前回は、中小雑誌出版社のデジタルシフトにおいて『担当者が考える「デジタルシフト」で最も大事なこと』と題しまして、「意識」の部分と経営者との「握り」が大事です、というお話をしました。
この部分ができれば、あとは会社の現状をつぶさに確認して(現状把握)、目標とする「デジタルシフトをしたあとの姿」を決めて(目標設定)、デジタルシフトをするにあたっての問題や課題は何か(問題発見・課題抽出)、その状態とのギャップを埋めるための施策を経営者と一緒に決めていく(対策立案)、施策が決まったらそれを地道に実行していく(行動計画)、という事だけだと思われます。非常に単純です。でもそう単純にはいかないのが世の常です。ですので、私がこの任について最初にした事は徹底して(現状把握)をする事でした。
雑誌の収益構造を見るために、各雑誌の売上、コストをすべて洗い出して毎月のPL上の収支、実際のキャッシュフローを確認しました。
簡単に示すと雑誌業界の収益構造は下記のようになっています。
かなり、他業界の方もわかるように呼び名を変えている部分もありますのでそこはご理解を頂ければと思います。
デジタルシフトは結局のところ経営改善なので(A)の売上を上げて(D)のコストを減らしましょう、という事に行きつくのですが、雑誌業界はそうは簡単にいきません。雑誌業界というのは、皆さんもよくご存じのように毎年販売部数が落ちて行っている業界です。つまりマーケットから「雑誌」という「商品」がニーズに合わなくなっている状態です。かつ、出版社のもう一つの商品として「雑誌広告」というものがありますが広告のクライアントがなぜ広告を出すのかという事を考えると、つまるところ「自社で広告を出した商品の反響が欲しいから」です。つまり、広告のクライアントからすると販売部数の落ちて行っている雑誌業界というのは出稿先として魅力のない媒体になってしまっている、という事なのです。
雑誌出版社の大きな2つの「商品」である「雑誌販売」と「雑誌広告」というものがそもそも時代に合わないので売上が下がる事を避ける事はできない状態でした。つまり、「商品」という武器が無いという状態におかれているのがデジタルシフトに乗り遅れている多くの出版社の現状の姿なのです。
「売る商品が無い」という事が本当の課題なのです。
ですので、ここで大事なのがもう一度「自社の商品は何なのか」という事を考えることだと私は思います。こういう時に私がいつも考えて参考にするのが、使い古された理論かもしれませんが、「マーケティング・マイオピア(Marketing Myopia)」、いわゆる「近視眼的マーケティング」論です。
この理論そのものについては各所でいろいろなコンサルタントの方なども書かれているのでこちらではWikipediaの参照リンクだけ張り付けておきます。
デジタルシフトは結局のところ経営改善なので(A)の売上を上げて(D)のコストを減らしましょう、という事に行きつくのですが、雑誌業界はそうは簡単にいきません。雑誌業界というのは、皆さんもよくご存じのように毎年販売部数が落ちて行っている業界です。つまりマーケットから「雑誌」という「商品」がニーズに合わなくなっている状態です。かつ、出版社のもう一つの商品として「雑誌広告」というものがありますが広告のクライアントがなぜ広告を出すのかという事を考えると、つまるところ「自社で広告を出した商品の反響が欲しいから」です。つまり、広告のクライアントからすると販売部数の落ちて行っている雑誌業界というのは出稿先として魅力のない媒体になってしまっている、という事なのです。
雑誌出版社の大きな2つの「商品」である「雑誌販売」と「雑誌広告」というものがそもそも時代に合わないので売上が下がる事を避ける事はできない状態でした。つまり、「商品」という武器が無いという状態におかれているのがデジタルシフトに乗り遅れている多くの出版社の現状の姿なのです。
「売る商品が無い」という事が本当の課題なのです。
ですので、ここで大事なのがもう一度「自社の商品は何なのか」という事を考えることだと私は思います。こういう時に私がいつも考えて参考にするのが、使い古された理論かもしれませんが、「マーケティング・マイオピア(Marketing Myopia)」、いわゆる「近視眼的マーケティング」論です。
