「EC部門の売上は伸びているのに、社内からは“自分たちとは別の組織”として見られている」、「新しい施策を提案しても、経営判断でブレーキがかかる」こうした悩みは、決して一部の企業に限った話ではありません。ECを推進する多くの企業が直面しているのが、このEC部門の孤立という問題です。DXという言葉だけが先行し、現場に残されたのは部署間の心理的な断絶でした。本来、DXの中核にあるべき「人」が組織の壁に阻まれ、ECが全社と分断された存在になってしまっているのです。ECを単なる販売チャネルから、全社成長を支えるエンジンへと進化させるには何が足りないのか。本稿では、組織論と人材開発の視点から「全社参加型EC」の成立条件を整理します。
【連載第16回:ECの進化とシステムの変遷】
最大の壁は「技術」ではなく「圧倒的な人材不足」
EC推進を阻む最大の要因は、最新のシステムでも予算でもありません。それは、変革を担う人材の不足です。多くの企業で、EC推進の課題として次の3点が挙げられます。
- 費用対効果が見えない
- 既存システムとの関係性
- ICTなど技術的な知識が不足している
一見するとテクニカルな問題に見えますが、これらの本質は共通しています。ビジネスとデジタルを結びつけ、既存の仕組みと調和させながら推進できる人材がいないという点です。技術の不足ではありません。それを使いこなし、事業として成立させる「人」がいないことこそが、日本企業にとって最大のリスクとなっています。
成長フェーズ別に現れる「三つの壁」
EC組織が成長し、全社へと展開していく過程では、避けて通れない三つの壁があります。
1. 立ち上げ期:人材発掘と外部依存の壁によりECの必要性は理解しているものの、社内に牽引役が見当たりません。中途採用も思うように進まず、結果として外部パートナーへの依存が強まります。ノウハウは社内に蓄積されず、ECはいつまでも「実験」の段階から抜け出せなくなります。
2. 推進期:キャリアパスとロールモデルの壁により専門人材の採用に成功しても、その先のキャリア像が描けていません。「この会社でECを続けた先に、どんな未来があるのか」が見えず、閉塞感を抱いた人材から離脱していきます。
3. 全社展開期:既存事業モデルとリソースの壁により、組織全体を巻き込もうとする段階で、既存事業の維持に追われ、DXに本腰を入れる余力がなくなります。レガシーな運営と新しいDXの要求が衝突し、全社的な停滞を招くのがこのフェーズです。
成功への道筋は「人が育つ構造」を用意すること
デジタル文化を組織に根付かせ、人材を定着させるには、「成長し続けられる環境」を意図的に設計する必要があります。
- 現場からのボトムアップ発掘:すでに芽を出している人材を見つけ、役割を与える
- 経営の意思:経営層自らが「このままでいいのか」と問い続ける
- 仕組みとしてのキャリアマップ:将来像と成長の道筋を明確に示す
- 対話と土壌づくり:1on1や人材開発カルテを“育成のための仕組み”として活用する
- 管理部門の伴走:人事・財務・情シスが現場を支える立場へと変わる
「面白い環境」が整えば、優秀な人材は外へ流出するのではなく、社内で新たな価値を生み出し続けます。
組織に「年輪」を刻めているか
ECを単なる販売チャネルとして切り離すのではなく、全社員が参加し、活用する「全社型サイト」へと昇華させる。
その過程で蓄積される人材の経験と組織の記憶こそが、他社には真似できない企業の競争力となります。最後に、自らに問いかけてみてください。「今、あなたの会社で働く人材が次にやりたいことと、会社が目指す方向は重なっていますか?」この重なりをつくれるかどうかが、ECを孤立させる組織と、成長し続ける組織の唯一無二の道です。

林雅也
株式会社ecbeing 代表取締役社長
日本オムニチャネル協会 専務理事
1997年、学生時代に株式会社ソフトクリエイトのパソコンショップで販売を行うとともに、インターネット通販の立ち上げに携わる。1999年にはECサイト構築パッケージ「ecbeing」の前身である「ec-shop」を開発し、事業を推進。2005年に大証ヘラクレス上場、2011年に東証一部上場へ寄与。2012年には株式会社ecbeingの代表取締役社長に就任。2018年、全農ECソリューションズ(株)取締役 JAタウンの運営およびふるさと納税支援事業を行う。2020年からは日本オムニチャネル協会の専務理事を務め、ECサイト構築パッケージecbeingの導入サイトは1600サイトを超える。
日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/






















