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コラム

商品より“息子のこと”が購買を動かす? 見落とされた女性インサイトが事業を変える

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マーケティング戦略を考えるとき、男女をひとまとめに「顧客」として扱うのは望ましくありません。顧客起点の視点を誤らせる可能性があります。とりわけBtoCの一般消費者向け商品やサービスの戦略を検討する際、女性の購買行動を分析することが不可欠です。近年「男女で分けるのはナンセンス」といった声もあります。しかし、こうした議論は主に人権的な文脈で語られるもので、消費者の購買行動を理解するには男女を別々にすることで分析精度を高められます。では女性特有の購買行動とは。女性が購買に至る背景をどのように考察すべきか。マーケティング担当者なら理解すべき女性インサイトについて考えます。【男性脳では見えない「彼女の購買決定プロセス」~売上8割を逃さないための女性インサイトマーケティング~#2】

競合分析よりも顧客理解がマーケティングの前提

マーケティング理論は一般的に、競合他社に勝ったり市場を拡大したりといった「戦略」を検討する手段として発展してきました。業界の市況、競合比較、自社の強みと弱み。こうした分析の重要性を訴える一方、自社ブランドや商品、サービスを利用する生活者の分析は十分検討されませんでした。企業側の視点は磨かれても、「暮らす人」「使う人」への視点は十分に育まれてこなかったのです。そのため、マーケティング部門の中には競合を綿密に調査・分析しても、顧客理解となると手が止まってしまうケースが少なくありません。経験や勘に頼ったペルソナの設定や、浅い理解に基づく施策の立案にとどまるケースが目立ちます。
Webアンケートやインタビューを実施し、顧客理解を進めようとする企業は多いことでしょう。しかし、「顧客理解とは何か」という本質的な定義がなければ、集まった情報は思い込みで読み解かれてしまいます。結果として、本来導出すべきインサイトから遠ざかり、そのズレに誰も気づかずにプロジェクトが進んでしまいます。

「誰かのためにモノを買う」が女性の購買を誘引

では「顧客」をどう理解すべきか。このとき最も大切なのが、男性と女性の特性を正確に見極めることです。男性と女性を「顧客」とまとめて理解すべきではありません。とりわけ「購買」に大きな影響力を持つ女性の購買行動を正しく理解することがマーケティング施策の成功率を高めるためには重要です。

女性顧客の購買行動の特徴をひと言で表すなら「誰かのためにモノを買う」です。女性は自分のための購入であっても、その背景には家族や友人、同僚といった誰かの存在が重なります。購買は単なる個人の消費ではなく、関係性や感情と結びついた社会的な行為になります。これは「相手を減らす」ことで勝ち抜こうとする従来のマーケティング的発想とは対照的です。女性の購買には、誰かを慮り、むしろ関係性を増やしていく行動が一貫して存在しています。

こうした視点が欠けてきたことで、企業は多くの機会を取り逃がしてきました。顧客を「一人の消費者」と単線的に捉え、ターゲット設定や顧客数の拡大、単価アップに意識を向ける。しかし実際には、売場で「自分と誰か」を同時に思い浮かべられる提案のほうが、確実に売上につながります。
日常生活に目を向ければ、その事実を示す場面は枚挙にいとまがありません。たとえば私自身、遠方に住む母が好きなキャラクターの商品を見るとつい買って送りたくなることがあります。母の健康を思い、生協の支払いを代わりに続けているのも、背景には「誰かを想う」気持ちがあるからです。

女性が購買に至った背景を探る努力を

「誰かのためにモノを買う」という女性特有の購買行動はデータからも読み取れます。以下のグラフは、各ライフイベントを大事にしているかどうかを男女別に聞いた結果です。出産祝い、七五三、進学祝い、成人式、還暦祝いなどのすべてのライフイベントで、男性より女性の方が大事にしているという結果でした。家族や身近な人の節目に対して意識が高いのは女性です。この意識の差が購買を誘引する契機の1つとなっていることを認識すべきです。

ライフイベントに対する意識(出典:HERSTORY)