この理論そのものについては各所でいろいろなコンサルタントの方なども書かれているのでこちらではWikipediaの参照リンクだけ張り付けておきます。
かいつまんで言うと、雑誌の場合は顧客は「雑誌という本を買いたいのではなく、編集のプロによって集められた有益な情報を求めている」のであり、広告クライアントは「雑誌の広告スペースを求めているのではなく、記事によって集められた読者という集団に対して広告を出すことで自社の商品の反響を得たい」と考えていると定義しなおすことでした。つまり、「情報を編集して、独自の切り口で『伝えること』」ことこそが自社の事業であり、極論を言えば「伝える」ことができれば媒体は何でもいいのです。また、広告クライアントにとっても自社の商品の情報を編集して、読者に伝えて、反響が取れるようになればそれでいいのでは、と思います。
そこまで考えたうえで、媒体ごとの読者ターゲットだったり、編集方針だったりが意味を持ってくると思います。雑誌社の資産は「その独自の世界観なりで掴んでいる読者」と「情報を切り取り編集する能力」だけが資産だと思います。
もうここまできたら、通常の会社であれば「新事業」「新商品」で起死回生を考えることと思います。おそらく皆さんも考えれば答えは明白で、すでにほかの雑誌社さんもやられているように、弊社も同じように、WEBページへと注力することにしました。
しかし、ここで単純にWEBページを開設して、記事を書いていけばいいというのは早急な考えです。WEBページの記事を書いていくというにも、紙の記事と同じように(E)雑誌製作・編集費、(H)人件費(社内編集人員)、(I)各種固定費(サーバー代他)が必要です。単純にWEBページを開設しただけでは単なるコストアップです。後述しますが、かけたコストに対して紐づく売上がないからです。また、社内の人員にとっては人を増やさずにWEBページを開設するだけでは、仕事が増えて確実に疲弊することが見えています。また、WEBページを開設したからといっていきなり読者は増えません。読者がいないということは当然のごとく広告も売れません。だいたいどこの出版社さんもここで躓いて、WEBページを開設したけれどもなかなか閲覧数があがらないし、WEBページの記事を書いたり、雑誌の記事を転載するにしても、意外と労力がかかってコストが厳しいという状態になってしまうかと思われます。
当社の場合はデジタルシフトの後発だったので、こういう事は目に見えていたのでデジタルシフトをするにあたって、資金もない・人的リソースも無い中の苦肉の策ではありますが、経営的な判断として月刊誌として毎月発行をしていた誌面を2ケ月に1回の隔月化とセットで行いました。
代表の大久保も以前の記事で書いているのですが、雑誌の販売を2ケ月に1回にするということは雑誌の(B)販売売上は確実に半分以下になるというデメリットもありますが、同時に雑誌をつくるのにかかっていた(E)雑誌製作・編集費+(F)印刷代も半分になるというメリットもあります。かつ、毎月毎月雑誌が発行されるので実際編集の現場にいるとわかるのですが、月刊というのは編集をするにも、広告の営業をするにも1ヵ月という期間しかないためかなりスケジュールはタイトです。広告のクライアントに対しても、一緒にタイアップ記事広告の内容を詰めて考えていくことはなかなか大変です。昔のように雑誌がかなり売れていた時代はいわゆる純広告(クライアントから頂いた広告の材料をそのままページに掲載すること)でもよかったかもしれませんが、今の時代はクライアントと一緒にどうクライアントの商品の「良さ」を伝えるか、という事を考えていかないと広告の出稿は頂けません。そのための時間と編集や営業をする人的リソースを作ることが「隔月化」という手段でした。そこでできた時間で紙面の記事をWEBに転用をしていく、WEB限定の記事を書いていくという「読者を増やす」という活動ができるようになりました。
また、もう一つの商品である「広告」については今までは「雑誌」しかないので誌面のスペースを売るか、タイアップ広告で記事を作るかという選択肢しかありませんでしたが、WEBページを作り、読者を増やす活動と同時に、「雑誌とWEB」で連動をした「広告商品」を開発することができました。そもそも先ほどのマーケティングマイオピア論で定義をしていた「広告商品」は「クライアントの商品の良さを」「雑誌独自の視点で編集をし、記事にする」「それを拡散して反響を取り」「クライアントに喜んで頂く」という事です。ですので、雑誌出版社だからといって誌面にこだわらず、他のWEB媒体やSNSなどを活用してクライアントの反響を取る為に、拡散をするような商品を開発すればいいのです。
