MENU

セミナー

「これまで築いたものを壊す覚悟なしにイノベーションは起こらない」C Channel 森川亮氏との対談セミナー

  • URLをコピーしました!

DXマガジンは2022年2月14日、定例のDX実践セミナーを開催しました。ゲストにC Channel 代表取締役社長 森川亮氏を招き、DXマガジン総編集長の鈴木康弘と「イノベーションを起こす発想とは」というテーマで対談しました。ここでは両者による対談を中心に紹介します。

当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。
 今回のゲストはC Channel 代表取締役社長の森川亮氏。森川氏といえば、LINEの元代表取締役社長としてご存じの人も多いはず。現在はC Channelのトップとして、ライフスタイルや女性向けメディアの運営、インフルエンサーの育成・マネジメント、企業のマーケティング支援などを手掛けています。動画コンテンツを海外向けにローカライズする海外事業も加速させています。
今回のセミナーでは、こうした新たな事業を打ち出し続ける森川氏に、イノベーションを起こすためのポイントや日本企業の課題などを聞きました。

壊して新たな価値を生むのがイノベーション

鈴木:DXに限ると、日本企業は「D」のデジタル化が苦手だとは思いません。多くの企業が「X」の変革を苦手にしていると感じますね。DXではこの変革する発想こそ重要で、イノベーションに真剣に向き合わなければならないと思います。
森川:イノベーションって言葉の意味を突き詰めると、何かを壊すことかなと思います。壊して新しい価値を生み出すのがイノベーションではないでしょうか。しかし日本企業に目を向けると、新しい提案はすぐにつぶされてしまう。物事に否定から入ってしまう。既存のものを壊せないし、新しい価値を生み出せない。変革が苦手な理由はこうした環境もあると思いますね。
鈴木:確かにそれは感じますね。「壊す」には大きなエネルギーを使うので、そこまでのエネルギーをかけられない企業が多いのでしょうね。さらには、過去の成功体験から抜け出せないケースも多いと感じます。こうしたしがらみもイノベーションを阻害する要因の1つですね。
写真:C Channel 代表取締役社長 森川亮氏(写...

写真:C Channel 代表取締役社長 森川亮氏(写真左)と、DXマガジン総編集長 鈴木康弘

森川:システムやソフトウエアで使われる「バージョンアップ」。「1.0」や「1.1」「2.0」などで示されますが、人によって「この程度の機能強化なら1.1くらい」「こんな新機能を追加したのなら2.0」って評価が異なりますよね。DXやイノベーションに限ると、「1.0」が「2.0」になるほどの大きな変化だと思うんです。しかし中には、「1.0が1.1になった程度」と受け止める人もいる。こうしたギャップをなくすこともイノベーションには必要だと思います。
鈴木:壊したり変革したりするには、経営者の気構えも必要です。今の業務を惰性で進めず、経営者自ら「止めろ」と言えるかどうか。こうした決断を下せるかどうかも重要です。経営者が明確に意思表示しさえすれば、社員も必ず考えるはずです。海外の経営者ってある意味「ドライ」で、合理的な考えに基づいて「止めろ」って言えるじゃないですか。しかし、日本の経営者は思い切った決断をできない。イノベーションが起こりにくい背景にはこんな事情もあると思います。
森川:同感です。日本って良くも悪くも「ボトムアップ文化」が根付いていますよね。現場に理解を示す経営者が多いのだと思います。しかしそれは、「やさしさが邪魔をしている」とも受け取れます。経営者の現場への理解ややさしさが、イノベーションに限っては悪く作用しているのではないでしょうか。
鈴木:森川さんの指摘に非常に共感しますね。一度築き上げたものを壊せるか。イノベーションを起こしてDXを成功させるには、この勇気を持てるかどうかに尽きると思いますね。ビジネスモデルにせよシステムにせよ、うまくいかなければ「変える」のではなく「捨てる」。ここまで割り切って断行しなければ、中途半端な変革にとどまってしまいかねないでしょうね。

他人事ではなく自分事として向き合う姿勢を育め

鈴木:イノベーションに結びつくアイデアってそう簡単には思いつきません。だからといってまったく考えないわけにもいかない。発想力だって磨かなければいけません。森川さんはどうすれば発想力を磨けると思いますか。
森川:斬新なアイデアっていきなり出てくるわけではありません。しかし例えば、目標とする数値をこれまでの10倍に設定し直したらどうでしょうか。10倍って今のやり方を続けるだけでは、絶対に達成できないでしょう。であれば、これまでと考え方や目線を大きく変えなければなりません。10倍上げるためには、これまでにない方法を考えるはずです。やや強引な発想ですが、こうしたやり方も発想力を磨く手段の1つだと思います。
鈴木:それは斬新ですね。私は基本的なことですが、いろいろなことに興味を持つことが大切だと常々感じます。例えば、他の業界で何が起きているのかに関心を寄せるだけでも発想力を磨けます。他の業界の新たな動きを、「自社や自社を取り巻く業界に応用できるのでは」と結び付けられるようになると、ユニークな視点を養えると思います。日本では業界はもとより、社内でも組織ごとの縦割り構造が目立ちます。こうした構造が視野を狭くしているように感じます。日本ならではの閉塞感が、「発想」という感性を鈍らせているのではないでしょうか。
私の勝手な想像ですが、森川さんはテレビや雑誌などを見ていると、気になったことを深堀りする性格ではありませんか? 「なぜこうなるんだろう」などと考え込みやすくないでしょうか。
森川:はい、その通りです。最近は「宇宙の誕生」にまつわる本を読み漁っていますね(笑)。
鈴木:そうでしたか。私も歴史の本が好きで、気になることがあると、ついいろいろ調べてしまうんです。こうした探求心も発想力を養うきっかけになるのではと思いますね。イノベーションの発想力って「妄想力」とも言い換えられる気がするんです。
森川:よく分かります。自身の考えを巡らせる妄想力ってビジネスでも大事だと思いますね。実は「無茶ぶり」って大事なのかなと思います。ビジネスの世界では、「そんな提案を進めるのは無茶です」なんてことを言うじゃないですか。しかし、無理と一方的に諦めるのではなく、それを考え抜き、粘り強く取り組めるか。そんな姿勢や気構えも発想力を養う上では大切だと思います。
鈴木:若手社員の中には、「これを私にやらせてください」と積極的な姿勢を示す人もいますよね。しかし、発想力が伴わず、具体的なアクションを起こせない社員も多い。森川さんはこうした若手社員に対し、発想力はどうすれば身につくと答えますか?
森川:発想力を身に付けたいではありませんが、私のもとには「起業したい」という相談がよく来ます。そんなときは、いろいろとアドバイスしますが、課題ときちんと向き合っているかどうかを話します。大切なのは、自分自身が向き合えているかということです。起業しようとする会社として向き合っているのか、もしくは会社の一部署が向き合って対応しているのかではなく、自分が向き合ってやることが重要だと話しています。
鈴木:他人事ではなく自分のこととして捉えられるかって重要ですよね。例えば顧客の立場ならどう考えるか、どう思うか。顧客の立場になって考えることができれば、新たな視点で発想できるようになり、これまでにない発想を生み出せるようになりますね。

