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いよいよ実用化? 電動キックボードを取り巻く現状を整理

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電車やバス、飛行機、タクシー…。これら交通手段の「移動体験」をITで変革する「MaaS(Mobility as a Service)」。最近は自動運転技術やタクシーの配車サービスなどが注目されがちですが、ここにきて新たな移動手段として高い関心を集めるようになったのが「電動キックボード」です。電車移動による「密」を回避できるほか、自転車や原付スクーターに代わる短距離移動の新たな選択肢として、利用に向けた整備が急ピッチで進んでいます。とはいえ、どこで乗れるのか、どんな車両なら公道で走れるのか、安全を担保するルールづくりはどこまで進んでいるのかなど、分からないことが多いのも事実。そこでここでは、項目別に電動キックボードを取り巻く動きをまとめます。

実証実験/公園や大学構内、公道で安全性や有効性を検証

 電動キックボードは現状、道路交通法上は「原動機付自転車」に分類されます。そのため、乗る際にはヘルメットの着用が義務づけられています。そのほか、車道を通行しなければならない、運転免許証が必要、車両にはナンバープレートやミラーの装着が必要などのルールがあります。  そこで電動キックボードを取り扱う企業の多くが、実用化に向けて独自の実証実験を進めています。人の往来が多いエリアで実証実験を行い、安全性を検証する実験が目立ちます。  例えばKINTONEは2021年3月、茨城県水戸市にある偕楽園で実証実験を実施。1日限定ではあったものの、来園者の周遊促進や偕楽園の職員の移動手段確保を目的に電動キックボードの可能性を検証しました。すれ違いや追い抜き、並走などのさまざまな条件下で走行して課題を探りました。同社は2020年4月から9月の期間中も、偕楽園の職員を対象にした実証実験を実施しています。近・中距離パトロール時の移動の効率化を検証し、徒歩以上、自転車程度の移動速度で、自転車よりも手軽に移動できることを証明しています。mobby rideも2020年11月より、福岡県福岡市東区にある国営海の中道海浜公園内で一般来園者向けの実証実験を実施しました。園内を移動する際の「パークモビリティ」としての有効性や安全性を検証しました。GPSと通信機能を使って車両速度を把握し、安全に配慮した形で園内移動を効率化できるかを調べました。
図1:mobby rideによる国営海の中道海浜公園内...

図1:mobby rideによる国営海の中道海浜公園内での実証実験のイメージ

 Luupは、近畿大学の東大阪キャンパス構内で実証実験を実施しました。学生や教職員を対象に、広い敷地を効率よく移動する手段として電動キックボードの安全性を検証しました。利用者は実際に料金を支払うようにし、有料シェアリングサービスという提供形態の有効性や課題も合わせて検証しました。なお、同社は公道での実証実験にも乗り出しています。2020年10月には、東京都千代田区の一部エリアで公道を使った実証実験を開始。電動キックボードを乗り降りするポートを複数設置し、実証参加者による電動キックボードの使用を通して、公道での安全性や社会受容性などを検証しました。エリア内外の回遊性が向上するのかなども調べました。
図2:Luupによる近畿大学で実証実験のイメージ

図2:Luupによる近畿大学で実証実験のイメージ

 EXxも公道を使った実証実験を実施済です。2020年11月から東京都渋谷区全域、世田谷区全域、神奈川県藤沢市全域、千葉県柏市の一部(柏の葉スマートシティ)で、普通自転車専用通行帯を電動キックボードが走行するときの安全性を検証しました。電動キックボードに適切な通行帯や保安基準を考える際の参考にします。

ポートの設置状況/居住者や来店者向けサービスを強化

 電動キックボードのシェアリングサービスが見込まれる中、乗り降りするポートを整備する動きも目立ちます。中でも、人が頻繁に行き来する賃貸建物や店舗にポートを併設し、居住者や来店者が気軽に利用できるようにするケースが見られます。賃貸建物や店舗側にとっても、居住者や来店者向けサービスの1つとして、満足度を高められるなどのメリットを見込めます。  こうした併設型のポート拡充に乗り出しているのがLuupです。例えば、同社は大東建託パートナーズと業務提携契約を締結し、大東建託パートナーズが管理する賃貸建物にLuupのシェアリングサービス用ポートを設置してもらうようにしています。当初は東京都世田谷区と目黒区にある賃貸建物3棟のみの設置ですが、大東建託パートナーズは今後のLuupの事業展開に合わせ、全国の主要都市での導入を検討していく考えです。そのほか、リアルゲイトは、管理する東京都港区のオフィス棟にポートを設置。入居者に割引サービスを提供するなどして利用促進を図ります。当初は小型電動アシスト自転車向けのポートですが、将来的には電動キックボードも使えるようにする予定です。
図3:大東建託パートナーズが管理する賃貸建物内のポート...

