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日本オムニチャネル協会は2022年12月8日、DXマガジンと共催セミナーを開催しました。今回のテーマは「DXによる儲かるビジネスモデルへの進化- サプライチェーンの革新による全体最適の実現」。日本オムニチャネル協会関係者のほか、ローランド・ベルガーの小野塚征志氏をゲストに招き、サプライチェーンのあるべき姿を議論しました。
当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。
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全部署による健康診断で現状を把握せよ
原材料の調達から製造、販売などの一連の流れを管理するサプライチェーンマネジメント。データの取得・活用が進む中、多くの企業が取引先企業と連携したサプライチェーン構築に取り組み出しています。しかし一方で、不完全なデータ連携、フォーマットの不統一、需要変動への対応が遅いなどといった問題解決に取り組めずにいるケースは少なくありません。
今回のセミナーでは、サプライチェーン改革に踏み出してどう収益向上に結び付けるのか。そのために必要な考え方である全体最適の必要性を中心に紹介しました。 セミナーには、ローランド・ベルガーの小野塚征志氏がゲストとして登壇。日本オムニチャネル協会のSCM部会リーダーである小橋重信氏、齊藤孝浩氏、同協会理事の逸見光次郎氏とともに、収益力を強化するサプライチェーンマネジメントの考え方や取り組み方を紹介しました。
セミナー前半は小野塚氏が「DXによる儲かるビジネスモデルへの進化」と題し、講演しました。小野塚氏は冒頭、サプライチェーンマネジメントの目的を「サプライチェーン全体で最適化を実現することに他ならない。例えば調達プロセスでコストが下がった、輸送プロセスで効率化したといった効果は部分最適にすぎない。大切なのは、サプライチェーン全体で収益を上げられるかどうかだ。この視点でサプライチェーン改革に踏み込まなければならない」と指摘します。企業の収益力を高められるかどうかの視点を見失うべきではないと強調します。調達先の部品メーカーなどの取引企業を含むサプライチェーンを構築するなら、たとえ1社のコストが増えたとしても最終的に全社で利益を上げられるかといった視点も大事だと続けます。
その上でサプライチェーンを最適化するには、4つのステップで進めるべきだと小野塚氏は続けます。「現状の見える化」「目指す姿の設計」「戦略の策定」「計画・体制の構築」の4ステップです。
「現状の見える化」では、業務プロセスや組織、収益を可視化できるようにします。調達や生産、保管といった各プロセスの業務プロセスを見える化するほか、どんな責任を負う組織が各プロセスに関わっているのかも見える化します。さらに、各プロセスのコストがどれだけかかっているのかも把握できるようにします。「企業の“健康診断”ともいえる取り組みナシに、これからの目指す姿や具体的な施策は描けない。調達や生産、販売とプロセスごとの健康診断を実施する企業は散見されるが、『うちの部署は関係ない』と健康診断による見える化を進めない部署もある。サプライチェーン最適化は全社施策と位置づけ、すべての部署が健康診断に参加すべきだ」(小野塚氏)と言います。
その上で「目指す姿の設計」では、全社戦略や現状の課題を踏まえて目指す姿を明確にします。目指す姿は例えば、全社戦略が「顧客起点のものづくりによる売上の向上」であれば「顧客ニーズを速やかに開発・生産に反映するSCM」、全社戦略が「製造体制構築の最適化によるコストの最小化」なら「調達先を含めたQCDの全体最適を可能にするSCM」などといった具合です。全社戦略を実現する手段として、SCMをどうすべきかを模索するようにします。 現状の課題を構造化し、その解決に有効なサプライチェーンマネジメントを目指すのも大切だと小野塚氏は指摘します。「各プロセスの課題を洗い出し課題の真因を探ることで、SCMとしての目指す姿を描きやすくなる。データが連携していない、業務が属人化しているなどの真因をつかめれば、これらを解決できるSCMが目指す姿の1つとなり得る」と言います。
