DXマガジンは2023年2月7日、定例のDX実践セミナーを開催しました。今回のテーマは「店舗スタッフDXによる”やりがいUP!”~好きをあきらめない世の中を目指して~」。バニッシュ・スタンダードの小野里寧晃CEOをゲストに迎え、同社の取り組みや店舗スタッフのEX向上策などを紹介しました。
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当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。
店舗スタッフがEC事業に関わりやすくする新たな働き方を提案
新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、非対面や非接触といった分野でDXが加速した小売業界。来店者向けにアプリやサービスを提供する小売店や飲食店が一気に増え、来店者のニーズを汲み取る施策が数多く投入されるようになっています。一方、小売事業者にとっては店舗スタッフの満足度を高める施策の重要性も増しています。店舗スタッフのモチベーションや体験価値を向上させるため、企業として制度や環境づくりに取り組むケースは少なくありません。労働力不足や人材の流動化、さらには働き方の見直しが叫ばれる中、小売事業者は店舗スタッフ向けの施策を待ったなしで打ち出さなければならなくなっています。
そこで今回のDX実践セミナーでは、店舗に勤務する従業員の働き方にフォーカス。店舗スタッフの現状や課題を洗い出すとともに、これからの店舗スタッフに求められる働き方を考察しました。 ゲストとして登壇したバニッシュ・スタンダード CEO/代表取締役の小野里寧晃氏は、2011年に同社を設立。2016年には、店舗スタッフをDX化させる“スタッフテック”サービス「STAFF START(スタッフスタート)」を立ち上げるなど、店舗スタッフのこれからの働き方を提案し続けています。
そんな小野里氏は、バニッシュ・スタンダードを“常識を革める集団”と捉え、これまでの常識を革めることを同社のビジョンとして掲げます。具体的には、ECサイトに店舗スタッフが立つこと、店舗スタッフの年収を上げるといった2点を革めることを打ち出します。「店舗スタッフのやりがいや地位向上を目指したい。『なりたい職業ランキング』に販売スタッフを再ランクインさせることも成し遂げたい。さらに店舗スタッフの年収1000万円も成し遂げたい。店舗スタッフの業務は感動させられる仕事であるにも関わらず、社会的な地位や年収が十分ではない。当社はこうした環境改善を支援したい」(小野里氏)と強調します。
こうした店舗スタッフの働き方を支援するのが、同社の「STAFF START」です。現在の小売業を見ると多くの企業がEC事業に注力し、実店舗に依存しない収益体制の構築を目指しています。そのため店舗で働くスタッフにとっては、店舗に顧客が来ない、店舗の人員が削減される、給与が上がらない、店舗売上がECに奪われるといった課題に直面しています。「STAFF START」では、これら店舗スタッフの課題を解決することにフォーカスします。
特徴は、店舗で働くスタッフをEC担当者としてオンライン接客できるようにする点です。例えばアパレルなら、店舗スタッフがコーディネート投稿や動画、レビューなどのコンテンツを作成、配信し、接客ノウハウをECサイトで活用するのを可能にします。「店舗に顧客が来ないなら、店舗スタッフをECのスタッフとして働けるような仕組みを作るべきと考えた。店舗人員が削減される問題も、店舗スタッフの空いている時間を把握し、その時間をEC業務に充てられるようにすべきと考える。写真や動画を使ったコーディネートを投稿する作業なら短時間でできる。こうした空き時間を効率よく活用する仕組みをSTAFF STARTに実装した」(小野里氏)と言います。
給与が上がらないといった課題には、評価方法の変更を提案します。「STAFF STARTの場合、店舗スタッフがECの売上に貢献すると、店舗スタッフ個人の評価になる仕組みを設ける。ECの売上向上はもとより、店舗スタッフのECでのモチベーション向上にも寄与する」(小野里氏)と言います。店舗スタッフによるECでの売上を可視化することで、店舗スタッフにインセンティブなどを付与しやすくします。
とはいえ、店舗スタッフがEC事業に注力しすぎると、店舗の売上がECに奪われかねません。そこでSTAFF STARTでは、個人の評価に加えて店舗の評価にもつながる仕組みも設けます。店舗スタッフがECで商品を売った場合、個人と店舗の双方が評価されるようにします。「店舗の売上、ECの売上、スタッフの売上といった評価の仕組みを『オムニチャネル化』すべきと考えた。顧客向けのオムニチャネル戦略を進めるなら、従業員である店舗スタッフに対するオムニチャネルも進めるべきだ。店舗やECといった垣根を取り払う仕組みを構築することで、スタッフや企業が抱える課題を解決しやすくなる」(小野里氏)と強調します。
なお、STAFF STARTは専用アプリを用意し、店舗スタッフがアプリをダウンロードして使用します。コーディネートした写真や動画を作成するほか、自社ECサイトに投稿する機能などを備えます。こうした仕組みを備えることで、「店舗スタッフは接客の延長線上で、オンラインにおいても活躍できる。店舗やECという制約なしに、企業は店舗スタッフの接客ノウハウやコーディネートセンスを自社の強みとして訴求できる」(小野里氏)と言います。STAFF STARTはアパレルのほか、コスメ業界、家具業界、結婚式業界などで使われ、2022年8月31日時点で2100のブランドで導入されています。
信頼され、熱量を持った人こそ今後は必要な人材に
セミナー後半は、小野里氏とモデレータのデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏が対談。「好きをあきらめない世の中を目指して」というテーマで、働き方やこれから求められる人材像などを議論しました。
小野里氏は働くことをどう考えているのか。対談で小野里氏は、「人のために動くことが働く意味である。人を喜ばせたり人のために動いたりすることで相手から感謝される。店舗スタッフの場合、コロナの影響で顧客を喜ばせるための接客に取り組めなかった。こうした店舗スタッフにSTAFF STARTを提案し、EC経由でオンライン接客できるようにすると、『とてもうれしかった』という声をいただく。顧客に対して何ができるか、どう動くか。店舗に限らず、顧客を喜ばす可能性を広げることが、これからの働き方に求められるのではないか」(小野里氏)と指摘します。
これに対し鈴木氏は、「若い世代の人と話をしていると、自分の能力やスキルを認めてもらいたいと主張する人が少なくない。しかし、顧客に喜んでもらうこと。これこそ個人を評価する基準になる。働くことの意味を考えるなら、相手となる企業や消費者がどうすれば喜ぶのかを突き詰めて考えることが大切である」(鈴木氏)と指摘します。
先行きが不透明な時代において、今後どんな人材が求められるのかも議論しました。小野里氏は「当たり前かもしれないが、信頼される人が求められるはずだ。今後は効率性がますます加速する。しかしその後、効率の価値が下がっていくのではないか。そのとき価値となるのが、人の信頼であり、言ったことが実行される信頼感、それらを実現する熱量を持った人である。人間力とも言える魅力を持った人が求められるだろう」と考察。企業規模を問わず、こうした人が生き残ると言います。
鈴木氏は「人のつながりこそ大切と考えるべきだ。多くの経営者がデジタルに関心・興味を寄せるが、システムを導入せずにDXを進めることが大事だと言い続けている。DXは『D』ではなく『X』こそ重要で、X(変革)は人にしか成し得ない。このとき、人と人がつながることでイノベーションが起きる。年代を超えたつながりはもちろん、ポジティブ思考で前向きに取り組める人材も望まれるだろう」と、これから必要とされる人物像を考察しました。