駆使した延長保証サービス「proteger」を提供するKiva。ユーザーや企業にとどまらず、社会課題も解決できる強みを全面に打ち出します。protegerを利用することでどんなメリットを見込めるのか。さらには社会にどう貢献するのか。Kiva 代表取締役の野尻航太氏がprotegerに込めた思いを、デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏が聞きました。
延長保証によって安心・安全を訴求
鈴木:Kivaはどんな事業を展開しているのでしょうか。会社の自己紹介をお願いします。
野尻:当社は、「proteger(プロテジャー)」という延長保証サービスを提供する会社です。ユーザーが商品などを購入すると、一般的にはメーカーが保証期間内に限って故障時の修理などを保証します。当社の延長保証サービスは、こうしたメーカーによる保証期間終了後、保証期間を延長できるようにします。メーカーと同等の保証を簡単に延長することが可能です。
鈴木:延長保証ってあまり馴染みがありません。御社以外もこうしたサービスを提供しているのでしょうか。
野尻:延長保証の歴史は約30年と言われていますが、日本では十分根付いていないのが現状です。しかし、大手家電量販店の中には、延長保証サービスを提供するケースが見られます。iPhoneなどの修理を保証するアップルの「Apple Care」は、代表的な延長保証サービスとして認知されています。
鈴木:野尻社長はなぜ、延長保証サービスを事業として展開しようと考えたのでしょうか。
野尻:私がKivaを起業するとき、「三方よし」のビジネスモデルを模索していました。このビジネスモデルを実現する1つが、延長保証サービスだったんです。
商品を購入するユーザーは、延長保証サービスがあることで安心して商品を購入できるようになります。商品をより長く使い続けられるのも利点です。一方、延長保証サービスを提供するEC事業者などは、ユーザーに対して安全や安心を訴求できるようになります。ユーザーに安心感を与えることで、高額商品を購入する敷居も下げられます。さらにprotegerの場合、ユーザーが申し込んだ延長保証サービス料の一部が事業者の収益となります。商品の売上以外の新たな収益を見込めるのもメリットです。ユーザーと事業者双方にメリットがあるとともに、当社も当然利益を見込めるわけです。ただし現在は、「三方よし」から「四方よし」のビジネスモデルに変わりつつあります。
鈴木:というと?
野尻:社会課題の解決に貢献できる利点もあります。最近は持続可能な社会が求められ、大量生産・大量消費から抜け出そうとする機運が高まりつつあります。特にPCやスマートフォンなどといった、いわゆる“電子ゴミ”をどう処分するのかは大きな社会問題です。日本に限ると、電子ゴミの排出量は2021年のデータでは257万トンに上ります。しかも、リサイクルされる割合はそのうちの17%にとどまります。
家電リサイクル法などが整備されるものの、電子ゴミの不法投棄は今も決して珍しくありません。中には海外で廃棄され、環境汚染を招く要因にもなっています。延長保証サービスによって商品を長く使い続けられるようにすれば、こうした課題解決に寄与できると自負します。protegerを通じ、環境問題に一石を投じられるのではと考えます。
30%を超える延長保証の加入率
鈴木:protegerの特徴を詳しく教えてください。
野尻:ECサイトを利用するユーザーに安心を提供できるのが大きな特徴です。protegerを申し込んだ事業者のECサイトには、商品購入画面に延長保証を申し込むためのボタンが装備されます。ユーザーは商品購入時、このボタンをタップするだけで延長保証を申し込むことができます。従来は別の画面上で氏名や住所、連絡先などを登録しなければなりませんでした。しかしprotegerの場合、ECサイトの登録者情報をもとに延長保証も申し込めるため、別途入力手続きは必要ありません。なお、protegerの延長保証を申し込むには、ECサイトの商品購入画面から申し込む方法に加え、保証会社が提供する延長保証サービスにユーザー自身が申し込む方法もあります。