弊社では「誌面で特集を組みながら同時に各種ニュースサイトに当社が負担してブーストをかける」というような「特集ブースト」という商品を開発したり、クライアントのタイアップ記事をWEBにも掲載をした上で、雑誌のFACEBOOKページにも転載し、その記事自体にFACEBOOK広告をかけその広告運用費をお預かりするというような広告代理店のような立ち位置も取れるようになりました。
他にも雑誌やWEBサイトの特性にあったインスタグラマーの方々を組織化して、記事と同時にinstagramで拡散をするというような広告商品も取り組むことができました。
ここで書いている広告商品というのはすでに他の雑誌社さんなどでもやられているとは思いますが、大手の雑誌社さんとは異なり当社のような中小雑誌出版社が取り組むにはかなりハードルが高いです。そもそもWEBに関しての知見のある社員もいないですし、WEBができる人を数名採用しようと思ったらそれだけで年間人件費が数千万かかる話だからです。
弊社は運よく、私も含めて多少社内でWEB知識のある者もいて、かつご協力を頂ける会社さんなどもいた為、デジタル化をスムーズにすすめることができた事・デジタル化したうえできちんと「広告商品」を作れたことで、(B)雑誌販売売上は下がるけれども、(E)雑誌製作・編集費+(F)印刷代+(G)取次販売手数料・運賃を下げ、(C)広告収入を維持どころか上げていく事ができ、今後のさらなるデジタルシフトをしていく為のスタートをする事が出来ました。
ここで再度申し上げたい事は、「自社の商品をこれまでの視点のみで定義しない」という事であり、雑誌出版社の場合は「伝える」という事がそもそも事業の定義としてあり、そこを起点に商品・サービスを組み立てる事から始めないとデジタルシフトはできなかったと言うことです。その上で「売る商品」を作ったからこそ次のステップに進めているのだと思います。この点に関しては小売業もメーカーも自社の本来の「商品」「サービス」は何かという事を考える事で突破口は開けるのではないかなと考えます。
そこまで考えたうえで、媒体ごとの読者ターゲットだったり、編集方針だったりが意味を持ってくると思います。雑誌社の資産は「その独自の世界観なりで掴んでいる読者」と「情報を切り取り編集する能力」だけが資産だと思います。
もうここまできたら、通常の会社であれば「新事業」「新商品」で起死回生を考えることと思います。おそらく皆さんも考えれば答えは明白で、すでにほかの雑誌社さんもやられているように、弊社も同じように、WEBページへと注力することにしました。
しかし、ここで単純にWEBページを開設して、記事を書いていけばいいというのは早急な考えです。WEBページの記事を書いていくというにも、紙の記事と同じように(E)雑誌製作・編集費、(H)人件費(社内編集人員)、(I)各種固定費(サーバー代他)が必要です。単純にWEBページを開設しただけでは単なるコストアップです。後述しますが、かけたコストに対して紐づく売上がないからです。また、社内の人員にとっては人を増やさずにWEBページを開設するだけでは、仕事が増えて確実に疲弊することが見えています。また、WEBページを開設したからといっていきなり読者は増えません。読者がいないということは当然のごとく広告も売れません。だいたいどこの出版社さんもここで躓いて、WEBページを開設したけれどもなかなか閲覧数があがらないし、WEBページの記事を書いたり、雑誌の記事を転載するにしても、意外と労力がかかってコストが厳しいという状態になってしまうかと思われます。
当社の場合はデジタルシフトの後発だったので、こういう事は目に見えていたのでデジタルシフトをするにあたって、資金もない・人的リソースも無い中の苦肉の策ではありますが、経営的な判断として月刊誌として毎月発行をしていた誌面を2ケ月に1回の隔月化とセットで行いました。
