近年、世界の中央銀行がデジタル通貨(CBDC=中央銀行デジタル通貨)の発行や制度設計を本格的に検討しており、その動きには地域による特色と競争の様相が色濃く現れています。特に、欧州、英国、新興国では「何のために」「どのように」発行を進めるかが明確化しており、これらの流れを知ることは日本の検討状況を理解するうえでも重要です。国際決済銀行(BIS)の最新調査によると、世界の中央銀行の約91%が小売型・大規模型いずれかのCBDCを「検討中」としており、発行目的・設計機能・技術要件には大きなばらつきがあります。
欧州:デジタルユーロの「制度準備フェーズ」へ
欧州においては、European Central Bank(ECB)が「デジタルユーロ」導入に向け、制度設計・技術検証の段階を進めています。具体的には、プライバシー保護、オフライン利用、既存通貨・決済サービスとの併存といった設計論点が整理されつつあります。
このプロジェクトは発行を決定する前段階として、技術インフラ・法制度・運用モデルの検討を数年にわたって行うものとされ、その判断は2025〜2026年ごろになるとの観測もあります。欧州域内という共通通貨・決済圏を抱える点が、他地域と異なる特徴です。
英国:デジタルポンドを設計段階で継続
英国では、Bank of England(イングランド銀行)と政府がデジタルポンドの設計フェーズを継続中です。民間決済事業者との連携、POS端末での概念実証(PoC)といった実務検証も進められており、技術・運用面の具体化が進んでいます。これは「発行をいつやるか」ではなく「どのように実現させるか」という段階に入っていることを意味します。
英国はキャッシュレス・銀行決済インフラが既に発達しており、むしろ「既存決済との共存」「民間サービスとの棲み分け」がテーマとなっています。
新興国・途上国:金融包摂と効率化を狙う戦略
一方、新興国・途上国では、CBDCが金融包摂や決済効率化を目的とすることが目立ちます。銀行口座を持たない層の決済参加を促すため、CBDCが“入り口”となるケースが想定されており、先進国とは目的が若干異なっています。BISの報告によれば、これらの国は分散元帳技術(DLT)を採用する可能性が高く、取引制限の設計も先進国と異なる傾向があります。
例えば、既存決済手段が十分でない地域や現金依存度の高い社会では、CBDCが“決済インフラの代替・補完”という位置づけになりえます。
どの地域でも共通して見られるテーマとして、「相互運用性」「決済効率」「クロスボーダー利用」「プライバシー・セキュリティ」「マネーロンダリング対策(AML/CFT)」があります。BIS調査では、これらの設計課題が多くの中央銀行にとって未解決であると指摘されています。
また、発行時期については「2020年代後半」以降という見通しが多く、特に小売型CBDC(一般市民が使うタイプ)は発行までの距離があるという分析もあります。
興味深いのは、CBDCを巡る競争構図です。特にクロスボーダー決済や準備通貨国としての位置づけを巡り、地域間で“どの通貨・どの仕組みが主流になるか”という地政学的な視点も浮かび上がってきています。
日本にとっての意味合いと今後の視点
日本においては、こうしたグローバルな動きを踏まえつつ、自国の制度・決済インフラ・社会事情に応じた検討が求められます。欧州や英国のように制度設計に慎重さを保つ戦略もあれば、新興国のように“包摂”・“効率化”を旗印に発行を早める戦略もあります。日本ではキャッシュレスが進展しているため、むしろ「既存インフラとの役割整理」「国際決済との連携」が重要論点になるでしょう。
加えて、クロスボーダー利用を念頭に置いた設計や、民間サービスとの連結、さらにはプライバシー保護・利用者利便性の確保が今後の焦点となります。世界各国がCBDCを次世代の金融・決済インフラと位置づける中で、日本の取り組みも世界潮流の“文脈”の中で捉えておくことが重要です。
欧州・英国・新興国とそれぞれ異なる動機と戦略でCBDCを検討するなか、共通するのは「デジタル化の波にどう応えるか」「中央銀行マネーの信頼をどう維持するか」という点です。日本が発行に前のめりになるか、慎重に構えるかは、まさにこれらの世界的潮流を踏まえたうえでの判断となります。政策・金融関係者だけでなく、幅広い企業や決済サービス提供者にも影響が及びつつあるため、今後の国際動向に注目です。






















