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セミナー

ユーザー企業とITベンダーの“本音”を言い合い 双方の壁を取り除くには?

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日本オムニチャネル協会は2021年12月10日、DXマガジンと共催セミナーを開催しました。第2回となる共催セミナーのテーマは「小売業とITベンダーの壁を無くすには」。業務にITが不可欠となった今、ITベンダーと適切な関係を構築するためには何が必要か。小売業はITベンダーとどう付き合うべきか。双方の間にある「壁」を取り除くために必要な姿勢や取り組みについて議論しました。

2025年の崖を前に今から動くべき

 共催セミナーには、日本オムニチャネル協会 会長の鈴木康弘氏と、同協会専務理事の林雅也氏、同協会理事の逸見光次郎氏が登壇。まずは鈴木氏が企業のシステムの現状について説明しました。「『2025年の崖』という言葉をよく聞く。経済産業省が公表した『DXレポート』で触れている、既存システムを使い続けることによる問題を表したものだ。DXを進める上で、新たな事業や業務に対応できない旧システムは足かせになりかねない。今後を見据えたシステム像を描くべきだ」と、古いシステムを使い続ける企業に問題提起しました。
コストについても、「古いシステムを使い続ければ、システムに精通する人材が退職するなどして足りなくなる。ITベンダーなどに委託する運用コストも膨らむ。企業のIT予算は、維持・運用に8割・9割に費やしているという調査結果もある」と指摘。歴史のある会社ほど、老朽化・複雑化したシステムを使い続ける傾向があり、「複雑化したシステムを今から紐解き、新たな環境に見合うシステムへと移行すべきだ」(鈴木氏)と見解を述べました。
写真:日本オムニチャネル協会 会長 鈴木康弘氏

写真:日本オムニチャネル協会 会長 鈴木康弘氏

 ではクラウドを導入すればいいのか。既存システムをクラウドに移行するだけでは問題解決にならないと、同氏は続けます。「既存システムをクラウドに移行する企業は少なくない。しかし、業務が変わらなければ意味がない。従来の業務を踏襲したままクラウド移行しても、システムを業務に合うようカスタマイズするケースが頻発するだろう。これではクラウドやSaaSのメリットを活かせない。既存システムをクラウドに移行するなら、同時にこれまでの業務を見直し、無駄を省いた効率的な業務フローを考えるべきだ」と、新たなシステムを検討するには、業務にメスを入れるべきだと強調します。
データについても言及します。「DXはデータ活用が不可欠。そのために必要なシステムや体制づくりにも目を向けなければならない。こうした取り組みを進めることで『デジタル企業』になる。これからは、小売業を含むすべての企業が、自らITやデータを使いこなす『デジタル企業』になるべきだ。でなければDX時代の市場競争に勝ち残れない」(鈴木氏)と指摘。ITに積極的に投資すべきとの考えを述べました。さらに、「デジタル企業になるために大事なのは人材の育成だ。ITやデータを使いこなす人材を社内で育成し、デジタル企業をけん引するリーダーを育てるべきだ。今からDX人材の育成に乗り出さなければ取り残されてしまうだろう」と、デジタルに精通する人材の必要性にも触れました。

小売業とITベンダーが胸に秘める本音とは?

 続いて登壇者の3名で、ユーザー企業とITベンダー双方のジレンマについて議論しました。冒頭の鈴木氏の「2025年の崖」の説明を受けて逸見氏は、「既存システムの危機感を説明した『DXレポート』は的を得ている。特に『デジタル企業』という言葉は曖昧な意味になりがちだが、DXレポートでは丁寧に定義している。ユーザー企業がデジタル企業になるためには、DXレポートを読み解くことも必要だ。その上で、デジタルネイティブ世代の人材を主力に新たなビジネス創出を模索してほしい」と、DXレポートを読んだ感想を述べました。
さらに逸見氏は、ユーザー企業側の状況にも触れます。「既存システムを変えられない、もしくは変えにくいのは、ITベンダーにロックインされているのが原因の1つ。ITベンダーの独自仕様や技術に依存しすぎた結果、他社の先進技術やシステムを導入しにくい環境になっている。システムを刷新しにくい背景には、こうした事情が大きいはず」と、ユーザー企業の現状を指摘します。
写真:日本オムニチャネル協会 理事の逸見光次郎氏(写真...