代表の大久保も以前の記事で書いているのですが、雑誌の販売を2ケ月に1回にするということは雑誌の(B)販売売上は確実に半分以下になるというデメリットもありますが、同時に雑誌をつくるのにかかっていた(E)雑誌製作・編集費+(F)印刷代も半分になるというメリットもあります。かつ、毎月毎月雑誌が発行されるので実際編集の現場にいるとわかるのですが、月刊というのは編集をするにも、広告の営業をするにも1ヵ月という期間しかないためかなりスケジュールはタイトです。広告のクライアントに対しても、一緒にタイアップ記事広告の内容を詰めて考えていくことはなかなか大変です。昔のように雑誌がかなり売れていた時代はいわゆる純広告(クライアントから頂いた広告の材料をそのままページに掲載すること)でもよかったかもしれませんが、今の時代はクライアントと一緒にどうクライアントの商品の「良さ」を伝えるか、という事を考えていかないと広告の出稿は頂けません。そのための時間と編集や営業をする人的リソースを作ることが「隔月化」という手段でした。そこでできた時間で紙面の記事をWEBに転用をしていく、WEB限定の記事を書いていくという「読者を増やす」という活動ができるようになりました。
また、もう一つの商品である「広告」については今までは「雑誌」しかないので誌面のスペースを売るか、タイアップ広告で記事を作るかという選択肢しかありませんでしたが、WEBページを作り、読者を増やす活動と同時に、「雑誌とWEB」で連動をした「広告商品」を開発することができました。そもそも先ほどのマーケティングマイオピア論で定義をしていた「広告商品」は「クライアントの商品の良さを」「雑誌独自の視点で編集をし、記事にする」「それを拡散して反響を取り」「クライアントに喜んで頂く」という事です。ですので、雑誌出版社だからといって誌面にこだわらず、他のWEB媒体やSNSなどを活用してクライアントの反響を取る為に、拡散をするような商品を開発すればいいのです。
弊社では「誌面で特集を組みながら同時に各種ニュースサイトに当社が負担してブーストをかける」というような「特集ブースト」という商品を開発したり、クライアントのタイアップ記事をWEBにも掲載をした上で、雑誌のFACEBOOKページにも転載し、その記事自体にFACEBOOK広告をかけその広告運用費をお預かりするというような広告代理店のような立ち位置も取れるようになりました。
他にも雑誌やWEBサイトの特性にあったインスタグラマーの方々を組織化して、記事と同時にinstagramで拡散をするというような広告商品も取り組むことができました。
ここで書いている広告商品というのはすでに他の雑誌社さんなどでもやられているとは思いますが、大手の雑誌社さんとは異なり当社のような中小雑誌出版社が取り組むにはかなりハードルが高いです。そもそもWEBに関しての知見のある社員もいないですし、WEBができる人を数名採用しようと思ったらそれだけで年間人件費が数千万かかる話だからです。
弊社は運よく、私も含めて多少社内でWEB知識のある者もいて、かつご協力を頂ける会社さんなどもいた為、デジタル化をスムーズにすすめることができた事・デジタル化したうえできちんと「広告商品」を作れたことで、(B)雑誌販売売上は下がるけれども、(E)雑誌製作・編集費+(F)印刷代+(G)取次販売手数料・運賃を下げ、(C)広告収入を維持どころか上げていく事ができ、今後のさらなるデジタルシフトをしていく為のスタートをする事が出来ました。
ここで再度申し上げたい事は、「自社の商品をこれまでの視点のみで定義しない」という事であり、雑誌出版社の場合は「伝える」という事がそもそも事業の定義としてあり、そこを起点に商品・サービスを組み立てる事から始めないとデジタルシフトはできなかったと言うことです。その上で「売る商品」を作ったからこそ次のステップに進めているのだと思います。この点に関しては小売業もメーカーも自社の本来の「商品」「サービス」は何かという事を考える事で突破口は開けるのではないかなと考えます。
小澤 仁裕(おざわ いつひろ)
株式会社RRデジタルメディア 執行役員(経営戦略財務担当) 1974 年神奈川県小田原市に生まれ。東京大学農学部を卒業後、味の素に入社し、独立。現在は弊誌MADUROやソトコトの親会社RRデジタルメディアの財務担当役員等を務める。