日本オムニチャネル協会は2023年8月1日、定例のセミナーを開催しました。今回のテーマは「NFTが変える!サステナブルな関係とは?~DXで地域活性化し関係人口を増やす!!~」。今話題の「NFT」にフォーカスし、デジタルコンテンツの所有権として使われるNFTの新たな可能性を解説しました。
ブロックチェーン技術を利用し、デジタルコンテンツの円滑な売買を支援するNFT。今、その特性を活かし、新たな用途に活用する動きが散見されます。それが顧客管理です。小売業などを中心に利用が進む会員証にNFTを組み合わせ、会員向けに独自の特典を付与する用途でNFTが活用されつつあります。具体的にどう使うのか。企業はどんなメリットを見込めるのか。
今回のセミナーでは、ゲストとしてクロスシー 代表取締役社長の田中祐介氏と、J.フロント リテイリング 執行役常務 グループデジタル統括部の林直孝氏が登壇。日本オムニチャネル協会サステナブル部会リーダーの渡部弘毅氏と、同協会専務理事でサステナブル部会サブリーダーの林雅也氏をモデレータにし、NFTの必要性を議論しました。NFTに代表される先進技術が、企業にどう役立つのか。さらには企業の成長戦略にどう結びつくのかを議論しました。
会員向けのプログラムにNFTを活用する動きが加速
ブロックチェーン技術を使った代替不可能(替えの効かない)なトークンを意味する「NFT」。自由度の高い設計や運営が可能で、制作物を2次流通させやすい特性などを備えます。こうした特性をどう活かすか。ゲストとして登壇したクロスシーの田中祐介氏は、「NFTといえばデジタルコンテンツに使われるケースが少なくない。しかし、特性を踏まえれば、その可能性は広がる。企業に限れば、顧客向けの会員証にも使える。応用すれば、使い道は必ずしもデジタルコンテンツに限らない」と指摘します。NFT=所有権といった用途から脱却し、会員向けの特典などに応用する道を考慮すべきと訴えます。
具体的にどんな特典が考えられるか。田中氏は企業が従来取り組むロイヤリティプログラムをアップデートできると提言します。「ポイントプログラムや会員プログラム、コミュニティプログラムなど、優良顧客向けに提供する各種プログラムの特典にNFTを活用できる。顧客のエンゲージメント向上を見込めるほか、LTV向上を目的とした顧客と中長期的な関係を踏まえたソリューションの提供なども見込めるようになる。さらに企業にとっては、顧客管理や顧客分析に使えるのはもとより、顧客をセグメントし、特定のターゲット向けに情報発信するといったことも可能だ」(田中氏)といいます。例えば会員向けの特典として、NFTを付与した限定商品を提供したり、イベントなどの参加割引券、投票などの権利に利用できるといいます。
もっとも、NFTを活用するかしないか以前に、ロイヤリティプログラムを活用する動きは世界で広がりつつあると田中氏は続けます。「ある調査によると、ロイヤリティプログラム市場は2021年時点でグローバルで85.7億USDに達する。業界別の内訳を見ると、小売の占める割合が高い。さらにホテルや飲食、金融機関でロイヤリティプログラムを活用するケースが多い」と指摘します。
セミナーでは、NFTと会員向け特典を組み合わす事例も紹介しました。その1社がスターバックスです。同社は自社アプリにNFTメンバーシップを導入。アプリを使ってゲームにチャレンジし、一定基準を達成すると「ジャーニースタンプ」と呼ぶNFTを獲得できると言います。利用者は獲得したNFTを使って限定イベントに参加したり、旅行などの参加権利を取得したりすることができます。さらに、「ジャーニースタンプ」というNFTを参加者同士で売買するマーケットプレイスも用意。「『ジャーニースタンプ』を保有することで、利用者には経済的なインセンティブが働く。もっとも同社は、NFTやブロックチェーンといった言葉をアプリ上では全面に打ち出さない。暗号資産用のウォレットを使わずに購入できるようにしている。あくまで裏側を支える仕組みとしてNFTを活用する」(田中氏)と述べます。スターバックスではNFTに関心を持たない利用者を含め、すでに2500万人以上が会員としてアプリを利用しているといいます。こうした既存の顧客基盤をさらに成長させる用途でNFTを活用しているといいます。
一方、海外でもNFTを活用したロイヤリティプログラムの展開を視野に入れる動きがあると田中氏は続けます。「ブランドの価値向上やECサイトの利用者向けなどに、NFTを取り入れたプログラムを提供する動きが目立つ。とはいえ、PoC段階のケースが大半だ。ソリューション提供を目指すスタートアップ企業が多く、PoCで成果を上げて資金調達しようと考える企業は少なくない」といいます。
田中氏はNFTを組み込んだロイヤリティプログラムにより、企業と顧客の関係はさらに深まると指摘します。「企業はこれまで、顧客に対して一方的な働きかけをするケースが多かった。これでは企業が目指す目的、つまりコンバージョンを獲得できる割合は必ずしも大きくない。これに対し、NFTを使えば企業と顧客の双方向のやり取りを深められる。最小限のコストで『顧客とつながる』効果を最大化できる。その結果、既存顧客との関係は強化され、最終的なコンバージョンを獲得できる割合も相対的に大きくなる」(田中氏)と分析します。さらに、「企業はこれまで『ブランド』という無形資産を流動化させることはできなかった。しかしNFTを活用したデジタル会員権などを用意することで流動化できるようになる。顧客を中心とするコミュニティにデジタル会員権を訴求、流通させることでブランドの価値を高められるようになる」(田中氏)と続けました。