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インタビュー

変革を加速させるDXの可能性~【前編】IT導入ではなく人の意識改革に注視せよ~

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データやテクノロジを駆使し、企業や社会の変革をもたらすDX。推進することで私たちの生活や働き方はどう変わるのか。自社がDXを成功させるためには何が必要か…。ここではDXマガジン創刊企画として、総編集長の鈴木康弘と総合プロデューサーの大久保清彦による対談をお届けします。DXが求められる背景やDXによってもたらされる未来像などを前後編の2回に分けてお送りします。

人の変革こそがDXには必要

大久保:「DX」というキーワードが今、世間の耳目を集めています。しかし、DXの取り組みは今に始まったわけではありません。以前から多くの企業がITやテクノロジを駆使し、変革を起こさねばと認識していました。ただ、具体的に何をすべきか、どう変革を起こすのかが分からず、実践できないまま歳月が流れてしまったというのが今の状況でしょう。  私は以前、セブン&アイ・ホールディングスの一員として小売に携わっていたことがあります。今でこそネットショッピングを展開するなど、デジタル化に舵を切ってますが、当時はなかなか着手できずにいました。そんなときに台頭していたのがAmazonや楽天といった、いわゆるネット企業です。店舗に行かずとも買い物できたり、自宅に商品を届けたりする仕組みは、消費者のこれまでの購買行動モデルを劇的に変えました。ネット企業の取り組みはデジタル化の可能性を示す好例で、当時の小売業界にとっては「変革」そのものでした。 鈴木:セブン&アイ・ホールディングスの一員としてデジタル化戦略を主導してきた私も、ネット企業の取り組みを目の当たりにしてきました。デジタル化は、これまでの世の中の仕組みを「破壊する」だけの可能性を秘めていると感じました。  私は以前より、ITの活用を突き詰めれば世の中が楽になる、そう思っていました。しかし、突き詰めても仕事は一向に楽にならなかった。なぜか。ITは導入すればいいというものではないのです。使い手である私たちが変わらなければ楽になんてなりません。デジタルを駆使した仕事や社会を私たちがどう受け入れ、どう使いこなすかに主眼を置くべきです。デジタル化した仕事や社会そのものには、必ずしも意味はないのです。人の変革こそが「破壊する」ための前提として必要だと考えます。 大久保:デジタル化の契機になっているのが、やはりインターネットの登場でしょう。社会が変わった裏側には、必ずといっていいほどインターネットを前提としたシステムが使われています。 鈴木:そこでもやはり、人がインターネットというテクノロジをどう使いこなすかが求められます。例えば企業に目を向けると、これまでの縦割り組織に横串を通す手段としてインターネットが使われました。サイロ型の縦割り組織構造にメスを入れ、部署間で連携できる体制を構築しやすくするのに一役買ったのです。部署間のコミュニケーションやスケジュール管理を支援するシステムが使われ、必要なタイミングで必要な情報にアクセスできるようになったのです。  大事なのは、ここまでが「デジタル化」ではないということ。この仕組みを使いこなして部署間の壁をどう取り除くのか、その上で変革をどう起こすのかまでを追求すべきです。これらは人の意識が変わることで始めて具現化するのではないでしょうか。