鈴木:保証書は後日発送されるのでしょうか。
野尻:いいえ。保証書を電子化し、メールやSMS経由で届けるようにしています。保証番号か登録済のメールアドレスを使って修理などを容易に依頼することが可能です。これまでの保証書といえば紙が一般的でしたが、多くの人が紛失してしまいがちでした。protegerの延長保証サービスを申し込めば、こうした煩わしさも解消できます。
もちろん修理体制も整備します。当社は修理を請け負うパートナーと契約し、全国に約400カ所の修理拠点を設けています。例えばエアコンを出張修理したり、PCやスマートフォンを宅配修理したりすることが可能です。商品に不具合が起きたら、チャットを使って必要事項を入力するだけで対応します。電話やメールは不要で、24時間365日、チャットで受付対応しています。ユーザーが安心して商品を購入するためのサービスづくりに余念がありません。
鈴木:一方、延長保証サービスをECサイトに実装する事業者は、導入に手間などはかからないのでしょうか。
野尻:ECサイトの構造によりますが、一般的には1~2日程度で実装を終えられます。非エンジニアの人でもECサイトに容易に組み込めるよう配慮しています。
さらにEC事業者の場合、延長保証を申し込んだ顧客情報を保証会社に報告するといった作業がこれまでは必要でした。月次でこれだけの人が申し込みましたと報告していましたが、protegerを使えばこうした手間もなくなります。protegerと保証会社のシステムをAPIで連携し、延長保証を申し込んだ顧客情報の報告を自動化しています。EC事業者の中には延長保証サービスをユーザーに提供したいと考えつつも、報告などの手間を気にするあまり二の足を踏むケースが見られました。protegerを導入したEC事業者には、こうした手間がかからない点を評価してもらっています。
鈴木:具体的にどんな商品に延長保証を付与するケースが多いのでしょうか。
野尻:エアコンや冷蔵庫などの家電製品、PCやスマートフォンなどの電子機器で延長保証を申し込めるようにするEC事業者が多いですね。さらに時計やカバン、ゴルフクラブ、アウトドア用品などと、高額な商品を中心に対象も広がりつつあります。延長保証を申し込むユーザーの中には、「意を決して購入した高額商品がすぐに壊れたら…」と考える人が少なくありません。そのため、頻繁に購入しないもの、購入するかどうか迷いがちな高額なものに対し、延長保証を付与するEC事業者が目立ちます。
鈴木:実際に延長保証を申し込むユーザーの割合はどのくらいでしょうか。
野尻:当社の調べでは、現在の加入率は平均で30%を超えます。家電製品に限れば、延長保証を申し込むユーザーの割合は60%を超える、そんなEC事業者もありますね。延長保証に対する潜在的なニーズは大きいと考えます。
鈴木:protegerを導入して効果を上げた事例があれば教えてください。
野尻:PCの通販サイトを展開するアプライドは、protegerを使って効果を上げた1社です。PCのほか、PCパーツや周辺機器などを取り扱うECサイトで延長保証を申し込めるようにしています。延長保証の加入率は62%と高く、延長保証を簡単に申し込める点を評価してもらっています。
そのほか、テレビ東京のテレビショッピングと連動するECサイトでは、ゴルフクラブに延長保証を付与しています。さらにはキングジムなど、さまざまな取り扱い商品に延長保証を付与する動きが見られます。protegerを導入する事業者は数百社、延長保証を申し込める商品点数は40万点に上ります。
普遍的かつシンプルなビジネスモデルを模索
鈴木:protegerの今後の機能強化などの予定があれば教えてください。
野尻:「proteger instore」と呼ぶリアル店舗向けの延長保証サービスを提供開始します。2023年のうちに、まずは全国の約30店舗でサービスを提供します。「proteger instore」では店舗で商品を購入後、当社が用意する管理画面上に必要事項を入力して延長保証を申し込めるようにします。あとはECサイト同様の延長保証サービスを受けることができます。保証書は電子化され、修理もWebサイト経由で申し込めます。