図3:大東建託パートナーズが管理する賃貸建物内のポートのイメージ

 店舗へのポート設置も加速させています。ファミリーマートは東京都目黒区にある3カ所の店舗にポートを設置。Luupのシェアリングサービスを利用できるようにしています。当初は小型電動アシスト自転車用ポートとして運用されますが、将来的には電動キックボード用ポートとしても使う予定です。Luupのシェアリングサービスを展開するエリア内のファミリーマート、数十店舗への拡大も予定します。なおLuupは、東急ストアや月極の駐車場にも小型電動アシスト自転車用ではあるものの、ポートの設置、拡充を進めています。
図4:ファミリーマートにあるポートのイメージ

図4:ファミリーマートにあるポートのイメージ

 Luup以外の企業もポート拡大の取り組みを進めています。福岡を中心に電動キックボード事業の展開を見込むmobby rideは、自転車のシェアリングサービスを展開するneuetと業務提携を締結。mobby rideが今後、福岡市内で電動キックボードのシェアリングサービスを展開する場合、 neuetが設置する自転車用ポートに電動キックボード用ポートを開設することを検討します。
 なお、ポートの整備・拡充ではないが、シェアリングサービスの利用促進を支援する動きもあります。多くのファッションブランド店を展開するアダストリアはLuupと資本提携を締結。店舗の来店に電動キックボードを使ってもらうことを視野に入れます。2021年7月からLUUP利用者向けキャンペーンを実施予定で、LUUPを使って特定店舗を訪れた来店者にカフェドリンクの半額券を提供します。電動キックボードの利用促進を図ることで、同社は店舗来店時の新たな顧客体験の提供できるようにする考えです。
図5:アダストリアが展開する店舗での利用イメージ

図5:アダストリアが展開する店舗での利用イメージ

アプリ/エリア拡大に応じてアプリ提供範囲も拡大

 電動キックボードのシェアリングサービス提供を見据え、スマートフォン用アプリで容易に利用できる仕組みを整備する動きもあります。ここでも先行するのはLuupです。同社は2021年4月、電動キックボードのシェアリングサービス用アプリ「LUUP」を提供開始しました。マップを使ってポートを探し、乗車可能な電動キックボードを予約する機能を備えます。マップ上でポートを選択すると、電動キックボードの空きを確認できます。返却するポートを探したり、事前に予約した返却先ポートを変更したりする機能も備えます。なお、アプリを利用するには会員登録が必要で、会員登録後には運転免許証の登録と確認テストを受講する必要があります。
図6:Luupの社スマートフォン用アプリ「LUUP」の...

図6:Luupの社スマートフォン用アプリ「LUUP」の利用イメージ

 なお、今回提供するアプリは、同社が電動キックボードのシェアリングサービスに先駆けて展開する、小型電動アシスト自転車のシェアリングサービス用アプリを電動キックボードに対応させたもの。同社は2021年1月、これまで未対応だったAndroid版をリリースしたほか、2021年5月には大阪エリア向けにアプリを提供開始するなど、サービスの拡充を進めています。  mobby rideの場合、専用アプリではなくLINEを使ってサービスを利用できるのが特徴です。LINEで友だち登録すると、電動キックボードのあるポートを探せるようになります。電動キックボードを開錠して使えるようにしたり、返却時の手続きをしたりするときもLINEアプリを利用します。また、LINEアプリを使って損傷報告や支払いエラーなどを問い合わせすることも可能です。チャットを使い24時間サポートに対応します。

車両/公道走行可能なモデルとして機能を拡充

 電動キックボードといえばシェアリングサービスを中心に盛り上がっていますが、一般向けに車両を販売する企業も増えています。  例えばカスタムジャパンは2021年3月、公道で走行可能な電動キックボード「eXs1」のアップデートを発表。フロントとリヤウインカーを装備し、ウインカーの横からの視認性を高める工夫も施しました。ウインカーを装着したことで、最高速度を時速20キロメートルから25キロメートルに引き上げています。バッテリーの充電所要時間は約3~5時間、走行可能距離は18~25キロメートル、重量は14キログラムです。
図7:カスタムジャパンの「eXs1」

図7:カスタムジャパンの「eXs1」

 FUGU INNOVATIONS JAPANも2021年3月より、公道で走行可能な電動キックボード「FG-EKR01-BK」を提供しています。ヘッドライト、バックミラー、警音器、テールランプ、ナンバー灯を装備するほか、質感の高いウッドデッキを採用してデザインにも特徴を打ち出します。そのほか、防水、防塵機能、パンクしないノーパンクタイヤ、折り畳み式などの特徴もあります。バッテリーの充電所要時間は約3.5時間、走行可能距離は約20キロメートル、重量は約13.8キログラムです。
図8:FUGU INNOVATIONS JAPANの「...

