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インタビュー

DXグランプリ企業が描く「二つのDX」、ブリヂストンが挑む価値創造と人材育成

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2025年度のDX銘柄において「DXグランプリ企業2026」に選定されたブリヂストン。同社は、タイヤメーカーとして培ってきた技術力にデジタルを融合させ、社内変革と顧客・社会への価値創出の両輪でDXを推進しています。その取り組みは、単なる業務効率化にとどまらず、新たなソリューションの創出や人材育成まで幅広く展開されています。本インタビューでは、デジタル統括部門でDXを牽引する花塚氏に、AIとの出会いを原点としたキャリアから、ブリヂストンならではのDX戦略、実践事例、人材育成、そしてDXグランプリ受賞の舞台裏まで詳しく伺いました。

(聞き手:株式会社YKB 代表取締役・東京都市大学 准教授・日本オムニチャネル協会 副事務局長 川邉雄司氏)

AIとの出会いが切り拓いた、ブリヂストンDXの原点

川邉: まずはご経歴からお聞かせください。

花塚: 私は2003年に大学院修士課程を修了し、ブリヂストンへ入社しました。配属されたのはタイヤ先行技術開発部です。そこでは「今存在しない新しい価値を持つタイヤを開発する」というミッションのもと、技術企画から技術検証、価値検証まで携わってきました。入社後、最初に任されたテーマが「タイヤをセンサーにする」ことでした。当時は車両制御技術が実用化され始めた時代で、タイヤから得られる情報を車両制御へ活用できないかという発想から、センサーを取り付けてデータを取得・解析し、自動車制御へ生かす研究に取り組みました。

一方で、私は大学院では材料工学を専攻していたため、AIや情報科学については一から学ぶ必要がありました。しかし当時はAIの第二次ブームが終わり、「AIの冬の時代」と呼ばれていた頃です。周囲に教えてくれる人はほとんどおらず、図書館で古い専門書を探して機械学習を学び、さらに大学の先生方の講演へ積極的に足を運びながら知識を深めていきました。

その後、2010年に再び大学院へ進学すると、ちょうど機械学習という言葉が広まり始め、2011年から2012年にはビッグデータブームが到来しました。そして2012年にはディープラーニングによって画像認識の世界が大きく変わります。それまで画像認識では人が特徴量(AIの判断材料となるデータ)を設計することが当たり前でしたが、その常識が一気に覆されました。私はその変化を研究の現場で目の当たりにし、AI技術がこれから社会を大きく変えていくことを実感しました。大学院で得た知見は会社へ持ち帰り、タイヤのIoT(モノにセンサーや通信機能を搭載し、インターネットを通じてデータを収集・送信・活用する仕組み)技術へ応用してきました。2003年から約10年間、タイヤからデータを取得し、分析し、新たな価値へ変える研究を続けてきたことが、現在のDXにつながっています。

写真:株式会社ブリヂストン デジタル総括部門長 博士(学術) 花塚泰史氏

ブリヂストンが進める二つのDX

川邉: その後、ブリヂストン全体でもデジタル活用が本格化していったのですね。

花塚: はい。2017年には「デジタルソリューションセンター」が設立されました。データを活用して新たな企業価値を生み出そうという会社全体の取り組みが本格化し、現在のデジタル統括部門へとつながっています。当時会社として、商品を「創って売る」から、使う段階で価値を増幅する「ソリューション事業」を展開していくという方針を掲げ、トップからは「ソリューションカンパニーになっていく」「お客様の困りごとをタイヤ事業の強みを活かしてデジタルの力で解決していく」という明確なメッセージが発信されていました。その実現に向け、お客様へ提供する新たな価値を企画・開発する組織としてデジタルソリューションセンターが設立されました。

現在、ブリヂストンではDXを二つの領域で推進しています。一つは社内の業務変革を進める「DX for Bridgestone」、もう一つはお客様や社会へ新たな価値を提供する「DX for Society & Customer」です。「DX for Bridgestone」は、研究開発や生産、設計など、ものづくりそのものを進化させる取り組みです。タイヤはゴムという非常に複雑な素材であり、金属のように単純な計算では扱えません。粘弾性を持つゴムに加え、スチールコードや繊維など複数の材料が組み合わさっているため、市販ソフトだけでは解析できず、自社でシミュレーション技術を構築してきました。効率化だけが目的ではない、新しい素材や、これまで誰も見たことのないタイヤ構造を生み出すことも「DX for Bridgestone」の重要な役割です。

川邉: 一方の「DX for Society & Customer」は、お客様や社会へ価値を提供するDXとのことですが、実際にはどのような取り組みを進めてきたのでしょうか。

花塚: 非常にハードルは高かったです。ただ、経営トップからは「ソリューションカンパニーになっていく」「お客様の困りごとをタイヤ事業の強みを活かしてデジタルの力で解決していく」という明確なメッセージが発信されていました。その方針のもと、事業部門と私たちデジタル部門が一体となって、お客様の現場へ入り込みながらプロジェクトを進めてきました。

例えば、鉱山のお客様向けには、従来から技術サービス担当者が現場へ常駐し、タイヤの状態を確認しながら最適な管理方法を提案していました。センシング技術を搭載したタイヤを開発し、空気圧や温度などのデータをリアルタイムで取得・分析、さらに車両データも統合して分析できるようにしました。これにより、従来は経験に頼っていたサービスをデジタルによってさらに高度化することが可能になりました。

