「文章を書いている時間がつらい」、「書き直しを何度も命じられて、なかなか書き終わらない」。文章に自信が持てず、メール1通書くのにさえ悪戦苦闘する人がいます。
原因はただ1つ。文章の原則を知らないからです。無理もありません。学生時代はビジネスにおける文章の原則とはかけ離れた「起承転結」が作文の基本と習ってきたのですから。
起承転結で前置きが長いと、読み手は読みたくなくなります。読みたいと思うモチベーションを引き出せるか、引き出せないかは、文章の書き出しにかかっています。理解するのに時間がかかるのは、ビジネス文章のような実用文では適当ではありません。
書籍でも、最初の3行を読んで退屈だと思えば、本を棚に戻してしまうでしょう。娯楽性が高い文章も含めて、読まれる文章は「導入部が命」です。3行どころか1行かもしれません。
導入部の工夫には、次のような手法がおすすめです。
1.読み手に問いかけ、考えさせる
2.話し言葉(台詞)や情景から始める
3.読み手にとって切実な課題を取り上げる
4.タイムリーな話題を盛り込む
5.意外性のある言葉を投げかける
ビジネス文章では最初に書くのは結論なので、特にひねる必要はありません。ただ、読みたいと思うモチベーションを引き出すには、読み手が「自分事(じぶんごと)」として冒頭の話題を捉えるような工夫が大切です。
よく「つかみはOK!」といいます。まず「今から何を述べるのか」を明確に示せば、相手は心の準備ができます。序論・導入部分で主張を述べることで、結論までの導線が短くなり、具体的な事例の理解がしやすく、説明もスマートに見えます。
連載第1回目でマーケティングは恋愛に似ているとお伝えしました。ですから、文章は読み手への「ラブレター」になっているかという視点が大切です。
「モテない人は自分の過去を語り、モテる人は相手との未来を語る」という言葉を聞いたことがあります。つまり、良いラブレターは、相手のこともきちんと考えている文章なのです。
相手が興味を持ちそうな話題から入る、あるいは共感を誘う。
次に、自分を知ってもらいたい、思いを伝える。
少し大げさかもしれませんが、「世界に対して発信すべきことはなんだろう?」「何を伝えるとみんなが喜ぶだろう?」というマインドを持つことも大切です。
あなたの文章を相手が読むのは、相手がわざわざ時間を割くということです。だから、文章は読ませるのではなく、読んでもらうものです。
書籍の場合、ほぼすべての購入は〝本音〟で行われます。「付き合い」や「建前」で買ってくれる人も中にはいますが、「本当に役立ちそうだ」「本当におもしろそうだ」と思ってもらえなければ、高いお金を出してくれるはずがありません。
SNS(交流サイト)やブログで誰もがコンテンツを発信できるようになったということは、すべてのコンテンツがプロのつくったものと比べられるということです。発信が簡単になっていく一方で、読んでもらえるハードルは年々高くなっています。
あなたの文章に、相手はいくら払ってくれるでしょうか。読者は本音でコンテンツを選びます。ですから、提供側も真摯にコンテンツをつくらなければなりません。
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本連載は、CCCメディアハウス刊行の「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」の内容を一部編集したものです。
CCCメディアハウス「即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術」(白鳥和生著)
筆者プロフィール
白鳥和生
株式会社日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ次長。
明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を担当した。「日経MJ」デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に「ようこそ小売業の世界へ」(商業界)「2050年 超高齢社会のコミュニティ構想」(岩波書店)「流通と小売経営」(創成社)などがある。日本大学大学院総合社会情報研究科でCSRも研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。