CXの必要性が叫ばれる中、小売業ではお客様に近づくための「接客」の重要性が増しています。お客様にとって「接客」は大きな価値体験となり得るほど、重要な役割を担います。「接客」では何を重視し、何に注意すべきか。ここでは、「セブン‐イレブン・ジャパン」を創設したセブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏の著書「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」の内容をもとに、これからのCX時代に求められる接客の極意を紹介します。【鈴木敏文のCX(顧客体験)入門 Vol.9】
消費者の購買を後押しする「接客」の重要性
スマートフォンやWeb、メール、SNSなどの顧客接点が多様化する中、商品やサービスの価値を伝える「接客」の重要性がこれまで以上に増しています。コミュニケーションを前提とした接客は、お客様の「確認したい」といった欲求に応えるのに欠かせない役割を担います。
セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木敏文氏も著書「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」の中で、接客について次のように述べています。
モノ余りで消費が飽和したいまの時代には、接客こそがお客様にとって大きな体験価値になり、売り手にとっては重要な自己差別化の重要な要素になります。
お客様は、売り手側が自身の求める価値を理解しているのか。ニーズを満たしてくれるのか。さらに、一方通行ではなく互いに情報と価値観を共有できるか。これらを「確認したい」と言うのです。そのためには、さまざまな顧客接点を持つ中でもお客様に積極的に近づく接客が、オフラインかオンラインかを問わず見直されるべきだと言います。
「最後の一押し」をできるのも接客の強みです。売り方の知恵や売り場の演出、品ぞろえなどを含め、お客様が買うだけの価値があると感じてもらう接客が、自社商品を購入する決め手となり得るのです。
たくさんの種類、商品、品ぞろえの中、消費者はどの商品が本当に欲しいのか、どの商品を選ぶべきかに迷っています。その結果、自分で商品を選ぶことに疲れ切っています。そこで本当に欲しいものを見つけるお手伝いや、欲しい商品を探し出せる仕掛けづくりなどを通じ、「最後の一押し」をする必要があるのです。「最後の一押し」がなければ、お客様は商品探しに疲れ、商品購入まで至らなくなってしまいます。
接客時のコミュニケーションで必要なのは「共感」
では、接客ではお客様とどんなコミュニケーションを取るべきか。洋服売場を例に考えてみます。試着したお客様に、洋服の特徴やファッション的にどう優れているかを一方通行で説明するだけでは無意味です。お客様はこれでは、売り手を自分の中に入り込んだ「異物」と感じることでしょう。
このとき大切なのが「対話」です。自分なりの共感をお客様に示し、お客様からも共感を引き出す能力です。さらに、試着したときの心理を「お客様の立場」で汲み取ることも大切です。接客する側は、他人の目を代弁し、「お客様はこんな特徴をお持ちで、この服がいい感じでお似合いです」と、自分なりの共感を示すようにします。これによりお客様は、自らの選択に共感を得られたことになります。自分なりの感想などを話することで、さらに購買意欲が刺激されます。
接客で大切なコミュニケーションとは、売り手側が顧客に対して共感を示し、買うだけの価値があることを伝えることです。こうした対話型のコミュニケーションを通じ、お客様も背中を一押しされるようになるのです。
どうすればお客様と共感できるか、さらにはお客様の心理を探りながら、自分の考えを示し、価値感を共有し、共感を生み出すようにします。これが成功に結び付くコミュニケーション能力の基本です。「確認したい」と思っているお客様との接客の原点です。
モノ余りの買い手市場が続く中、欲しいものを見つけられない、しかし何か買いたいと思っている消費者は少なくありません。さらに、どれを買うべきか選択するのに疲れている人も多いでしょう。こうした消費者に選択を納得できる理由を提供し、背中を押す「最後の一押し」にこそ、接客では注力しなければならないのです。
DXマガジン総編集長 鈴木康弘の提言「顧客接点が変わっても必要なのは『接客』」
今回は「接客」の必要性についてです。デジタル化が進んでさまざまなものが自動化される中、アナログな手法とも言える「接客」の重要性が増しています。多くの小売事業者がECの構築や展開を加速させていますが、その大半が一定の規模や売上に達すると頭打ちになりがちです。ECを展開すれば、利用者にとっては店舗に行かなくて済むので便利です。レコメンドによってさまざまなアイテムを提案してくれるのもありがたいでしょう。しかしお客様は、必ずしもこうした施策だけでは満足しません。何が必要か。ECを強化する上で欠かせないのは「接客」です。 コロナを機に、ECと店舗を融合させるオムニチャネル戦略に舵を切る小売事業者が増えてきました。こうした企業の中には、店舗スタッフがECやSNSで自社商品を紹介したり、オススメを案内したりするケースが散見されます。オンラインによる接客に取り組み出しているのです。こうした取り組みで先行する小売事業者の中には、年間1億円を売り上げるカリスマ販売員を生み出す事例もあります。 こうしたオンライン接客を実現する販売スタッフの特徴は、お客様の共感を生み出すようなアプローチを心掛けている点です。販売員とお客様の接点がリアル店舗かECかを問いません。顧客とのタッチポイントがリアルでもオンラインでも、共感を生み出すことに主眼を置くべきです。時代や手段が変わっても、接客を通じた共感こそが求められるのです。
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