図8:FUGU INNOVATIONS JAPANの「b8ta Tokyo – Yurakucho」

 KINTONEが2020年12月に発表した「Kintone Model One」は、乗り心地にこだわった機能が売りです。大口径タイヤに改良して衝撃を吸収しやすくしたほか、電動モーターが音を抑えてスムーズに走行できるようにしています。3つのステップで折りたためる簡易な設計も特徴です。バッテリーの充電所要時間は約5時間、走行可能距離は13~18キロメートル、重量は12.5キログラムです。
図9:KINTONEの「Kintone Model One」

図9:KINTONEの「Kintone Model One」

 正式な販売は未定ですが、ユニークな車両もあります。AREVO INC.は2021年5月、3Dプリンタを使ってデザインをカスタマイズできる電動キックボード「Scotsman」を発表。現在はクラウドファンディングで開発資金を募集中です。カーボン複合材を採用して軽量化と高い耐衝撃性を備えるほか、接合部をなくしたことで美しいボディラインを再現します。そのほか、自動でロック・解除するスマートキー機能、スマートフォンで設定した目的地まで案内するカーナビ機能、GPSを使って盗難時でも場所を特定できるGPS盗難防止機能などを備えます。
図10:AREVO INC.の「Scotsman」

図10:AREVO INC.の「Scotsman」

 オオトモと中国のSegway-Ninebotブランドが共同開発した電動キックボード「J-MAX」は、シートを取り付けられるのが特徴。長・中距離移動も可能な「座れるキックスクーター」です。シートは取り外し可能なほか、本体を折りたたんで持ち運ぶこともできます。専用アプリも用意し、走行ルートや総走行距離、残航続可能距離などを確認できます。スマートフォンを専用スタンドに取り付け、カーナビとして利用することも可能です。2021年4月より、応援購入サイト「Makuake」で先行予約販売しています。
図11:オオトモとSegway-Ninebotブランド...

図11:オオトモとSegway-Ninebotブランドの「J-MAX」

特例措置/指定エリアでノーヘル走行がいよいよ可能に

 電動キックボードの利用促進の妨げとなっているヘルメットの装着義務や車道のみ通行などのルールを撤廃する動きも出始めています。より気軽に利用できるようにし、電動キックボードによる移動機会増加を図ろうというのです。具体的には、ヘルメットの着用を任意にしたり、自転車専用通行帯の走行を許可したり、一方通行路の双方走行を認めたりするなどです。  こうしたニーズに対し、経済産業省も動きました。2021年4月23日には「新事業特例制度」に基づく特例措置実施を発表。特定エリアに限り、ヘルメットの着用を任意にするなどの緩和措置を認めました。電動キックボードを使った事業を展開する認定事業者は、通行の安全性などを検証しながらシェアリングサービスなどの事業を実施できるようになりました。  例えば、認定事業者のLuupは、東京都品川区や渋谷区、新宿区などのほか、大阪府大阪市内でヘルメットの着用が任意となる電動キックボードのシェアリングサービスを始めました。まずは電動キックボード100台、乗り降りするポートを約200カ所用意し、順次台数やポート数を増やす予定です。前述のスマートフォン用アプリも提供開始するなど、ワンストップで利用できる体制を確立しています。
図12:Luupによるシェアリングサービスのイメージ

図12:Luupによるシェアリングサービスのイメージ

 同じく認定事業者のmobby rideも電動キックボードのシェアリングサービスを開始しています。福岡市中央区全域を対象エリアとし、指定の専用駐輪場間を自由に行き来することが可能です。Luup同様、電動キックボードを利用するには運転免許証が必要となるものの、普通自転車とほぼ同じ条件で公道を走行することが可能です。LINEや電話の即時対応が可能なカスタマーサポートも整備し、利用者の声をルールづくりなどに役立てる取り組みも並行して進めます。
図13:mobby rideによるシェアリングサービス...

図13:mobby rideによるシェアリングサービスのイメージ

 一方、走行中の事故も報告されています。2021年5月、大阪市内で電動キックボードに乗っていた男性がひき逃げ事故を起こして逮捕されました。歩道を時速約15キロメートルで走行し、歩行者の女性をはねて逃走しました。  走行可能な通行帯、右折時のルール、速度、さらには運転時の格好や荷物の重さや大きさなど、公道を安全に走行するには、自転車や原付スクーターとも違う電動キックボードならではのルールづくりが必要です。もちろん、運転手のマナーや意識も大切です。こうした課題をどう解消するか。MaaSの新たな担い手として注目される電動キックボードがヘルメットなしで実用化されるかどうかは、規制緩和が進む一方でこれらの課題を1つずつ徹底検証する期間がまだ必要なのかもしれません。

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