「戦略の策定」では、目指す姿を実現するのに必要な施策を具体的に落とし込みます。例えば、目指す姿が「顧客起点での価値提供」なら、具体的な施策として「メンテナンスサービスの展開による顧客の製品使用状況データの収集」「バーチャル・トラッキングによる生産・物流情報の連携」などが挙げられます。このとき、サプライチェーンに関わる担当者の貢献度やインセンティブを考えることも大切だと小野塚氏は指摘します。「一連の流れの中で各プロセスに携わる現場の取り組みや貢献度は見えにくい。自部署の目標しか見ない人も多い。こうした状況を想定し、サプライチェーンマネジメントを機能させる仕組みづくりに目を向けることも大切だ。収益に対する担当者や部署の貢献度を見える化したり、貢献度に応じたインセンティブを提供したりし、目指す姿の実現に向けてさまざまな取り組みが自律的に進むように考えるべきだ」(小野塚氏)と言います。
最後の「計画・体制の構築」では、マイルストーンの策定と推進体制を構築します。誰がいつまでに何をするのかといった計画を明確に定めます。最初のうちは2週間などの短いサイクルで進捗を報告・共有できるようにします。推進体制を構築する上で大切なのは、「現場が納得して取り組めるようにすることだ。SCMでは現場レベルの議論や意見交換が欠かせない。納得感ややる気を醸成する仕組みづくりにも取り組むべきだ。全事業を巻き込んで進められる権限を持った組織や機能を用意し、個別による推進ではなく全事業を横断して推進する体制づくりも必要だ」(小野塚氏)と指摘します。
小野塚氏は最後に、サプライチェーンを全体最適へと向けるのは経営者やマネジメントの役割だと強調します。「現場を理解する担当者に任せても他部署との連携や全社視点の最適化を考えるのは難しい。全体最適による収益力強化を目指すなら、経営者やマネジメントが主導しなければ進まない。DXのような改革も経営者やマネジメントが舵を切らなければ全社一丸で進まない。部下に指示して進めるのではなく、経営者自身が先頭に立って自社の新しい姿を描いてほしい」(小野塚氏)とまとめました。
サプライチェーンが利益を生み出すという発想を持て
セミナー後半は、登壇者4人によるディスカッションを実施。「“コストセンター”から、DXを活用して“利益を生む”戦略的サプライチェーンに変わるためには?」をテーマに議論しました。コストしかかからないと考えられがちなサプライチェーンでどう利益を生み出すのか。そのための手段としてDXをどう活かすべきかを話しました。
小橋氏はセミナー前半の小野塚氏の講演を受け、「そもそも健康診断に取り組まない企業が多い。そのため、自社の現状をきちんと把握していない。縦割り組織のため、全体でどこに課題があるのかも把握できずにいる。サプライチェーンがどう機能しているのかはもちろん、自社の現状把握すらままならない企業が多い。サプライチェーンに携わる物流部門などの意識は高いかもしれないが、全社の課題と認識していないことが問題ではないか」と指摘します。
齊藤氏も、「担当者は自部署に直接かかわる数値しか見ていないのも問題だ。これでは自部署のコストをどう削減するのかしか考えが及ばない。コストを賢く活用して粗利を稼ぐという発想がそもそもない。コストをこだれかかければこれだけ儲かるということが分かれば、コストセンターから脱却できるのではないか。高い精度で利益を把握できる体制・環境づくりも大切だ」と指摘します。
サプライチェーンとDXの関係についても議論しました。齊藤氏は、「当然だがシステムを入れるのが目的ではない。サプライチェーンであれば小野塚氏の講演でもあった通り、目指す姿を実現する手段としてデジタルやITを活用すべきだ。システムを導入して終わりでは決してない」と指摘。さらに、「サプライチェーンの各プロセスが部分的にDXに取り組むのも望ましくない。ある部署はデータを保有し、別部署はデータがないという関係では部署間に上下関係が生まれかねない。あるプロセスがDXによって効率化したとしても、前工程や後工程での作業が詰まってしまう可能性もある。すべてのプロセス、すべての部署がかかわるDXを目指すべきだ」(齊藤氏)と指摘します。
小橋氏は、「新型コロナウイルス感染症の影響で従来のビジネスモデルが通用しなくなりつつある。DXで変えなくてはと思う企業が増えたにもかかわらず、従来のビジネスモデルから脱却できないケースが目立つ。コロナ前のビジネスに戻ろうと考える企業さえある。しかし世の中はすでに変わっている。現在のビジネスモデルを世間に合わせて追随しなければ生き残れない。DXはそのための手段となり得る。変わることを恐れず、一歩踏み出すことがより重要になる」と指摘しました。