今後10年はDX時代に

大久保:「DX」は企業や社会にとってのインフラとして馴染むべきです。これからはDXが浸透、定着する時代になると考えます。 鈴木:歴史を振り返ると、農業革命、産業革命に続くのが情報革命です。1990年代後半から2000年代初頭にかけて情報革命は始まり、私たちは今まさに情報革命の最中にいます。  情報革命のカギはやはりインターネットです。インターネットでつながって情報を共有できるのはもちろん、時間や場所といったこれまでの制約すら取り払われるようになります。例えばリモートワークの実施によって通勤時間を考える必要がなくなったり、オンライン会議の実施によって現地まで足を運ぶ手間がなくなったりし、これまで考慮すべきだった時間や場所という概念から解放されることになります。  情報革命は今後、何十年、何百年かけて進んでいくことになるでしょう。このとき、その期間をさらに数年単位で区切ったときの現在こそが「DX時代」だと考えます。例えば、オイルショックやバブル崩壊、リーマンショックなど危機を脱した後、これまでは何かしらのトレンドやブームが到来しています。バブル崩壊後はITによるコスト削減、リーマンショック以降はスマートフォンといった具合です。この変遷を汲むと、現在直面する危機はまさに「新型コロナウイルス感染症のまん延」です。2021年はこの危機を脱し、次のステージへ進む年になるでしょう。このときのトレンドが「DX」です。  すでにその兆候は見られます。例えばイベントやセミナーはオンライン化し、会場に集客しない開催方法が定着しつつあります。飲食業界では、事前に注文を受け付けるモバイルオーダーやキャッシュレス決済が浸透しています。コロナという危機から脱却するための方策として、DXに注目する企業が増えています。  さらに「5G」の登場も後押ししています。大容量、高速通信が可能な5Gを使えば、これまで不可能だったシステム構想を実現できるかもしれません。企業はこうした潮流に乗り遅れず、トレンドや動向をつかんでコロナ危機から脱却する方法を模索することが大切です。 大久保:DXやデジタル化はこれまで、企業内の特定部署の取り組み、という位置付けでした。しかし、危機を乗り切るための手段と考えるなら、全社に根付くインフラになるべきです。開発や製造、営業などといった部署ごとの目標を達成するために取り組むのではなく、企業が抱える課題を乗り越え、自社が描く理念をなし得るための手段にすべきです。さらには業界横断や社会貢献といった目的まで見据えて取り組むべきだと考えます。 鈴木:同感です。特別な取り組みではなく、自社にとって自然な存在としてDXやデジタル化はあるべきです。  私はDX推進をコンサルティングするという仕事柄、多くの顧客と話をする機会があります。そこで感じるのは、「DX=システム導入」だと考える顧客が多いこと。さらにカスタマイズが前提で、自社固有の業務に合わせてシステムを改修するのが当たり前だということ。例えるなら、家1件ずつ井戸を掘っているようなものです。そうではなく、他部門や他企業、他業種が使うことも視野に入れたシステムを構想すべきだと思います。蛇口をひねれば水が出てくるような仕組みを皆で一緒に考えよう。これがDXのあるべき姿と考えます。  もちろん、そこには高い壁があるでしょう。他部署や他企業、他業種を巻き込むなら、データの共通化や業務プロセスの標準化などに取り組まなければなりません。高い壁ゆえ、DXに躊躇する企業も少なくないでしょう。  しかしこの課題こそがDXの本質で、成功させるには残り超えなければならない課題でもあります。私は顧客に対し「DXはシステムを導入して終わりではありません」とよく言います。さらに「DXは業務改革です」「DXは人の意識改革です」とも言います。井戸ではなく水道網をどう整備するか。この難題に立ち向かう姿勢がきわめて大切なのです。

成功体験にとらわれない意識改革を

大久保:企業価値を引き上げる取り組みの1つとして、DXの重要性は増しています。DX推進を打ち出さない企業の時価総額は必ずしも上がりません。数十年前の世界時価総額ランキングを見ても、DXに対して積極的な姿勢を示せなかった企業は生き残っていない。企業価値を高める指標として、DXは注目されています。  SDGs(持続可能な開発目標)やESG(社会的責任)投資も、企業価値を引き上げる指標の1つですが、これらを推進するためにもDXが不可欠です。  企業にとって、売上拡大に向けた施策だけを考えればいい時代は終わりました。それに加え最近は環境やガバナンスなど、社会にどう貢献するのかも求められる時代です。こうした課題にどう立ち向かうか。業務プロセスの無駄を洗い出し、生産性や効率性を追求するといった取り組みだけでは不十分です。環境配慮型の新規事業を創出したり、リスクを極小化する社会規範のもとで自社を運営したりするためには、ITやテクノロジを駆使した仕組みづくりが欠かせません。自社内でDXの必要性に迫られることに加え、自社を取り巻く外的要因がDXを求めているという認識も持ち合わせるべきでしょう。 鈴木:日本が直面する高齢化社会も、DXに取り組まなければならない理由の1つです。100歳まで生きるのが当たり前になりつつある中、社会保障の問題などが顕在化している。こうした社会の変化に追随し、どう対処するか。このときの解決策にDXを生かすべきです。ただし、DXはあくまで手段です。高齢化社会を支える仕組みとしてDXに取り組み、その仕組みを生かすかどうかはあくまで人であることを忘れてはなりません。  もっとも、課題解決の具体的な施策はそうそう生まれるものではありません。アイデアを事業として具現化するのも容易ではありません。多くの企業は、変革をもたらすアイデアをどう創出するかで悩んでいることでしょう。  このとき大事なのが壁を乗り越えること。同じ事業部内でアイデアを持ち合わせても、大胆な発想は必ずしも生まれません。部署や企業、業種の壁を越え、無限の可能性を模索すべきです。今はインターネットでつながる情報革命の最中です。これまで乗り越えるのが困難だった壁も、比較的容易に乗り越えられるかもしれません。考えたこともないアイデアの創出を目指し、多くのアイデア同士を掛け合わせることが大切です。  「これまでこうだった」という成功体験に引きずられるのも好ましくありません。以前のアイデアが成功したからといって現在の課題を解消できるとは限りません。こうした考えが新しいアイデア創出の邪魔になることもあります。過去の施策や成功にとらわれることなくゼロから着想すべきでしょう。

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