DXで事業を創出、もしくは事業を拡大した企業はどんな点に気を付け、成功へと突き進んだのか。「DXスタートアップ革命 第16回」は、食事の栄養指導を行うアプリを開発・提供するasken。業界の課題にどう切り込み、DXをどう進めていったのか。同社の取り組みを紹介します。なお、本連載は日本経済新聞出版「DXスタートアップ革命」の内容をもとに編集しております。
同社は食事の栄養指導をするスマートフォン専用アプリ「あすけん」を開発・提供する企業。「あすけん」を使って日々の食事を記録すると、食事で摂取した14の栄養素を把握できます。さらに栄養士を模したキャラクターがアプリ上で食事を評価したり、改善点をアドバイスしたりします。
これまでの栄養指導といえば、生活習慣病などの課題を持った人が月に一回程度しか受けられない限定的なサービスでした。しかし「あすけん」を使えば、こうした限定的だったサービスを多くの人が利用できるようになります。月に一回ではなく毎日、栄養指導を受けられるのも利点です。「あすけん」により、より多くの人の食事改善指導を短時間で実施できるわけです。
「あすけん」の最大の強みは「独自のアルゴリズム」と、asken 執行役員 兼 Asken Inc.(US社)COOの天辰次郎氏は強調します。「管理栄養士が食事の内容の何を見て、考え、患者に説明するのか。これをひたすら追求した。その結果、どんなデータを持つべきか。栄養価をどうフィードバックすべきかをパターン化できた」(天辰氏)と、アプリの特徴を強調します。独自のアルゴリズムを使ったアドバイスの自動生成パターンは20万通りを超えるといいます。
なお、栄養指導と聞くと、高齢者の利用が多いと思われがちだが、「20歳代の女性ユーザーが一番多い。美容やダイエット目的で利用する傾向が高い」(天辰氏)といいます。
もっとも、askenにとって美容やダイエットだけが目的ではありません。不適切な食習慣は、うつ病や能力の低下、肥満による生活習慣病の発症、ひいては医療費の増大につながります。「当社は食生活改善のプロである管理栄養士のノウハウや指導をDXする会社。アプリを通じて新たな栄養指導の形を提供することで、個々人の幸せづくりと社会課題解決を目指す」(天辰氏)と意気込みます。
同社は今後、糖尿病対策などの医療分野への展開を視野に入れます。さらには世界進出に向けて本格的に動く予定です。すでに北米では数十万人以上のユーザーを獲得しているといいます。
Information | |
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企業/団体名 | 株式会社asken |
所在地 | 東京都新宿区 |
事業内容 | インターネットを通じた食と健康に関するサービス提供 |
取り組む課題 | 多くの人に食生活改善や栄養指導の場を提供したい |
解決策 | 管理栄養士のノウハウを詰め込んだアプリを開発し、アプリ経由で栄養指導を実施できるようにした |
本連載は、日本経済新聞出版刊行の「DXスタートアップ革命」の内容を一部編集したものです。
日本経済新聞出版「DXスタートアップ革命」(守屋実監修)
日本経済新聞出版「DXスタートアップ革命」(守屋実監修)
筆者プロフィール
守屋実
1992年、ミスミ入社、新規事業開発に従事。2002年、新規事業の専門会社エムアウトをミスミ創業者の田口弘氏と創業、複数事業の立ち上げと売却を実施。2010年、株式会社守屋実事務所を設立。新規事業創出の専門家として活動。ラクスル、ケアプロの立ち上げに参画、副社長を歴任後、ジーンクエスト(ユーグレナグループ)、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会、サウンドファン、ブティックス、SEEDATA(博報堂グループ)、AuB、みらい創造機構、ミーミル(Uzabase グループ)、JCC、テックフィード、キャディ、セルムなど数々の企業の役員、理事などを歴任。JR東日本スタートアップのアドバイザー、JAXA上席プロデューサー、博報堂フェロー、内閣府の有識者委員などを務める。2018年にブティックス、ラクスルを2カ月連続で上場に導く。著書に『新しい一歩を踏み出そう! 』(ダイヤモンド社)。近著は『起業は意志が10 割』(講談社)。