日本オムニチャネル協会は2025年9月17日、DXシステムセミナーを開催しました。今回のテーマは「『販促脳』ではもう売れない!オーバーストア時代のデジタルマーケティング」。デジタルを駆使したこれからの販売促進戦略について考えました。
クーポン発行、ポイント倍増、特集ページの乱立…。目先の売上を追うだけの「販促脳」に陥っていませんか? モノと情報が溢れる「オーバーストア時代」、小手先のテクニックはもはや通用しません。顧客は賢くなり、本当に価値あるもの、共感できる体験しか選ばなくなっています。
そこで本セミナーでは、こうした「デッドオーシャン化」した市場で勝ち抜くための新戦略とソリューション例を紹介しました。ゲストには川添隆氏(エバン合同会社CEO)、野田大介氏(株式会社FANATIC代表取締役)、高橋直樹氏(株式会社ReviCo代表取締役)が登壇。モノや情報が飽和し、物価高が購買行動に影響を与える現代において、企業が顧客から選ばれ続けるための新戦略が議論されました。
「販促脳」では生き残れない時代
クーポンやポイント倍増といった目先の施策は限界に達し、生活者は真に価値のある商品や体験にしかお金を使わなくなっています。登壇した川添氏は「単価は上がっているが客数は減っている」と指摘し、特にリピーターの減少が企業の収益構造を揺るがしていると警告しました。市場が「デッドオーシャン化」する中で企業に必要なのは、一時的な売上ではなく、持続的に顧客から選ばれる「総合力」と指摘します。
現代の消費者は「なぜこの1万円の商品を買うのか」という問いに納得できる理由を求めています。安さや一時的なキャンペーンでは心を動かせず、ブランドへの共感や購入後の体験といった情緒的な価値が重視されます。商品やサービスの力に加え、販売・物流・CSといった部門全体の力を結集し、顧客に意味のある体験を提供することが不可欠です。
セミナーでは総合力の核として「商品力」も強調されました。川添氏は「ECの売上は7〜8割が商品で決まる」としつつ、単なる品質ではなく独自性やストーリー性、顧客が共感できるプロセスまで含めた広義の概念として捉えるべきだと語ります。さらに、データを活用した部門連携の重要性も議論されました。販売データを即時に企画へ反映し、物流が需要予測に基づいて動くことで、欠品や機会損失を防ぎ、競争力を高める仕組みが求められているといいます。

一方、顧客関係管理(CRM)や「ファン化」という言葉は広く使われますが、その実態は曖昧です。川添氏は「ファン化には余白がありすぎる」と疑問を呈し、本質は継続購入を習慣化できる環境づくりだと指摘しました。単に会員登録を増やしても意味がなく、顧客が企業との接点を通じて価値を感じることが大切です。メルマガやLINEといった身近なチャネルを活用し、顧客にとってメリットのある情報を届ける姿勢が信頼関係構築の基盤となります。
顧客との新たな関係を築く2つのソリューション
では、具体的にどのようにして「販促脳」から脱却し、顧客との新たな関係を築いていけばよいのでしょうか。セミナーでは、そのヒントとなる2つの先進的なソリューションが紹介されました。一つは、これまでアプローチが難しかった「非会員」との接点を創出するツール、もう一つは、集めた「顧客の声」を企業の成長エンジンへと転換するツールです。
【ワズアップ!】非会員との接点を生み出す新たな一手
多くの企業が顧客との接点作りとしてLINE公式アカウントを活用していますが、従来のCRMでは大きな課題がありました。それは、「友だち追加」「会員登録」「ID連携」という3つの高いハードルです。FANATICの野田氏は、「このプロセスを経る中で多くの顧客が離脱してしまい、最終的にアプローチできるのはごく一部のロイヤリティが高い顧客に限られてしまう」と指摘します。
この課題を解決するのが、同社が提供する「ワズアップ!」です。このツールの最大の特徴は、「会員登録やID連携が不要で、LINEのセグメント配信ができる」点にあります。例えば、ユーザーがECサイトの商品ページにある「新着情報を受け取る」というボタンをタップするだけで、LINEを通じてそのブランドや商品の入荷情報が自動で届くようになります。これにより、これまでCRMの対象外とされてきた「非会員」を含む、サイトを訪れたすべての顧客に対して個別のアプローチが可能になるのです。
野田氏は、この仕組みの背景にある思想を「情報接点と購入接点の分離」という言葉で説明しました。「本来購入時に行う登録の負荷を、情報が欲しいお客様に課してしまうのは、LINEが持っている手軽さを損なってしまっている」(野田氏)と考察。ワズアップ!は、購入という高いハードルを課す前に、まずは情報提供というライトな関係性を築くことを可能にします。