なお、家庭内の消費行動に限ると、世帯内で必要なモノを選び、購入する主体となっているのも女性です。当社が実施した調査によると、世帯消費の購買決定者は、女性が6~8割を占めています。子供の衣服を決めるのも、どの塾に通わせるかも、日用品や夫の衣服選びにも母(妻)である女性の意見が多いに反映されているのです。

女性は「自分のモノは自分」・家族のモノは「関与」買いする
世帯で使う49品目 購買頻度 妻75.5%(出典:HERSTORY)



では、女性という顧客を正しく理解するには何を考えるべきか。マーケティング部門はどのように顧客理解に努めるべきか。当社が支援した、デニム雑貨ブランドの事例を紹介します。

デニム雑貨を扱うECサイトでは、どんなターゲット向けの販売施策を打ち出すべきかを決められずにいました。しかし、購入者レビューを確認すると、「母親が息子のために買った」というコメントが多数寄せられていたのです。息子が財布をなくしやすい、扱いやすい素材を選びたい、兄弟間で使いまわせるものがよいといった、母親ならではの視点を読み取ることができたのです。さらに購入は家族内に波及し、自分用や祖母用にも広がっていることが推察できました。

ここで重要なのは、財布という商品の特性だけに目を向けるべきではないということ。育ちざかりの息子を持つ母親の「慮るインサイト」こそ深く読み取る必要があるのです。母親は息子の行動特性や生活環境を思い浮かべながら、安心して持たせられるものを選んでいるのです。

こうした分析結果をもとに、当社はクライアントであるEC事業者に対し、育ちざかりの息子を持つ母親のインタビュー会」を提案。メインのペルソナである母親の考え方を深く理解できるようにしました。実際の声を集めることで、筆箱やパスケースなど関連商品のラインナップが広がり、売上は想像を超える結果につながりました。購入者である母親自身がSNSで発信し、同じ境遇の母親たちの共感が連鎖したことも大きな要因です。

女性は購入に際し、どんな思いを巡らせているのか。何をきっかけに購入しようと考えているのか。女性はどんな家族構成なのか。こうした女性の「背景」をしっかり探ることで顧客理解を進められるようになるのです。性別や年齢だけではなく、一人ひとりの思いに寄り添おうとする姿勢がマーケティング戦略の精度をさらに高めるのです。

HERSTORYでは、総務省などのデータ、全国約二万人の女性モニターの生活観察、主要メディアやSNSの発信情報をもとに、女性のインサイトを継続的に研究しています。こうした知見をもとに、女性起点でマーケティング戦略を組み立てる企業向けに情報を提供しています。
女性顧客の購買行動を正しく理解することは、単に「女性向けに売る」という表層の話ではありません。生活者の実態を踏まえた戦略こそが、企業の成長につながります。今後のコラムでは、女性を起点とした商品理解や顧客理解の進め方について、より具体的にお伝えしていきます。

男女購買行動診断
https://www.herstory.co.jp/shindan/buying-behaviour

筆者プロフィール

日野佳恵子
女性インサイト総研 株式会社ハー・ストーリィ 代表取締役社長
一般社団法人女性のあしたアカデミー 代表理事

島根出身。1990年創業。女性の購買行動とライフコースの関連がマーケティングに影響を及ぼすことに着眼し、女性インサイト理論を独自開発。学習院大学、成城大学、大阪公立大学の専門教授らと「男女の消費行動研究」を発表している。クライアントは生活消費財を中心にメーカーから小売まで幅広く、「女性顧客起点の専門家」として多数の企業のアドバイザーを行う。一般社団法人女性のあしたアカデミー 代表理事

<代表的な受賞ほか>
経済紙Forbes Japan「日本の社長100人」、日経WEBCOMPANYが選ぶ「21世紀 時代のキーパーソン51人」、日経ウーマン・ウーマン・オブ・ザ・イヤー2003リーダー部門第9位、2013世界女性リーダースティビーアワード銀賞、日本の残したい企業100社、2021Forbes Woman Award300人未満全国第2位など個人、企業活動と両面で広く評価されている。

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