写真:日本オムニチャネル協会 理事の逸見光次郎氏(写真左)と、同協会専務理事の林雅也氏

 これに対し鈴木氏は、「ロックインの状況を打破するには、ユーザー企業、ITベンダーとも変革しなければならない。ユーザー企業とITベンダーによる従来の産業構造を見直し、DX時代に勝ち残るために必要な産業構造へとシフトすべきだ」と、新たな価値を創出するための産業を生み出すべきとの考えを示しました。逸見氏も「ITシステムなどを取り扱うデジタル産業もDXで大きく変わるだろう。企業規模や業界などのしがらみがなくなり、さまざまな企業が共創しやすい環境になる。従来の産業構造に固執すべきではない」と、DXがデジタル産業の構造さえ変えるとの見解を述べました。
では、ユーザー企業(小売業)とITベンダーはそれぞれどんな“ジレンマ”を抱えているのか。セミナーでは双方が抱く“本音”をまとめました。まず小売業の本音として、次の4つを示しました。
・機能やスペックの説明はいいから、自分たちがやりたいことができるかどうかを早く知りたい
・最初は何でも任せてと言ったのに、途中でできないと言うのはなぜ?
・契約まではたくさんの人が来たけど、プロジェクト半ばから人が減って、リソース不足だからと言って追加で見積もりを出すのはなぜ?
・社内でプロジェクトを任されたけど、システムについてよく分からないし、他部署の業務をすべて把握しているわけではないので不安
これらは一例ですが、ユーザー企業(小売業) 側の見解として逸見氏は、「ITベンダーが自社のIT製品・サービスを説明するとき、どうしても自慢話に聞こえてしまう。ユーザー企業はそんな話を必ずしも求めていない。自社のニーズに合致する機能なのかどうか。こうした具体的な提案を望んでいる」などを指摘しました。  これに対し、ITベンダー側の見解として林氏は、「逸見氏の指摘通り、自慢話になりがち。それは認める。しかし、ニーズに合致するかどうかを商談の場で即決するのは難しい。ユーザー企業の状況やどんなケースで利用するのかなどのシーンも想定しなければ、『ニーズを満たします」と自信を持って言うことはできない」と続けます。「何でも任せて」という本音についても林氏は、「営業担当者はつい、いいことばかり言ってしまう。しかし実際はできないことも珍しくない。特にコンペティションの場合、“大ぼら”を吹いたITベンダーが勝ってしまうことがある。ユーザー企業はプレゼン内容で選考しており、何を基準に選んだのかが不明瞭な場合が多い。これでは“できる・できない”を正確に見分けられない」と、ユーザー企業が営業担当者やプレゼンの内容だけを頼りにITベンダーを選定していることにも問題があると指摘します。
ではITベンダーが抱く“本音”はどうか。セミナーでは次の“本音”が提示されました。
・丸投げ、責任を取らない
・過剰なカスタマイズ
・プロジェクト体制が不明瞭
・今と同じで作ってくれればいいですと、材料が揃ってないのに言う。しかも納期はマスト
・後だしジャンケン
・業者扱い、かつ無理な要望を押し込む
ITベンダー側の見解として林氏は、「これらの本音は必ずしもすべてのユーザー企業に当てはまるわけではないが、どれもよく思っていること。特にカスタマイズ。本当に必要なのかと疑ってしまう。費用は膨らむし保守性も損なわれる。それでもカスタマイズすべきかと考える」と、ITベンダーならではの視点を述べました。ユーザー企業側である逸見氏もこれには賛同し、「カスタマイズすべきかどうかを正しく見極められないケースがある。特に自分がよく理解している業務ほど、カスタマイズしたがる。費用や保守性はもとより、そのカスタマイズが自社の競争優位になるものなのか。システムをカスタマイズしてまで残すべき機能なのかを十分検討すべきだ」と指摘します。
「業者扱い」という本音について林氏は、「ITベンダーは、無理な要望を受けるべきではない。こうした要望は過剰なケースがほとんど。ITベンダーは『何でも任せて』と言わず、『できないものはできない』と、自社のリソースやスキルと照らして正しく伝えるべきである」と、ITベンダーが仕事欲しさに何でも受け入れてしまう姿勢に問題があると指摘しました。
これに対し鈴木氏は、「ITベンダーとユーザー企業は対等の関係であるのが望ましい。仕事の依頼主であるユーザー企業が、依頼先であるITベンダーに無理強いするケースは少なくない。しかし『できる』『できない』が不明瞭だと、IT導入プロジェクト自体が路頭に迷いかねない。双方が自分たちの意見を言える環境を醸成すべきだ」と指摘します。さらに鈴木氏は、「ITベンダーをほめることも大切。ユーザー企業がITベンダーを評価していることを示せば、ITベンダーは必要以上に頑張ってくれるもの。こうした良好な付き合いも考えるべきである」と続けます。

