「システムを導入したのに業績が上がらない」。こんな不満を抱える企業は少なくありません。しかし、この疑問の答えは明快です。それは「業務を整理しているかどうか」です。どんなに高価で高性能なシステムを導入しても、使う側の業務が複雑で不明瞭なままでは、システム導入の成果を見込めません。逆に業務を整理し、仕組みとして最適化すれば、システムは「負債」から「資産」となるのですここではシステム導入効果を最大化する業務の在り方について解説します。【連載第14回:ECの進化とシステムの変遷】
企業の競争力を支える1つが、強靭なオペレーションシステムです。しかし、その真価が問われるのは導入した瞬間ではありません。業績を上げ続ける「資産」としてシステムを昇華させたとき、初めて真価を発揮するのです。そのためには組織として業務を整理し、業務の精度を磨き上げる力が欠かせません。
システムは「売れる仕組み」を生む資産
例えば広告の場合、一出稿を止めた途端に売上が途絶えてしまうことが少なくありません。一方、「売れる仕組み」をシステムとして構築すれば、システムは継続的に業績を伸ばし続ける“資産”となります。小売事業者に置き換えると、オムニチャネルのサービスを整備し、CRMを活用してLTV(顧客生涯価値)を高める事業者がいる一方で、その場しのぎの値引きに頼る企業もいます。両社が保有する「資産」の差が、数年後の売上に大きな差を生むわけです。ただし、売れる仕組みの裏には必ず「業務」が存在します。その業務を整理し、仕組みとして最適化することこそが、システム化の出発点なのです。
システム導入は「業務づくり」そのもの
多くの企業が誤解しがちな点があります。「システムを導入すれば効率が上がる」という幻想です。実際には、業務が整理されていなければ、どんなに高性能なシステムでも効果を発揮できません。
システム導入とは、すなわち業務を再構築することそのものです。また、すべてを自社開発する必要はありません。競争領域(自社の独自性が生きる部分)はオリジナルで構築し、非競争領域はSaaSやパッケージを活用して、業務をシステムに合わせていく柔軟さが求められます。
業務整理がシステムを強くする
システムが複雑になる原因の多くは、実は業務や組織の複雑さにあります。業務を整理、共通化し、過剰なサービスを削ぎ落とすことで、システムはシンプルになり、拡張性や保守性が高まります。例えば、出荷業務を共通化できるにもかかわらず、縦割り組織のまま別々に運用しているケースがあります。こうした「分離の強み」が、時に「分断の弱み」に転じてしまうのです。部分最適の積み重ねは、全体としての過剰や非効率を生み出します。各担当者が“自分の仕事の優先度”だけで動いてしまうと、全体の整合性が失われます。
だからこそ、DX推進には全体の意思決定を担う経営層の関与が不可欠です。ビジネスへのインパクトや費用対効果の視点から、全体最適の優先順位をつけることが鍵となります。この視点を欠いたままでは、システム保守費は膨らみ、予期せぬ不具合が増え、事業変化への対応も遅れます。その結果、システムは“資産”ではなく“負債”へと変わってしまうのです。
整理された業務が、利益を生み続ける
システム導入を外部に丸投げしても、業務改善は実現しません。現場と経営が一体となり、整理された業務をシステム化・自動化することで、売上が伸びても販管費を抑えられる「利益体質」の組織が生まれます。システムは単なる道具ではなく、企業の成長を支える資産です。だからこそ、業績を上げ続けるためには、業務整理という地道で継続的な組織的努力を欠かしてはなりません。

林雅也
株式会社ecbeing 代表取締役社長
日本オムニチャネル協会 専務理事
1997年、学生時代に株式会社ソフトクリエイトのパソコンショップで販売を行うとともに、インターネット通販の立ち上げに携わる。1999年にはECサイト構築パッケージ「ecbeing」の前身である「ec-shop」を開発し、事業を推進。2005年に大証ヘラクレス上場、2011年に東証一部上場へ寄与。2012年には株式会社ecbeingの代表取締役社長に就任。2018年、全農ECソリューションズ(株)取締役 JAタウンの運営およびふるさと納税支援事業を行う。2020年からは日本オムニチャネル協会の専務理事を務め、ECサイト構築パッケージecbeingの導入サイトは1600サイトを超える。
日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/












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