アクションを伴う経験を積み重ねることが大切

鈴木:アイデアを創出し、それを事業として具現化するには、人の発想力はもちろん、行動力も欠かせない。企業はこうした人材を育成することに目を向けるべきです。森川さんは現職ではもちろん、前職のLINEでも経営者として人材の育成に注力してきました。企業はどうすれば人材を育成できるのか。どんな環境を築くべきか。アドバイスをいただけますか。
森川:日本に限ると、優秀な人材は多いと思います。ただし問題なのは、こうした人の多くが、「枠の中」で行動しているということ。これでは自由な発想は生まれませんし、何より行動が制限されて能力すら活かしきれません。一定の責任の範囲内で自由に動ける環境を用意できるか。企業の経営者が取り組むべき課題だと思います。例えるなら、「動物園」ではなく「サファリパーク」のような環境を作れるかということでしょうか。
鈴木:いろいろなことにチャレンジできる環境を社員に与えられるかどうか。イノベーションを起こしやすくするには、自由な行動を許容する姿勢も経営者には求められるのですね。
森川:人を育てる上で大切なのは、「経験すること」に尽きると思います。ただ考える場を与えるだけでは、人は育ちません。考えを実行するアクションを伴う経験こそ大切です。思い立ったことを行動につなげられるかどうかも、人を育てる際にはきちんと見極められるようにすべきですね。
鈴木:なるほど。森川さんは現在、中国やインドネシアといった海外で事業を展開されていますよね。海外から見て、終身雇用や新卒者の一括採用などの特徴を持つ「日本型経営」ってどう評価しますか?
森川:終身雇用や年功序列の考え方は日本企業の課題の1つではないかと思います。これまでは技術を突き詰め、磨き上げれば価値につながっていました。しかし今は、変化するのが常態化しつつあります。1つの技術を突き詰めても過去の資産になってしまう可能性が高いでしょう。技術を磨き上げるような考えが今も根強く残っているとしたら、終身雇用は企業にとってマイナスにしか作用しないのではないでしょうか。もっとも新卒者の一括採用については、会社の文化や風土が定着するまでは重要な施策として取り組んでもよいと考えます。
鈴木:C Channelでは社員のイノベーションを起こす力、積極的な姿勢などをどう育んでいるのでしょうか。
森川:常に新しいことにチャレンジする姿勢を崩さないようにしています。もっとも、ただチャレンジするだけでは不十分です。業界の変化や最先端の取り組み事例などを積極的に学び、それを自社で具現化するなどのアクションも含めたチャレンジを促しています。当社は現在、中国やインドネシアで事業を展開しているので、各国の最新事例を社内で共有することにも取り組んでいますね。
ただし、新たなチャレンジって先が見えないと怖いもの。例えば、取り組みをきちんと評価する仕組みを備えておくことは企業が果たすべき責務です。社員が臆することなくチャレンジできる環境づくりも含めて、社員の背中を押せるようにしています。
鈴木:これまでイノベーションと無縁な、ごく一般的な日本企業がイノベーションを起こしてDXを成功させるには、まず何が必要だと思いますか。
森川:イノベーションを事業に結びつけるなら、別会社や別組織を立ち上げ、社長直轄で自由にやらせるのが1案です。従来の会社や組織の枠内でイノベーションを推進すると、社員を説得するのに相当な労力がかかってしまうでしょう。であれば、会社や部署をゼロから作った方が得策かもしれません。さらに、「失敗したら会社を辞めます」くらいの覚悟を持ったチームづくりも検討すべきです。それほどの覚悟なしにDXは成功しません。
鈴木:相当な覚悟なしにDXは成功しない。経営者に突き刺さる言葉ですね。本日はありがとうございました。
森川:ありがとうございました。
シェアはこちらから
  • URLをコピーしました!
  • 週刊SUZUKI
  • 日本オムニチャネル協会
  • 株式会社デジタルシフトウェーブ

メルマガ登録

メールアドレス (必須)

お問い合わせ

取材のご依頼やサイトに関するお問い合わせはこちらから。

問い合わせる