DXマガジンは2022年4月21日、定例のDX実践セミナーを開催しました。今回のテーマは「中小企業のDXの実態と可能性」。ゲストとして登壇した船井総合研究所 代表取締役社長 社長執行役員の真貝大介氏が、中小企業の現状や同社の施策などを紹介しました。
当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。
via www.youtube.com
段階的なアプローチこそ中小企業は不可欠
セミナー前半は「中小企業のDXの実態」と題し、真貝氏が講演。中小企業を取り巻く現状や船井総合研究所が中小企業のDXをどう支援しているのかなどを紹介しました。真貝氏は冒頭、中小企業のDXについて、「DXとはデジタルを駆使して変革を成し得るのがゴール。その意味で中小企業は、大企業より変革を進めやすい。中小企業のDXは今後、ますます進む」と推察。都市部の中小企業に限らず、地域を問わずDXは進むと言います。業種も問わないと指摘します。
中小企業がDXに取り組むアプローチにも言及します。「デジタル度」を縦軸、「変革度」を横軸にした図を示し、「デジタルと変革を同時に進めるケースは少ない。デジタル化に取り組む、変革に取り組むといったどちらかを優先するケースが目立つ」(真貝氏)と指摘。その上で、「DXを目指すのにデジタルが先か、変革が先かは問わない。大切なのは最初の一歩を踏み出せるかどうかだ。中小企業の場合、デジタル化などの新たな取り組みに反発する従業員がいるかもしれない。しかし、限られた業務で構わないので成果を出しさえすれば、従業員はデジタル化をポジティブに受け止めるはずだ。段階的にDXを目指すのが望ましい」(真貝氏)と強調します。特にデジタル化は、マーケティングやセールス領域で取り組むケースが多く、変革はサービスやオペレーションを変えるケースが多いと言います。一気にDXを目指すケースもあるが、「中小企業は自社の体力を考慮すべきだ。DXプロジェクトの再現性も踏まえたい。失敗を恐れる従業員に配慮するという点からも、段階的なアプローチを検討してほしい」(真貝氏)と注意を促します。
では同社は中小企業をどう支援しているのか。セミナーでは、その取り組みも紹介しました。1つが、ZOHO導入によるDXプロジェクト支援です。ZOHOとは、CRMやSFAのほか、メールや会計などのアプリケーション群を備えるSaaSで、安価なことから中小企業を中心に導入されています。真貝氏は中小企業にZOHOを勧める理由を、「ZOHOはマーケティングやセールス領域向けのアプリケーションが充実している。これらの業務はデジタル化に舵を切ることで業績が改善しやすい。成果を出すという点でZOHOは中小企業に向く。さらにデータを蓄積できるようになれば、それが資産となって次の施策に役立てることも可能だ」と言います。もっとも同社はZOHOだけを勧めるわけではなく、「企業の課題や目的に応じたソリューションを提案する」(真貝氏)と言います。
外出先でも安心、iPhoneを米軍“ミルスペック”で衝撃から守るケース –
機能的なミリタリーアイテムは、使い込む楽しさ! アウトドアをさらに楽しむヒントを見てみよう。
ZOHOを使った例として、顧客情報を蓄積する仕組みづくりも紹介しました。運営サイトに予約フォームやチャットボットを実装して問い合わせを自動化したケースを例示。サイト経由で問い合わせしてきた顧客やLINE登録者などをZoho CRMで管理し、商談や契約後といった状況別に把握できるようにすると言います。サイトのクリック率などをもとに顧客をスコア化し、高スコアで受注確度の高い顧客も洗い出せるようにします。チャットやタスク管理、クラウド契約などのZOHOのほかの機能と連携し、商談や契約のデジタル化も含めた支援策を提案します。セミナーではそのほか、ECやオンライン販売事業を立ち上げたいと考える事業者向けの支援策や、さまざまなデータを一元管理してBIで可視化するデータハブ構築の支援策なども紹介しました。
中小企業こそDXを進めやすい
セミナー後半は、真貝氏とDXマガジン総編集長の鈴木康弘が対談を実施。3つのテーマに沿って議論しました。
