半数近くの企業がいまだに情報収集や取り組みをしていない状況である――。これは、DXの実施状況について、電子情報技術産業協会(JEITA)が2021年1月21日に発表した調査結果の一節です。米国企業と比べると、日本企業のDXへの出遅れ感は否めません。ここでは調査の概要を紹介します。
半数以上の日本企業がIT予算を増やす傾向に
JEITAはIDC Japanと共同でDXに関する調査を実施しました。従業員数が300人以上の民間企業を対象に、2020年8月~9月にかけて取り組み状況などを調査しています。回答数は日本企業が344社、米国企業が300社です。
まず、今後のIT予算について聞いた結果が図1です。「増える傾向にあると思う」と答えた日本企業の割合は58.1%で、半数以上の企業が積極的なIT投資を進めていく考えを示しています。
via 出典:2021年JEITA / IDC Japan調査
もっとも米国企業の割合は71.0%で、日本企業の割合より12.9ポイント高くなっています。日本企業は2017年調査時と比べ、IT予算を増やそうとする割合は増えたものの、米国企業のIT投資に対する姿勢とは開きがある結果となりました。「減る傾向にあると思う」と答えた日本企業の割合は8.7%で、これも米国企業の割合より高くなっています。
米国企業の多くが市場や顧客の把握に予算を投下
では、予算をどんな用途に割り当ているのでしょうか。IT予算の用途を聞いた結果が図2です。
via 2021年JEITA / IDC Japan調査
日本企業の場合、「『働き方改革』の実践のため」や「ITによる業務効率化/コスト削減」と回答した割合が高くなっています。リモートワークに代表される働き方改革を推進するため、あるいは、無駄を洗い出して余計なコストを減らすために予算を割くケースが多いようです。
対する米国企業はどうでしょうか。「ITによる顧客行動/市場の分析強化」や「市場や顧客の変化への迅速な対応」と回答した割合が高くなっています。社外に目を向け、市場や顧客といった外的要因がどう変化しているのかを探るのに予算を割いています。社内改革に乗り出し、業務の生産性や効率性改善のために予算を割く日本企業とは対照的な結果です。
日本企業の5社に1社はDXに取り組まず
日本企業と米国企業では、DXの取り組み状況はどの程度違うのでしょうか(図3)。「全社戦略の一環として実践中」と答えた日本企業の割合は11.6%でした。対する米国企業の割合は9.3%で、日本企業の方が全社でDXに取り組む割合は多いという結果でした。
via 2021年JEITA / IDC Japan調査
一方、「部門レベルで実践中」と回答した割合は、日本企業が8.7%だったのに対し、米国企業は19.3%でした。「全社戦略の一環として実践中」と「部門レベルで実践中」を合わせた場合、日本企業の割合は20.3%なのに対し、米国企業の割合は28.6%で、「実施中」と回答した割合は米国企業が日本企業を上回りました。
「行っていない」と回答した日本企業の割合が米国企業の割合より大幅に多いのも特徴的です。「行っていない」と答えた米国企業の割合は2.3%にとどまるのに対し、日本企業の割合は15.1%と高くなっています。「DXを知らない」(5.2%)と合わせると、日本企業の5社に1社はDXに何も取り組んでいないことになります。
経営陣がDXに関与する割合は4割弱
DXに対する経営層の関わり度合いで日米企業の間に差は見られるのでしょうか(図4)。「DXの戦略策定や実行に経営陣自ら関わっている」と回答した割合は、日本企業が35.8%なのに対して米国企業は54.3%と半数を超えます。
via 2021年JEITA / IDC Japan調査
図3で「全社戦略の一環」としてDXを実践する日本企業の割合は米国企業の割合を上回ったものの、その取り組みに経営陣が関与する日本企業は必ずしも多くないのかもしれません。
米国企業は新規事業創出がDXの目的に
そもそもDXを推進する目的で、日米企業間に違いは見られるのでしょうか。当てはまる目的を3つまで選んでもらった結果が図5です。
via 2021年JEITA / IDC Japan調査
日本企業の場合、「業務オペレーションの改革や変革」が41.0%で一番多く、「既存ビジネスモデルの変革」(28.4%)、「新製品やサービスの開発/提供」(27.5%)が続いています。
米国企業の場合、「新規事業/自社の取り組みの外販化」が46.4%で一番多く、「新製品やサービスの開発/提供」(34.9%)、「顧客エンゲージメントの改善や変革」(34.6%)が続いています。
図2のIT予算の用途を調べた結果でも見られた傾向ですが、日本企業は現在の業務やビジネスモデルをどう変革させるかに主眼を置いています。一方の米国企業は、DXによって新規事業をどう創出させるか、自社の取り組みをモデルケースとして外販できないかといった目的を視野に入れていることが分かります。
コロナ終息後を見据えたデジタル技術の動向を踏まえる
最後に新型コロナウイルス感染症の影響について聞いています。新型コロナウイルス感染症が自社のDXの推進にどう影響したのかを聞いた結果が図6です。
via 2021年JEITA / IDC Japan調査
日米企業とも「DXとして取り組む領域が増え、予算や体制が拡大」と答えた割合が一番多くなっています。
一方で日本企業に限ると、「DXに関する予算、体制など、『コロナ前』と大きく変わらない」と「一時的にDXへの取り組みがストップ」と答えた割合がともに23.6%でした。新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業と受けない企業が同じ割合で二分されていることが分かります。
新型コロナウイルス感染症が終息したとき、デジタル技術にはどんな変化が起こるのかも聞いています(図7)。
via 2021年JEITA / IDC Japan調査
日本企業の場合、「働き方の大規模な変化」(33.7%)、「セキュリティや『信頼』への要求高度化」(24.7%)、「業務の自動化領域拡大」(22.4%)が上位を占めています。
米国企業の場合、「業務の自動化領域の拡大」(38.0%)、「データを活用した意思決定範囲の拡大」(36.3%)、「より高速なネットワークを使ったつながり、データ収集意向」(35.7%)が上位を占めています。
働き方改革が一層進み、そのとき求められるデジタル技術の重要性が増すと考える日本企業が多いようです。対して米国企業は、自動化やデータ活用による領域拡大を支えるデジタル技術の重要性に目を向ける傾向が高くなっています。
本調査では、日米企業のDXの捉え方の差を確認することができました。米国企業のDXに対する姿勢や目的が必ずしも正解とは限りませんが、外的環境を調べるのに予算を割いたり、新規事業創出をDXの目的にしたりしているのは参考にすべき視点といえるでしょう。
特に日本企業はDXを業務改革で終わらせず、無駄なコストや時間の削減で生まれた余剰リソースをどう活用するのか、どんな新規事業を創出させるのかまで模索することが大切です。DXを推進させるなら、現状を変えるだけではなく、その先の青写真を描くところまで見据えて取り組むべきでしょう。