もう一つ、まったく新しい価値を生み出した事例が航空業界です。以前は航空会社へタイヤを納入し、摩耗したタイヤを回収してリトレッドし、再び納入するというサイクルでした。しかし、お客様が現場でどのようにタイヤを使っているのか、私たちは十分に把握できていませんでした。そこで日本航空様の整備現場へ入り込み、業務を分析した結果、様々な部品の中でも特にタイヤは摩耗状況によって交換時期が変動するため、整備士の配置や在庫管理が大きな負担になっていることが分かりました。そこで日本航空様のフライトデータと当社のタイヤの摩耗予測技術を組み合わせ、「いつ、何本交換が必要になるか」を事前に可視化するソリューションを共に開発しました。これにより、交換時期を平準化することで整備負荷や在庫の最適化を実現しました。これは、タイヤを販売するだけでは生まれなかった新しい価値です。タイヤメーカーとして培ってきた知見と、お客様との信頼関係があったからこそ実現できました。DXというとデジタル技術が注目されますが、本質は現場に入り込み、お客様の課題を理解した上で新しい価値を生み出すことです。

写真:株式会社YKB 代表取締役・東京都市大学 准教授・日本オムニチャネル協会 副事務局長 川邉雄司氏

DXを支えるのは「問いを立てる人材」

川邉:ここまで現場を知り、知見を持っている人財を育てることは、なかなか大変かと思います。ブリヂストンの人材育成についてもお聞かせください。

花塚: デジタルソリューションセンターを立ち上げた際、私たちだけがデジタルを理解していても意味がないと考えました。実際に業務を担う事業部門の皆さんにも、少なくとも共通言語としてデジタルを理解してもらう必要があったのです。当初はデータサイエンスを中心とした教育でしたが、技術の進歩とともに内容も進化し、現在ではデータサイエンスだけでなく、ITやセキュリティまで含めたデジタルリテラシー教育へと発展しています。データサイエンティスト協会やIPA、ディープラーニング協会が定める基準をベースに、教育体系を整備しています。

その中でも特徴的なのが「デジタル100日研修」です。もともとは当時のCEOから「全社員が100日で学べる研修を作ってほしい」という要望がありました。しかし、実際に内容を検討すると、とても100日では収まらず、100日を2回実施する、約200日間のプログラムとなりました。新入社員は全員必須で、既存社員に対しても広く受講を促しています。初級・中級、上級がありますが、中級は自分の業務においての課題設定をしてもらいます。「問題設定」の部分が一番難しくて、課題を見つけるための「問いを立てる力」を重視しております。自分の仕事をどう変えたいのか。そのためには何が課題なのか。現在の業務を整理し、「何を解くべきか」を明確にしなければなりません。私は、プロジェクトの成功の8〜9割は、この課題設定で決まると考えています。技術は日々進化していますが、何を解くべきかが定まっていなければ、DXは成功しません。

積み重ねたDXを「伝える」ことが、DXグランプリ受賞につながった

川邉: 今までお伺いしたお話ですと、トップからの支持、またボトムからの人材育成が合わさった結果が現在のブリヂストンかと思います。まさに、このような活動が認められ、DX銘柄グランプリ受賞につながったのでしょうか。

花塚:その通りだと思います。実は、「DX銘柄」の名前が「攻めのIT経営銘柄」だった時代から継続して選定いただいていました。しかし、なかなかDXグランプリだけは受賞できませんでした。そこで昨年、申請体制を大きく見直しました。それまでIT部門が中心だった体制を改め、「DX for Society & Customer」と「DX for Bridgestone」の両方について、社内で行われている取り組みを徹底的に集めました。研究開発、生産、事業、サービスなど、社内のあらゆる取り組みを掘り起こし、一つのストーリーとして整理しました。今回は、ブリヂストンがどのような考えでDXを推進し、どのような価値を生み出してきたのかを一つのストーリーとして伝えることができました。

川邉:最後に、創業100周年に向けて、ブリヂストンはどのような姿を目指していますか。

花塚:現在、2031年の創業100周年を見据えた5カ年の中期経営計画を策定しています。100周年に向けた最大の目標は、「世界No.1へ返り咲くこと」です。かつてタイヤの世界シェアでトップに立ったこともありましたが、現在は2番手です。もう一度世界No.1を目指します。ただし、目指しているのはシェアだけではありません。「タイヤメーカーといえばブリヂストン」と世界中で認識される存在になることが目標です。デジタル部門としても、「製造業のデジタルといえばブリヂストン」と評価される存在を目指しています。

また、100周年はゴールではなく、その先の100年につながる通過点だと考えています。技術の進歩を取り入れながら、社会に継続的な価値を提供できる企業であり続けることを目指しています。その根底にあるのが、創業者が掲げた「最高の品質で社会に貢献」という理念です。これは現在も会社の使命として受け継がれ、入社時から繰り返し学ぶなど、企業文化として深く根付いています。デジタル部門においても、高品質なデジタル技術やサービスを提供し、新たな価値を創出することで社会に貢献することが、この理念の実践につながると考えています。創業者の思いを守り続けることが、品質やブランド価値、そして企業としてのサステナビリティを支える基盤になっています。

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