DXマガジンは2022年12月22日、定例のDX実践セミナーを開催しました。今回のテーマは「最新! 決済サービスの潮流~オンライン決済とリアル決済の融合が始まる~」。Smartpay マネージングディレクター兼CROのの大坪直哉氏をゲストに招き、今後の決済サービスの動向を探りました。
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当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。
誰もが幸せになる決済方法を選ぶ時代に
現金に代わる決済手段として、クレジットカード、電子マネー、スマートフォン決済などが数多く登場しています。さらに後払いや前払い、即時決済といった支払うタイミングでもさまざまな手段があり、使い方は多様化しています。
これからの「決済」は今後、どう変わるのか。どの決済手段が本流となるのか。今回のセミナーでは、現在の決済サービスの動向を整理するとともに、これからの決済のあり方を考察しました。 セミナーには、日本で後払い決済サービスを展開するSmartpayのマネージングディレクター兼CRO 大坪直哉氏がゲストとして登壇。「決済の新潮流」をテーマに、日本の決済サービス市場の動き、今後のあるべき決済の姿について解説しました。
セミナー冒頭、大坪氏は新潮流を探る上で欠かせないキーワードとして「ウェルビーイング」を提示。幸せや幸福を意味するウェルビーイングと決済サービスとの関係について説明しました。 大坪氏はまず「決済」とは何かを解説。「決済は目的ではなく手段である。経済活動において人と企業が必ず通る結節点で、世の中の事情とは切っても切り離せない。世の中の事情に合あせて発展してきたものが決済ともいえる。つまり、決済の方法が変わってきているのは世の中の事情が変わっているともいえる」と考察します。
具体的な世の中の変化として、日本は高度経済成長期以降、経済優先の姿勢から環境保護に向けた取り組みを重視する傾向にシフトしています。さらに大坪氏は、日本は世界的に見て格差社会で、持続可能な開発目標(SDGs)を機に加速したサステナビリティ志向が進んだ点も指摘。「多くの人が幸せとは何かを強く意識するようになった」(大坪氏)と考察します。こうした考えのもと、人々の幸せ・幸福を中心とした経済を前提に、心身の健康(ウェルビーイング)への優先順位が高まっていくと言います。「経済成長や人々の働き方、格差の是正などを見直すには既存の仕組みから抜け出し、新たな仕組みをつくり出さなければならない」(大坪氏)と続けます。
一方、年収と幸せの関係についても言及します。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン名誉教授(プリンストン大学)によると、年収7万5000ドル(日本円にして約1000万円)までは、収入が増えれば増えるほど幸福度は比例して大きくなるが、それ以上収入が増えても幸福度はほぼ変わらないという発表を引用。一定以上の収入のある人にとって、お金は幸せを測る指標にはならないと指摘します。なお、日本では年収1000万円未満の世帯は87.2%を占めるといいます(2021年)。つまり「87%の世帯は収入の少なさにより幸福を感じ切れていない。低い収入でも幸せを感じられる方法を模索することに目を向けるべきである」(大坪氏)と続けます。
その解決策の1つとなるのは「ファイナンシャル・ウェルビーイング」だと大坪氏は捉えます。これは、安心して健やかに生きていくために、お金についての不安を取り除き、お金との健全な向き合い方ができる状態を指します。「収入が1000万円未満の人は特にファイナンシャル・ウェルビーイングが満たされていないと推察する。ファイナンシャル・ウェルビーイングについてきちんと考えることで、ウェルビーイング、つまり幸せや幸福な状態にもなり得る」(大坪氏)と、経済的な不安を取り除くことの必要性を強調しました。さらに、「ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現する方法として節約があるが、それだけでは人生を必ずしも楽しめない。節約以外の選択肢を模索することも大切である」(大坪氏)と、ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するための選択肢を増やすべきと指摘します。
こうした背景を踏まえ、決済サービスとどう向き合うべきか。大坪氏は、「企業は収益を上げされすればいいと考えがちだが、従業員の幸せや幸福にも目を向けなければいけない。お金をただ稼ぐだけではなく、関わる人を幸せにする“決済”をきちんと考えるべきである」と指摘します。
考えるべき決済の1つが「BNPL」だと大坪氏だと続けます。これは「Buy Now Pay Later」の略で、今買って後で払うという後払い決済を指す言葉。大坪氏は急成長する市場としてきちんと理解すべきと強調します。2030年には世界で478兆円規模まで市場が成長する見込みで、日本でも2025年には1.9兆円市場になるといいます。さらにForbesが予測する2023年にもっとも注目すべきフィンテックトレンドでは1位になっています。BNPLが注目される理由について大坪氏は、「欲しいものを買ったとしても、すぐ代金を支払わなくてよい。仮に今、お金がなくても欲しいものを手に入れられる。しかも、後で一括払いするのではなく分割払いできる決済サービスもある。多くの人が毎月の給料を踏まえて月単位で出費を考えるが、こうした限られた生活費の中でも欲しいものを手に入れやすいのがBNPLの特徴だ。さらに例えば、6万円の商品を購入して後で2万円ずつ3カ月かけて3回に分けて払う場合、2カ月後に支払う2万円と3か月後に支払う2万円を銀行に預けておくことで金利分を増やすことができる。6万円を一度に支払えばこうした金利分の上乗せも見込めない」」とBNPLの利点を指摘します。なお米国ではBNPLの利用額は2020年1月から2021年の7月にかけて230%伸びているといいます。クレジットカードは8%、デビットカードは43%伸びにとどまります。
