「より良い暮らしを実現する」がアイロボットの原点
鈴木:挽野さんがアイロボットジャパンの社長に就任された経緯について。これまでのご経歴も含めて教えてください。
挽野:学生時代にヒューレットパッカード(HP)の計測器に魅せられ、新卒でHPに入社したんです。実際には計測器事業にはかかわらず、パソコンとプリンティング事業に携わった後、縁あって音響機器のボーズ(BOSE)の日本法人の社長を4年ほど務めさせていただきました。
BOSEとアイロボットの本社は、米国のボストン地域にあるんです。BOSEのOBがたくさんアイロボットで働いていることから、5年前にアイロボットの日本法人立ち上げがあった際に声をかけていただいて、今に至ります。
鈴木:アイロボットといえばロボット掃除機「ルンバ」ですね。ITで家事の負担を軽減するという発想、そこに価値をどのように見つけたのか、教えてください。
挽野:31年前にアイロボットを立ち上げた現CEOのコリン・アングルが、もともと虫の動きに興味を持っていたんですね。虫の脳は決して大きくなく、モノに接触したり接地したりして自律的に動く点に着想を得たようです。
そこで優れたコンピューティングデバイスに頼らず、周りのモノを感知しながらうまく動くためにはどうすればいいのかという観点から、エンジニア(ロボット工学者)の彼が開発したのが原点です。
現在は家庭用のロボット掃除機「ルンバ」に注力していますが、もともとはNASAと提携し、火星などの惑星探査ロボット、人が入れないピラミッドの探査ロボットや紛争地域で人の代わりに働く地雷除去ロボットなどを手がけてきました。そのため、アイロボットのロボット開発コンセプトは、人間を凌駕するものではなく、よりよい暮らしを実現する実用的なロボットを世の中に送り出すことです。
鈴木:これから、どのような方向性を考えているんですか?
挽野:ロボットを通して人々の暮らしを豊かにする、そこは今後も全くブレません。基本的にアイロボットは、家電メーカーではなくロボットメーカーなんですよね。
ルンバの優れた点として、実は部屋の中を可視化できるんです。ルンバが掃除しながら部屋の中を動き回ると、グーグルマップのようにマップ情報を蓄積できる。その情報と生活する人の動きをつなげて、より利便性が高くかつエコで安全な生活をサポートする存在になりたいという構想があります。例えば部屋に入ると自動的に点灯し、2階に上がったら1階の部屋が消灯する、といったイメージです。実際に実現するまでには相当時間がかかりそうですが、そのような構想をあたためています。
鈴木:アイロボットに入社するとき、CEOからその構想を聞いていたんですか?
挽野:6年前ですね。20人くらいとの面接がありまして、コリン・アングルとも話す機会があり、将来の構想を聞きました。
鈴木:挽野さんご自身の、心の変化などもお聞かせください。
挽野:世界を舞台に仕事ができればと考えて、憧れのHP社に入社しました。そこで配属されたパソコン事業では、フランスに赴任してグローバルマーケット向けの製品企画や事業企画に携われたので、とても勉強になりました。私の中では、カルチャーインテグレーションも大きなテーマとしてあります。2002年に、HPとコンパックの合併を経験しましてね。
鈴木:ありましたね。
挽野:HP初の女性CEOが主導した一大プロジェクトでした。違う企業文化を融合させるためにはすさまじいエネルギーが必要で、しかもうまくいくケースとうまくいかないケースがあるという現実を体験して大変勉強になりました。その後、プリンティング事業の事業構造変革などに従事したのち、フランス出身の元HPの友人の縁があってBOSEに入社しました。
アイロボットの場合は、前身の代理店が日本での基盤をかなり確立していて、私としてはこの日本の代理店とアメリカの会社を融合して新しいカルチャーを作る点にモチベーションを感じたワケです。
鈴木:なるほど、アイロボットには企業文化があるワケですね。挽野さんからみてアイロボットの良さとは何ですか?
挽野:お互いに尊重しながら物事を進められる点です。さまざまな人の意見を聞いて1つの方法を生み出すという点が、素晴らしいと感じています。つまりコラボレーションする力のことです。
2020年にコリン・アングルのことを綴った「共創力」という本が日本で出版されたんですが、この「共に創る力」がアイロボット社のキーワードです。この「共創力」をかみしめながら働いている社員は多いと思います。
ユーザー視点を取り入れることがDXを成功に
鈴木:コロナ渦で、我々の価値観が大きく変わりました。同時にDXは、かなり注目されるようになりましたね。このような状況の中、アイロボットの取り組みにおいて、何らかの変化はありましたか?
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