鈴木:延長保証のオムニチャネル化というわけですね。
野尻:はい。商品を販売する事業者はECサイトか店舗かを問わず、ユーザーに同じ購買体験を提供できるようにしたいと考えているはずです。そこで当社は「proteger instore」を通じて、延長保証という分野で事業者のオムニチャネル化を支援できればと考えます。今後はEC事業者にとどまらず、リアル店舗を展開する事業者向けの事業も本格的に展開していく考えです。
鈴木:Kivaとして今後の事業計画などはありますか。
野尻:Webサイトの視認性や利便性向上を支援するサービスの提供を予定しています。すべての人が平等にWebサイトを利用するWebアクセシビリティへの対応が、必要とされています。例えば、小さな文字が読みにくい高齢者向けに文字サイズを調整したり、文字がぼやけて見づらい弱視者向けに音声で読み上げたりする機能を実装しなければならなくなります。こうした機能の実装を支援するサービスを年内に開始します。
Webアクセシビリティ対応への動きは、一部の大企業にとどまっているのが現状です。文字の調整や音声読み上げ、Webページ内の色の調整など、対応するにはさまざまな機能を備えなければならず、多くの企業で対応は十分進んでいません。そこで当社は、簡単にWebアクセシビリティ機能を実装できるサービスを提供します。導入するには1行のコードをWebサイトに組み込むだけ。即日で実装できるようにすることで、対応に要する企業の手間を解消します。
鈴木:protegerに続く次の一手を打ち出すわけですね。野尻社長は新サービスを模索するとき、どんなビジネスモデルを描くようにしていますか。特に意識していることがあれば教えてください。
野尻:事業として成り立たせるなら、どこにも歪みのない、無理のないビジネスモデルが望ましいと考えます。短期的に成功しても、長期的な成功は見込めないからです。10年先を見据えたとき、ビジネスモデルとしての礎をしっかり築けているかどうか。足元の利益ではなく、どう成長するのかという視点を見失わないことを意識するようにしています。
鈴木:短期的な利益より、息の長いビジネスモデルを描こうとする姿勢に感心します。
野尻:ありがとうございます。個人的には好奇心が強く、物事の本質を常に探りたいと思っています。必死に考えて考え抜いた結果、1つのビジネスモデルだけが残った。そんな感じでビジネスモデルを模索している気がしますね。
protegerにも当てはまりますが、普遍的なビジネスモデルを打ち出したいという思いが強くあります。「保証」って昔からあるし、形を変えたとしても今後も残り続けるはずです。時代が変わっても常に求められることこそ、ビジネスモデルの源泉と言えるのではないでしょうか。加えてシンプルさも重要です。サービスを設計するとき、普遍的な価値を提供するとともにシンプルであるかどうか。何より大切に考えるようにしています。
鈴木:野尻社長のような若い経営者が新たな道を切り開いていってほしいと願います。日本は少子高齢化や人口減などの問題を抱えていますが、そんな中でも可能性を広げていってほしいですね。
野尻:私自身、常に大きな「問い」を探し、その答えにどこまでたどり着けるのかを意識しています。答えを探した先には必ず可能性がある、そう信じて歩み続けることが大切だと考えます。そのためには「これで十分」「これくらいでいいや」と安易に満足してはなりません。ただ頑張るだけでもいけません。どのように答えを導くのかを模索し、どう戦うのか、どう社会に貢献するのかを常に考えていかなければいけないと思います。こうした姿勢であり続ければKivaの価値を最大化できるし、当社の影響範囲をさらに広げられると信じています。
鈴木:素晴らしい考えですね。御社が今後、どう成長し、どんな影響を世間に与えるのか。すぐに楽しみです。本日は貴重なご意見、ありがとうございました。
野尻:こちらこそありがとうございました。
株式会社Kiva
https://hi.helloproteger.com/