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書評

セブンイレブン創設者の鈴木敏文氏が導き出したCXの答えとは/「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」

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約50年前にCXに着目したセブン‐イレブン。なぜ重視したのか。今回紹介する一冊「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門 」では、セブン‐イレブン・ジャパンを創設した鈴木敏文氏の「CX理論」が綴られています。

 本書では、1973年に「セブン‐イレブン・ジャパン」を創設したセブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏が実施した「CX(カスタマー・エクスペリエンス)」の取り組みを紹介しています。商品より顧客になぜ目を向けるのか、顧客の体験をなぜ重視するのかといったヒントを、同氏の取り組みから紐解いています。  小売業では今、「顧客体験」を意味する「CX」の重要性が増しています。もっとも最近は小売業に限らず、顧客と直接的な接点を持たない製造業でもCXを高める製品開発やマーケティング施策に主眼を置くようになってします。DX(デジタル・トランスフォーメーション)の一環で、変革を促す施策の1つとしてCXを重視する動きも目立ちます。
 では鈴木敏文氏は、セブン‐イレブンでCXをどう体現したのか。本書では具体的な取り組みとして、「女子会」や「家飲み」を想定した売り場づくりの実例に触れています。店舗周辺の商圏を分析し、女性や団塊世代が多いことや最寄り駅の乗降者数などを把握。さらに駅前の居酒屋数も調査し、「女子会のニーズが高いのではないか」「家飲みの需要が高いのではないか」といった仮説を立てます。その上で仮説立証に向けた売り場づくりに着手します。女性が好むフルーツ系のリキュールを増やすほか、チーズや生ハム、ピクルスなどを酒類と一緒に陳列した“家飲みエリア”を用意し、売上アップを図ります。
お客様の行動を予測し、どんな体験を望むかを予想して、仮説を立て、売り場づくりの実験を開始
via プレジデント社「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」
 この売り場づくりで何より重視しているのが「仮説」です。本書では、仮説を立てる「仮説力を鍛える」重要性にも詳しく触れています。鈴木敏文氏の経営学の真髄は「仮説・検証」と言われるほど、同氏は仮説の必要性を説いています。そのためには、世間で言われていることを鵜呑みにしない、仮説は勉強からは生まれないなどの仮説力を鍛える取り組みこそ必要です。本書ではセブン‐イレブンの事例を交えながら、仮説力を鍛えるポイントを1つずつ詳しく解説しています。  もっとも、過去の受発注履歴などのビッグデータをもとに仮説は立てられないと同氏は指摘します。特定のパターンを抽出できても、これまでにない新たな消費スタイルを探し出すことはできません。データは仮説を検証する段階で役立つもので、お客様の潜在的ニーズを探るのにデータを解析すべきではないと同氏は提言しています。  さらに同氏は、「お客様のため」ではなく「お客様の立場で」考えることが大事だと説きます。
「変わらない視点」の基本は、常に「お客様の立場で」考えることでした。お客様が次はどんな「新しいネタ」を求めるか、潜在的ニーズの答えはいつもお客様の中にあり、お客様の心理の中に潜んでいるからです。
via プレジデント社「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門 」
 「お客様のため」と「お客様の立場で」。一見同じような考え方ですが、この差がまったく異なる答えを導き出すと言います。「お客様のため」は「売り場の立場で」考えられがちで、そこには過去の経験に基づくお客様への思い込みや決め付けがあります。売り手としての立場や過去の経験を否定することが「お客様の立場で」には欠かせないと言います。  では、仮説に基づき、お客様のCXを高めるには何が必要か。鈴木敏文氏は本書で、お客様の体験価値を高めるには、物語性のあるカスタマージャーニーを構築することが大切だと説いています。お客様が製品やサービスを利用するまでの過程で、何を考え、どう行動し、何を感じるのかといった体験を時系列にまとめ、想定することが大切です。  注意すべきは、物語性のあるカスタマージャーニーを描けるかどうかです。ここで言う物語性とは例えば、週末にご褒美として美味しいものを食べるといったストーリーです。なぜ、その商品を買うのかという物語を生み出せるかどうかが、消費者の店舗選びを左右すると言います。他店にない体験価値をつくり出すには、物語性を生み出せるかどうかが重要で、生み出すことが他店にない差異化策になります。例えば、「女性を味方にする」「地域とのつながりを大切にする」なども他店にはない物語性を要していると言えます。  なお本書では、ネットとリアルを融合する「オムニチャネル」についても触れています。日本ではセブン&アイグループが先駆けてオムニチャネル戦略を打ち出しており、同氏はその必要性にも言及しています。  これまでの流通業や小売業は、売り手側を起点とした仕組みで成り立っていました。つまり、「お客様に店舗に来店いただく」という考え方です。これは、需要が供給を上回る売り手市場時代を前提とした仕組みです。しかし、供給が需要を上回る時代では、お客様の来店をただ待つだけではなく、供給側がお客様へ近づいていかなければならないと言います。売り手側ではなく、お客様を起点にした新たな仕組みを構築しなければならない。これこそが顧客起点の戦略で、オムニチャネル戦略の本質となるのです。なお、本書ではオムニチャネルを「流通のあり方の最終形態」と呼び、日本の新たな消費社会を切り拓く手段と位置付けています。  本書では一貫して「お客様に寄り添う」ことの必要性を伝えています。今でこそ「CX」という言葉が日常的に使われ、顧客起点の取り組みが当たり前に実施されています。しかし、鈴木敏文氏は約50年前からすでに取り組んでいたのです。「仮説に基づき、顧客の潜在ニーズを把握する」。このCXの本質とも言える取り組みを徹底的に極めたい経営者にこそ、本書「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」はお薦めの一冊です。

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