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連載

マーケティング施策で目指すべきゴールは「購買」より「推奨」、コトラーの著書から背景を紐解く【ファンをつくる「顧客ロイヤルティ」の極意 Vol.4】

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SNSやスマートフォン、インターネット高速化などを背景に、企業とお客様の関係は「常時つながる」時代へ突入しました。マーケティング施策を打ち出すなら、両者の新たな関係を踏まえることが不可欠です。では、現代マーケティングでは何に目を向け、どんな効果を高めるべきでしょうか。コトラーの著書で触れているカスタマージャーニーの考え方を参考に、これから求められる重要指標について考えます。なお、本連載はリックテレコム『ファンをつくる顧客体験の科学「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本』の内容をもとに編集しております。

カスタマージャーニーから今求められるものを考察せよ

現代マーケティングでは企業のお客様との関係が同列になり、これまでの「企業主体」による関係はもはやなくなりつつあります。さらにスマートフォンやインターネットの高速化などにより、両者が常時つながる状態にもなっています。こうしたマーケティング環境を、コトラーの著書では「Marketing4.0」と呼びます。

コトラーは著書の中で、カスタマージャーニーが「Marketing4.0」環境になったことでどう変化するのかにも言及しています。そもそもコトラーはカスタマージャーニーをどう定義しているのでしょうか。コトラーが考えるカスタマージャーニーのイメージが図4-1です。

図4-1:コトラーが定義するカスタマージャーニーマップ((出典:リックテレコム『ファンをつくる顧客体験の科学「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本』)

コトラーはカスタマージャーニーによるプロセスを「認知」「訴求」「調査」「行動」「推奨」の5つに分けています。「購買」プロセスは「行動」の中の1つと位置づけています。

さらにコトラーは、カスタマージャーニーを活用する際の重要指標として「購買行動率」と「ブランド推奨率」を挙げています。その上で「ブランド推奨率」の方が重要であると主張しています。

これらのことから、「購買」の重要性は必ずしも高くないと読み取れます。「購買」はゴールではなく過程に過ぎず、むしろ「推奨」の方がゴールに近いと解釈できます。

「購買」や「推奨」に強い影響力を持つ人の体験価値を高めよ

一方、コトラーによるカスタマージャーニーの説明では、「顧客体験」を高める施策の重要性について読み取ることもできます。

コトラーはまず、カスタマージャーニーの5つのプロセス(「認知」「訴求」「調査」「行動」「推奨」)の影響因子を次のように定義しています。

・「認知」「訴求」プロセスの影響因子…「外的影響(Outer)」
(「Marketing2.0」までの主戦場であるマーケティングコミュニケーション施策と言えます)

・「訴求」「調査」プロセスの影響因子…「他者の影響(Others)」
(いわゆるSNSの登場による、クチコミなどとつながるコミュニティマーケティング施策と言えます)

・「調査」「行動」「推奨」プロセスの影響因子…「自身の影響(Own)」
(昨今のマーケティングの世界で注目を集める顧客体験向上施策と言えます)

その上でコトラーは、それぞれの影響因子と重要指標の相関性について、「Marketing4.0」時代では次のような相関性があると指摘しています。

「購買」に対しては、「他者の影響」が最も強い
「推奨」に対しては、「自身の影響」が最も強い

これらの相関関係を紐解くと、「購買時に強い影響力を持つ他者」になる人は、「自分自身が影響を受けていると実感する推奨者」になった人と解釈できます。つまり「Marketing4.0」時代では、強い影響力を持つ「他者」や「推奨者」といった人への体験価値を引き上げる施策が極めて効果的であると言えます。

「Marketing2.0」までの狩猟型マーケティング時代の場合、企業がタイムリーに発信する広告や情報によって高い効果を見込めました。しかし、「Marketing3.0」以降の農耕型マーケティング時代の場合、企業が一方的に発信する都合のよい情報より、お客様自身の顧客体験や体験に基づくブランド推奨によるクチコミの方がより効果的に機能するようになったのです。

従来型マーケティングからの変革の重要性や顧客体験の重要性について、コトラーは自身の他の著書でも指摘しています。その中で筆者が特に共感した文章を抜粋します。

デジタル革命による変化とピュア・デジタル・プレーヤーの出現の結果、顧客経験が全面的に最優先事項となった。そして、人々の期待が進化した。タッチポイントの細分化が進み、消費者は製品やサービスにアクセスする機会が増加している。

(コトラーのリテール4.0)

リテールとは、商品をバッグに入れさせることではない。長期にわたって継続する消費者とのリレーションシップをクロスメディアで築き、後に、その消費者に最も適したタイミングと方法で利益を回収する。

(コトラーのリテール4.0)

4P マーケティングミックスを重視したプッシュ型マーケティングは、デジタル社会の現実にもはやフィットしない。

( コトラーのH2Hマーケティング)

エクスペリエンス・イノベーションの目的は商品やサービスの改善ではなく、企業、消費者及びそのネットワークが生息する環境の共創にある。その目標は、パーソナライズされた、進化可能な経験の提供であり、モノやサービスはそこへの手段として進化する

( コトラーのH2Hマーケティング)

コトラーは決して新進気鋭の学者ではなく、「Marketing1.0」からの基礎を築いた大家です。筆者が感心するのは、コトラーは自身が築いた方法論を時代の変化に合わせて否定し、変革し続けている点です。同氏の著書「コトラーのマーケティング5.0」でも、「サービスドミナントロジック」というポストコトラーの方法論を重要な考え方として認め、推奨しています。

筆者は、偉大なコトラーのメッセージを現場で使える方法論に具体化することが役割だと考えています。さらに普及させることも役割だと考えます。 次回は、本連載の核となる「ファンづくり」に踏み込みます。ファンづくりの第一歩となる、ロイヤルティの見える化について解説します。

著者プロフィール

渡部 弘毅 (わたなべ ひろき)
ISラボ 代表 〈www.is-lab.org
一般社団法人 地域マーケティング経営推進協議会 理事

日本ユニシス(現 BIPROGY)、日本IBM、日本テレネットを経て、2012年にISラボ設立。一貫してCRM分野の営業、商品企画、事業企画、戦略・業務改革コンサルティングに携わる。現在は心理ロイヤルティマネジメントのコンサルティングを中心に活動。お客様の心理ロイヤルティアセスメントに関する独自の方法論を提唱し、ファンづくりの科学的かつ実践的なコンサルティング手法を展開する。業界団体や学術団体での研究活動、啓蒙活動にも積極的に取り組む。

〈著書〉
ファンをつくる顧客体験の科学 「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本/リックテレコム(2023/11)
お客様の心をつかむ 心理ロイヤルティマーケティング/翔泳社( 2019/12)
営業変革 しくみを変えるとこんなに売れる/メディアセレクト( 2005/1)

本連載は、リックテレコム刊行の『ファンをつくる顧客体験の科学 「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本』の内容を一部編集したものです。

ファンをつくる顧客体験の科学 「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本

出版社:リックテレコム
発売:2023年11月27日

<内容紹介>
多くの企業は「ファンづくり」の重要性を認めているものの、日常は「購買者づくり」のマネジメントに終始しています。これはファンづくりの科学的なマネジメントができていないからです。本書では、顧客ロイヤルティの定義からはじまり、構造化、定量化、分析、考察するロイヤルティアセスメント手法を、事例を交えながら解説しています。ファンづくりを、「思いのマネジメント」から「科学的なマネジメント」に変革するための知見が凝縮しています。

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