業界を超えた対話と人材育成に目を向ける

 最後に、ユーザー企業(小売業)とITベンダーの壁を乗り越えるために必要な取り組みについて議論しました。具体的に、ITベンダーが取り組む内容として、セミナーでは次の6つを提起しました。
・お客様のことを勉強し、一緒にビジネスを考える
・アングリーカーブからスマイルカーブ
・サービス、プラットフォーム(顧客との協業含む)提供へ
・専門ナレッジに基づくコンサルテーションと高い技術で形にする力
・アジャイル、マイクロサービス活用
・アライアンスを組む力
林氏は、壁を取り除くためには「一緒にビジネスを考えるべきだ。双方はITシステムを構築するところでしか接点がない。そのためITシステムの構築がゴールになっている。そのITシステムを使ってどんなビジネスを展開するのか。そのためにはどんな機能や仕組みが必要なのかを、ユーザー企業とITベンダーが一緒に模索していくことが今後は特に求められるだろう」と指摘します。
写真:三者はさまざまな立場で、ITベンダーと小売業双方...

写真:三者はさまざまな立場で、ITベンダーと小売業双方の考えを示した

 鈴木氏と逸見氏も同意します。鈴木氏は「ITベンダーは小売業がどんな課題を抱えているのかを把握するところから始めるべき。そのためには、店舗に足を運び、実際に買い物してみるのも一案だ。買い物して不便に思うこと、面倒だと感じることが、ユーザー企業(小売業)の課題に直結する。それらを理解した上でITシステムを考えば、よりよいITシステムを構築できるはずだ」と述べます。逸見氏も「ITベンダーはユーザー企業(小売業)との距離をもっと縮めるべき。そのためには小売業の顧客である店舗来店者をもっと勉強しなければならない。買い物という体験を通じて得られるものは多い。顧客起点で、顧客に寄り添うことが壁を取り除くための一歩になるだろう」と強調しました。
そのほか、サービスを細かく分割して小さいシステムを段階的に開発するマイクロサービスの活用や、製造や組み立てに注力せず、企画・開発やサービス・販売などを強化する“スマイルカーブ”を描くための取り組みに目を向けることも触れました。
一方、小売業が取り組むべき内容として、次の5つを提起しました。
・社内システムについて、業務と合わせて勉強する
・社内の業務や組織について、きちんと整理し理解する
・さまざまな企業の取り組みについて、自社の顧客を想定して勉強し、仮説を立てる
・今の課題だけではなく、将来にわたって顧客起点で考える
・SIer、支援事業者を同じチームのパートナーとして考える
逸見氏は勉強の必要性について、「さまざまな事例を目にするが、小売業の多くがこれらをどう活用すべきか分からない。自社でどう活用すべきかというイメージを描けないケースが多い。考える習慣をつくることが大切だ。『こうすればどうなる』といった仮説を立てられるようになれば、事例をより活かせるようになるし、ITシステムに必要な要件も絞り込めるようになるはずだ」と指摘します。
鈴木氏は経営者について言及します。「ITベンダーとの壁をなくすためには、何より経営者の理解が不可欠だ。ユーザー企業(小売業)の中には、経営者自身がITシステムの導入や構築などのかじ取りをするケースもある。ITを理解し、ITで業務をどう変えようとイメージする経営者も少なくない。経営者は数年後の将来を見据え、ITシステムが自社にどんな効果をもたらすのか、どんな課題を解決できるのかをきちんと考えられるようにすべきだ」と述べました。さらに、「自社を取り巻く業界に閉じるべきではない。DX時代は業界の垣根が取り払われる。他の業界の動向などを把握するため、壁を超えた対話が不可欠だ。同様に壁を超える人材育成の重要性も増すだろう。これまでの考え方や取り組みに固執しない、対話と人材育成に取り組んでほしい」とまとめました。
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