その効果は、アパレル大手の事例で顕著に示されています。ある大手アパレル企業では実店舗の在庫がない場合、入荷の通知をLINEで受け付けられるようにしました。その結果、「これまで把握できなかった店舗に眠っていた機会損失が毎月数億円規模で存在していたことが可視化された」(野田氏)といいます。さらに、「顧客にとっての利便性が向上したことで、LINEの友だち追加数も導入前後で1.9倍に増加した事例である」(野田氏)といいます。
この仕組みは非会員の顧客体験も劇的に向上させます。従来の「取り置き」が顧客に「行かなければならない」「買わなければならない」という心理的プレッシャーを与えていたのに対し、ワズアップ!による入荷通知は、来店するかしないか、購入するかしないか、すべての判断を顧客に委ねます。「自由度の高さこそが、ライトな顧客層に心地よい買い物体験を提供し、ブランドとの良好な関係を築く第一歩となる」(野田氏)と利点を強調しました。
【ReviCo】「顧客の声」を企業の成長エンジンに変える
ECでの購買において、レビューが極めて重要な役割を果たすことは、誰もが実感しているでしょう。しかし、「レビューが重要だとわかってはいるものの、なかなか集まらない」というのが多くの事業者の悩みでした。この根本的な課題を解決するのが、ReviCoが提供するレビュー最適化ツール「ReviCo」です。
代表取締役の高橋氏は、ReviCoが圧倒的にレビューを集められる理由として、ReviCo側が費用と運用を負担して行う独自のキャンペーン施策を挙げました。「デジタルギフトなどが当たるキャンペーンをフックにすることで、ユーザーの投稿意欲を刺激し、平均してEC購入者の約9%(10人に1人)という高い投稿率を実現する。この仕組みは特許も取得しており、他社にはない強みである」(高橋氏)と強調します。川添氏も「レビューは集まらなければ意味がない。とにかく集まるのがReviCoのいいところ」と、その集客力を絶賛しました。
ReviCoの真価は、ただレビューを集めるだけではありません。集まった膨大な「顧客の声」を多角的に活用し、企業の成長エンジンへと転換させるところにあります。第一に、CVRの向上と期待値コントロールです。ある小売店の事例では、レビューがあるだけでCVRが最大0.5%向上したといいます。また、多くの消費者は、事業者が発信する情報よりも他の消費者のリアルな声を信頼します。サイズ感のズレや色の印象の違いといった、購入後の「がっかり」を防ぎ、顧客の期待値を適切にコントロールすることで、返品率の低下や顧客満足度の向上に繋がります。

第二に、商品・サービス改善の貴重なヒントとしての活用です。レビューには、顧客からの賞賛だけでなく、改善要望や不満といった「生の声」が詰まっています。「先進的な企業の中にはこれらの声を真摯に受け止め、商品開発やMDに活かすケースがすでにある。ReviCoでは膨大なレビューをAIで要約し、開発担当者がインスピレーションを得やすい形で社内共有する仕組みを提供する。データに基づいたスピーディーな改善サイクルを実現する手段となるのがReviCo導入の利点だ」(高橋氏)といいます。
第三に、CS対応やCRMの起点としての活用です。低評価レビューに対して迅速かつ丁寧に対応することは、顧客の不満を解消し、むしろ信頼を勝ち取る機会になり得ます。また、高評価をくれた顧客に感謝を伝えることで、より強固な関係を築くことも可能です。さらに、レビュー投稿という能動的なアクションを起こしてくれた顧客は、優良顧客になる可能性が高い層です。レビュー投稿者限定のクーポンを発行することで、効果的なリピート促進(F2転換)に繋がった事例も報告されています。
高橋氏は、「お客様のレスポンスをどう取るか、そしてレスポンスしてくれたお客様をどう大事にしていくか」が重要だと語ります。これらの取り組みを支援するのがReviCoで、高橋氏は、「レビューはもはや単なる評価ではなく、顧客と企業が対話し、共に価値を創造していくためのコミュニケーションプラットフォームである。このコミュニケーションのやり取りを最大活用できるようにするのがReviCoである」とセミナー参加者に訴えました。
総合力と顧客本位の姿勢が未来を切り拓く
今回のセミナーを通じ、短期的な販促頼みから脱却し、商品力を核に各部門をデータで結び、顧客本位の接点を創出することが重要であると示されました。ワズアップ!やReviCoといったツールは、その実践を後押しする具体的な手段です。オーバーストア時代を勝ち抜くためには、企業の総合力を結集し、顧客の生活に溶け込む持続的な関係を築くことが求められています。

関連リンク
日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/
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