新型コロナウイルス感染症は、事業の在り方はもちろん、消費者である顧客にも大きな変化をもたらしました。企業は当然、顧客の変化を読み取り、ニーズに合致した製品やサービスを展開しなければなりません。では、顧客はどう変わったのか。本稿では「CX(カスタマーエクスペリエンス)」を基点に、顧客体験を高めるのに必要な企業の戦略、方針を考察します。第1回となる今回は、コロナによる消費者の行動変化がeコマースやEC事業に影響をもたらしたのかを調査結果から読み取ります。(※本稿は、電通アイソバーがコマース担当者や小売流通業向けに実施したさまざまなウェビナーのエッセンスを再編集したものです)
新型コロナは社会をどう変えたか?
2020年の幕開けから1年余り過ぎた現在。新型コロナウイルス感染症の拡大は私たちの生活を変え、ビジネスにも大きな影響を与えています。では、本質的にはどう変化したのか? 改めて整理しましょう。
ローランド・ベルガーが発表した「新型コロナウイルス 生活者の価値観・ 消費行動・働き方は どう変わるか」では、新型コロナウイルス感染症によって生じたさまざまな事象が人々の価値観を変え、行動を変化させていると指摘しています。
例えば、オンラインショッピングやフードデリバリーの活用頻度が増えた、仕事でオンラインの会議や在宅テレワークの機会があったなどの経験は最たるもの。これまでは、こうしたライフスタイルや働き方を考えたことすらない人が大半だだったのではないでしょうか? 今なお、変化に戸惑っている人もいるはずです。
しかし一方、こうした変化が新たなビジネス創出のきっかけになっているのも事実です。MarkeZine RESEARCHが2020年5月15日に発表した調査によると、「新たな需要・ビジネスチャンスが生まれた」と回答した割合は30%に上ります。
via markezine.jp
すでに多くの事例が散見されます。例えば、アパレルメーカーがTシャツとマスクの柄を合わせた商品を販売した、雑貨店がモバイル端末を使ってオンライン接客しながらリモートでショッピングできるシステムを導入したなどです。さらに、ドライブスルーで商品を購入できる八百屋が誕生したなど、ニューノーマル(新常態)を契機にしたアイディアが売上拡大策として取り入れられつつあるのは見逃せません。
eコマースに投資して本当に商機があるのか?
では、今回のコロナを機にネットやEC、モバイルといった事業に注力すべきなのでしょうか。多くの企業がここ1年で、「eコマースの展開と体制強化が急務だ」と考えているに違いないものの、急いで取り組むことが必ずしも良い成果をもたらすとは限らない場合があります。
経済産業省が発表した平成30年度「電子商取引に関する市場調査報告書」は、eコマースの役割は限定的であることを示しています。同調査では、BtoC向けのEC化率は2010年以降、右肩上がりだったが、2018年では一般的な業種のEC化率は6.22%にとどまります。コロナまん延前の調査結果ではあるものの、EC化率は10%もない状況であることが分かります。
via www.meti.go.jp
事務用品や文房具などの物販を取り扱う分野に限り、EC化率は40.79%と高いものの、比較的EC化率が高いとされていたアパレル業界でもEC化率は12.96%です。つまり、リアル店舗しか運営してこなかった事業者がネットやECに注力すべきではあるものの、売上の比重をネットに大きく依存させることは必ずも適切な結果をもたらすわけではないと言えるのです。
via www.meti.go.jp
このような状況を、電通アイソバーは次のように考察します。
「新型コロナウイルスの感染対策の徹底もあり、以前のような『ふらりと店舗を訪れる』という顧客も戻りつつあるだろう。しかし、本当に『何も気にせずショッピングを楽しむ』という気持ちになるまでにはまだ時間を要するはずだ。そして、またいつ『緊急事態宣言と営業自粛』が求められるようになるか、わからない。
そう考えると、EC化やEC機能の強化は経営の中でも優先度が高い取り組みであり続けるはずだ。また、ECの強化は企業にとって、顧客層の拡大とピークタイムのシフトという2つのメリットが考えられる」
そう考えると、EC化やEC機能の強化は経営の中でも優先度が高い取り組みであり続けるはずだ。また、ECの強化は企業にとって、顧客層の拡大とピークタイムのシフトという2つのメリットが考えられる」
ここで指摘されている「顧客層の拡大とピークタイムのシフト」が期待できる理由の1つは、「これまでeコマースを利用してこなかった高年齢層が、実店舗よりeコマースの利用にシフトしている」という現象です。
これは、三井住友カードが発表した調査結果からも読み取れます。同社が2020年5月7日に発表した「コロナ影響下の消費行動レポート」によると、1~3月の決済利用を比較すると、男女ともに20代~30代より50代~60代が大きく伸びています。50代や60代はスーパーマーケットの利用も伸びつつ、eコマースの伸びも大きいことが分かります。
eコマースの利用時間についても変化が現れています。Virtusizeが2020年4月9日に発表した調査レポート「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における国内ファッションECへの影響」では、2019年と2020年のECサイトの利用時間を比較しています。
via www.virtusize.jp
その結果、「2019年は21時以降にピークが訪れていたが、2020年は19時ごろがピークになっている」であることが分かります。これは、在宅勤務のため、あるいは終業後すぐに帰宅することが“当たり前”になったことで、夜に自宅で自由に時間を過ごす機会が増えているからだと考えられます。
つまり、店舗やECを運営する企業はこうした状況から、実店舗にスタッフを配置して接客しようせず、eコマース利用者に向けて実店舗と変わらないオンライン接客サービスを提供できるようにすれば顧客満足度を高められるかもしれない、と考えていると推察できます。
このように、新型コロナウイルス感染症の影響によって消費者のニーズや社会は変化しているものの、その変化を詳細に把握することが何より重要です。eコマースの普及率やEC化率から市場の動向を読み取るとともに、利用する世代や利用時間帯の変化まで調べ、「誰」が「どんな」変化を示しているのかまで把握すべきです。こうして考察することが、顧客一人ひとりに合ったサービスやマーケティング施策を打ち出せるようになるのです。
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第1回目の内容はここまで。今回は新型コロナウイルス感染症が消費行動にどんな影響を及ぼしているのかを、政府や各社の調査情報などを参考にしながら考察しました。第2回目は、こうした市場の変化に追随すべく、eコマース事業を本格化させようとしたときの注意点、特にリアル店舗との連携・融合の在り方を中心に紹介します。
第1回目の内容はここまで。今回は新型コロナウイルス感染症が消費行動にどんな影響を及ぼしているのかを、政府や各社の調査情報などを参考にしながら考察しました。第2回目は、こうした市場の変化に追随すべく、eコマース事業を本格化させようとしたときの注意点、特にリアル店舗との連携・融合の在り方を中心に紹介します。
筆者
電通アイソバー株式会社(Dentsu Isobar Inc.)
世界45カ国と85以上の拠点でボーダレスにサービスを提供するIsobarネットワークの一員であるグローバルデジタルエージェンシー。最先端のデジタルマーケティングの知見を有し、「We are the CX Design Firm. 」をビジョンに掲げ、アイディアとテクノロジーにより、企業の持つ課題解決にむけた新たな体験価値を生み出すことを推進する。