「リアルタイム・ペイメント」(RTP)も近年の大きなトレンドだと大坪氏は指摘します。これは即時払いを意味し、例えば銀行口座から直接代金を支払うなどの意味で使われます。「RTPの特徴は低コストだ。例えばクレジットカードで支払う場合、その過程にはインターチェンジ、ブランドフィー、CAFIS接続フィーなどといったさまざまなコストが発生する。RTPはこうした中間コストを省ける」(大坪氏)とメリットを説明します。企業にとっては資金を即時移動できるなどのメリットもあります。一方、RTPサービスを展開しようと考える事業者にとっては、数多の銀行と一行ずつサービスと口座の繋ぎ込みが必要となります。「一行ずつ繋ぎ込むのは現実的ではない。そこで例えば『Bank Pay』のようにアグリゲーターに接続するのがもっとも効率的である」(大坪氏)と言います。もっともBak Payとの接続契約するハードルは高く、現時点でBank Payと接続する商用サービスは4社に限られると言います。
一方で中長期的にはRTPが中央銀行デジタル通貨(CBDC)へ移行する下地になり得るとも言います。「CBDCもRTP同様、即時性が特徴だ。資金を即時移動するため、加盟店などのキャッシュコンバージョンサイクルの改善に貢献できるのが強みだ」(大坪氏)と指摘します。
「ネオ・バンク」も見逃せないトレンドだと大坪氏は続けます。これは、自らは銀行免許を持たず、提携した既存銀行のプラットフォーム上に独自のインターフェイスを構築し、金融サービスを主にスマートフォンで提供する企業を指します。2009年ごろに米国を中心に広がり出し、米国では「Simple」「Moven」「Chime」などが代表格となっています。「ある調査によると、特に『Chime』が大きく伸びている。モバイルバンキングに関する調査でも『Chime』の評価が高い。手厚いサポート体制が人気の理由だ。特にChimeに給与振込口座を開設したユーザーは、手数料無料で給料日前からお金を使えるといったユニークな特典も設ける。月末の金欠に悩む人にとってはうれしいサービスだ」(大坪氏)と、人気の要因を分析します。
こうしたトレンドを通じて大坪氏は、「利用者が幸せになる決済であるかの重要性が今後はより増すだろう。こうした決済が広がることでファイナンシャル・ウェルビーイングが実現する」と指摘。幸せになる決済方法を選ぶ時代に突入していると言います。「特に日本では、現金や口座振替などによる手動払いの後払いサービスがいくつかある。しかしクレジットカードや銀行口座による自動払いによる後払いサービスは、当社の『smartpay』以外ない。ECサイトなどのオンラインでの消費行動が増える中、クレジットカードユーザーでも分割で後払いしたいと考える人は多いはず。こうした人のニーズを満たし、より幸せにしてくれるのがSmartpayだと考える」(大坪氏)とまとめました。
リアルとネットで使える決済の融合が加速
セミナー後半は、大坪氏とデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏が「決済サービスのこれから」をテーマにディスカッションしました。
鈴木氏は新たな決済サービスの登場を「新しい決済CX」と位置付け、「利用者側の立場で決済体験を変えようとする動きが潮流として起きつつある」(鈴木氏)と考察します。大坪氏も同意し、「企業側の立場を前提とした決済サービスは通用しなくなりつつある。以前ならアプリやWebサービス、店舗の担当者が衝突し、顧客を奪い合ってきた。これからは顧客がどう捉えるか。どの体験に価値があると考えるか。こうした視点を前提としたサービス創出が不可欠になる」と続けます。
リアルとネットが融合するオムニチャネルが加速するのに伴い、「リアルとネットの決済手段も融合していくのではないか」と鈴木氏は考察します。これに対し大坪氏は、「Scan&Go」の事例を引き合いに出して融合が進むことを解説します。「Scan&Go」とは、スマートフォンで店舗にある商品のタグをスキャンし、その商品は店舗から自宅に送られてくるサービスを指します。来店者は商品を持ち帰る必要がなく、レジに並ぶ手間も省けます。「決済が変われば買い物体験も変わる。店舗はモノを買う場という位置づけからリアルショールームとしての位置づけが強くなる。店舗にとって新たな決済サービスの導入は、商品の陳列方法や接客方法さえ変え得る可能性を秘める」(大坪氏)と指摘します。店舗デザインや店舗スタッフの構成なども変わる可能性があると言います。
今後は現金を利用する割合が減り、キャッシュレスによる決済の利用割合がより高まっていくと言います。「極端な例だが現金を奪い取るような犯罪は今後、減少するのではないか。もちろんデジタル通貨やスマートフォンを使った決済サービスを利用するには強固なセキュリティが欠かせない。こうした技術の高度化も今後は進むだろう」(大坪氏)と未来を推察します。