1つめのテーマは「中小企業のDX意識」。鈴木は中小企業のDXに対し、「大企業や中堅企業と比べ、中小企業の経営者から前向きな声を聞かない。DXなどの新たな取り組みに消極的なのが実状ではないか」と指摘します。これに対し真貝氏は、「『DX』という概念を理解しつつも、自社の答えを見つけ出せずにいる経営者が多い」と同意します。ただしデジタルに消極的ではなく、「間違いなくポジティブだ」(真貝氏)と強調します。特に40代や50代の比較的若い経営者はポジティブで、中でも「20代や30代の若い社員が多い中小企業はDXの意識が高い。こうした中小企業は顧客のデジタル化も含め、周囲の環境がデジタルと無縁でいられない状況になっている。経営者がDXで具体的に何をしたいかといったイメージを持ちさえすれば、DXへ一気に進み出せる」(真貝氏)と分析します。
コスト面でもデジタル化のメリットはあると真貝氏は続けます。「企業の設備投資と言えば1000万円以上するケースは少なくない。一方、デジタル化の投資は1000万円もかからないことが多い。低予算の投資でも効果を十分見込めるのがデジタル化のメリットだ。大規模な予算を割きにくい中小企業こそDXに投資すべきだ」と指摘します。
2つめのテーマは「中小企業のDXを阻む要因」。中小企業のコスト意識について鈴木は、「デジタル化やDXを進めるには巨額の投資が必要だと勘違いする経営者が多い。しかしそれは、大企業の事例ばかりを見ているから。その結果、システム導入には何億ものコストがかかると認識しているのではないか」と分析します。真貝氏も同意した上で、「最近は1アカウント数百円で月額利用できるSaaSが当たり前になった。どんな業務向けのSaaSがあるのかを理解し、適切なSaaSを導入することで容易にデジタル化できる」と指摘します。
さらに両者は、システムを導入する際の「カスタマイズ」の是非も議論。鈴木は「システムをカスタマイズして良いことは1つもない」と断言し、日本企業にこれまで多かったシステムのカスタマイズに異議を唱えます。「当社では人事規定や給与規定などは、導入する人事管理や会計SaaSの機能をもとに策定する。既存の業務にシステムを合わせるという発想ではなく、汎用的なシステムの機能や業務の進め方に自社の業務を合わせるという発想に切り替えるべきだ」と指摘。自社固有で競争力の源泉となる業務についてはカスタマイズを検討し、汎用的な業務と競争力を生み出す業務を明確に線引きすべきとの考えを示しました。真貝氏も、「当社も顧客に対し、カスタマイズは推奨しない。システム導入直後は効果を見込めても、長い目で見ると足かせになりかねない。競争力を生み出し続ける業務であるかも含め、カスタマイズは慎重に見極めるべきだ」と続けます。コスト重視でシステムを選ばず、どれだけの効果を自社にもたらすのかをシステム選定のポイントとして重視すべきと指摘します。
最後のテーマは「中小企業のDXの可能性」。鈴木は中小企業の可能性を「大いにある。中小企業の方が大企業や中堅企業より得るものは大きい」と分析します。真貝氏も、「中小企業の事例の中には、DXに取り組んだことで業績が5倍、10倍になったケースがある。こうした企業は、デジタル以外に何かに取り組んだわけではない。中小企業にとってデジタル化のインパクトは非常に大きい。経営者はDXの可能性を前向きに探ってほしい」と続けます。
変革しやすいという点でも可能性は大きいと鈴木は指摘します。「従業員数が1万人の企業と10人の企業を比べた場合、どちらが変革しやすいか。その答えは明白だ。『変える』という使命感を持って取り組めば、中小企業のDXは必ず成功する」と言います。大企業の場合、多くのステークホルダーの合意に時間がかかるほか、過去の成功体験を捨てて変革することへの抵抗が強いなどの理由でDXは進みにくいと指摘します。真貝氏も、「今後は業種、業態ごとにさまざまなDXのモデルケースが出てくるだろう。こうした土壌が中小企業の変革を後押しする。とはいえ、DXを成し遂げるには3年や5年かかることも珍しくない。無理な投資、強引な推進を避け、身近な変革を積み上げていってほしい」とまとめました。
前回のDX実践セミナーでは、パナソニックが進める風土改革の極意を紹介しています。こちらの記事も合わせてお読みください。
風土改革の決め手は「DEI」、パナソニックが進めるビジネストランスフォーメーションの中身とは? –
DXマガジンは2022年3月16日、定例のDX実践セミナーを開催しました。パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社で常務 CMO DEI推進担当役員などを兼務する山口有希子氏がゲストとして登壇。DXマガジン総編集長の鈴木康弘と「サステナブルな未来に向けた企業風土改革」というテーマで対談しました。企業の古い体制や風土をどう変えるのか。山口氏は自社の取り組みを交えつつ、風土改革のポイントや経営者の役割について言及しました。