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障害福祉現場の記録や請求業務をITで簡略化、業界の人手不足をDXで解消する動きが加速

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高齢者や障害が年々増え続ける介護・障害福祉業界。高齢者や障害者の支援を手掛ける事業者の重要性は増しつつあるものの、そこでは今、深刻な人手不足という課題に直面しています。そんな中、人手不足を解消する切り札としてDXに取り組むケースが増えています。デジタルを駆使して業務を効率化するのが狙いです。関東圏を中心に社会福祉施設を展開するLilyも、デジタルを活用して業務効率化に踏み切った一社。では、どんな業務をどうデジタル化したのか。Lilyに支援サービスを提供する活用するSANN 経営企画室 室長兼 福祉Tech事業部 事業部長の田口晃氏に話を聞きました。

――LILYをはじめとする介護・障害福祉の現場は人手不足に直面しています。具体的にはどんな業務に時間を割かれるケースが多いのでしょうか。

田口:現場といっても支援する内容によって種類はさまざまです。自宅で家事を代行するケースがあれば、施設に入居して暮らし全般をサポートするケースもあります。1日の数時間だけお世話することもあれば、24時間の支援を必要する方もいます。支援する内容は厚生労働省によって細かく区分され、障害福祉事業者はその区分に沿った支援サービスを提供するのが一般的です。

障害者向けの施設を運営する事業者も同じです。日々の生活を支援するケースがある一方、就労支援を手掛けるケースも少なくありません。障害の重度によって支援内容が変わるほか、知的障害や身体障害などによってももちろん支援内容は変わります。

こうした事業所で働くスタッフの多くが、その日にどんな支援を実施したのか、何時間実施したのかなどを事細かく記録することが求められています。例えば、全員の食事の介助に1時間、入浴の介助に2時間などといった具合です。さらには、どんな食事だったのか、入浴時に体に自傷他害などの異変がないか、体調の変化はどうかなどを記録することも少なくありません。多くの人と触れ合い、直接介助しなければならないスタッフにとって、紙にその都度記録を入力するのは大きな負担となるのです。日中は記録するのを控え、業務を終えた夜に残業して台帳に入力する人も珍しくありません。

写真:SANN 経営企画室 室長兼 福祉Tech事業部 事業部長 田口晃氏

――支援記録をどのように活用しているのでしょうか。

田口:障害福祉事業者には、どんな支援をしたのか、何回支援したのかなどの活動内容に応じた介護給付費などが国から報酬として支払われています。その給付費を請求する際に記録が使われます。障害福祉事業者は月初に請求内容をまとめた帳票を作成し、国保連合会経由で管轄の市町村などに給付費を請求することになります。

この作業が障害福祉事業者の大きな負担となっています。記録には支援内容や支援回数はもとより、支援内容に応じて請求単価を算出したり加算を追加請求したりしなければなりません。こうした作業を施設を利用する障害者一人ずつ、かつ1ヵ月分を記録に基づいて請求しなければなりません。ちなみに、事業者の約8割は今なお、紙に記録した内容を表計算ソフトなどに転記し、さらにその記録を帳票に書き写すといった手間を繰り返しているのが現状です。

――SANNではこうした請求業務の負担を軽減するサービスを提供しているわけですね。

田口:はい。その通りです。当社は障害福祉現場での利用に特化した一括管理システムのクラウドサービス「ケア・オール」を提供しています。支援スタッフが現場で記録しやすくするため、スマートフォンやタブレットなどでいつでも簡単に利用できるようになっています。

「ケア・オール」は主要な記録項目をあらかじめ登録しており、実施の支援内容に応じて必要な項目をタップし、時間や支援内容を入力するだけで記録作業を完了させられるようになっています。できるだけ文字を手入力する手間を省くため、アイコンボタンなどを使ってワンタップで記録できる工夫を施します。また今時かもしれませんが、音声入力にも対応し、年配の方でも誰でも簡単にコメントの入力が可能です。さらに各グループホームの要望に応えるため、独自の支援記録項目を生成できるカスタマイズ機能も充実しています。

図1:「ケア・オール」の画面サンプル。記録しやすくするため操作性に配慮する

――記録だけではなく請求業務にも転用できるわけですね。

田口:はい。「ケア・オール」に記録したデータは介護給付費を請求する専用サービスと連携し、データを直接帳票に反映させることが可能です。手書きで記載する手間がかからないほか、手書きによる記載ミスも防げます。複数の施設を運営する障害福祉事業者の場合、各施設を巡回して紙の記録を回収しなければなりませんが、「ケア・オール」はクラウド上でデータを一元管理するため、すべての施設を巡回する時間もかかりません。請求データと連動したサービス提供実績表も自動生成するので、さまざまな点で作業効率を高めることができます。

――これら以外に「ケア・オール」の強みや特徴的な機能があれば教えてください。

田口:障害福祉事業者は定期的に各種申請書類を更新しなければなりません。例えば、ケア・オールでは受給者証の有効期限を知らせる通知機能を備えています。複数の施設を運営する事業者の場合、それぞれの施設の有効期限まで把握しきれないのが現状です。そこで更新近くになると自動通知し、失念による更新漏れを防げるようにしています。こうした用途以外にも、利用者それぞれにアラート項目をセットでき、さまざまなシーンで抜け漏れを防ぐことも可です。

そのほか、社会福祉施設のスタッフは24時間を3交代で勤務することが珍しくありません。そこで、普段は顔を合わさないスタッフ間でも容易に連絡事項を知らせたり、スタッフ全員に必要事項を通知したりといったコミュニケーション機能も備えます。チャットを使ってリアルタイムの連絡も可能です。なお、「ケア・オール」に記録した内容は、利用者の家族や病院、就労継続支援施設などの各種支援・医療機関と共有できます。施設内でどんな生活を送っているのか、どんな支援を受けているのか、日々の食事内容や体調の変化などが施設内でブラックボックス化することなく共有できるようになっています。

さらにAIを活用するのも特徴です。「ケア・オール」はAIを使ったテキスト変換エンジンを搭載。話し言葉を的確にテキストに自動変換することが可能です。キーボードを使わずに支援内容を話すだけで記録できます。業界特有の専門用語を事前登録しておけば、誤変換なく入力することもできます。

図2:記録は時系列で入力できるようになっている。頻繁に利用する内容をボタンとして登録すれば、その都度入力する手間を省ける

実際に「ケア・オール」を導入したことで、障害福祉事業者の中には記録や実績管理、請求業務などに費やしていた作業時間を76%削減したケースもあります。2024年春のリリースから、Lilyが導入したほか、6月には秋川流域生活支援ネットワークが導入するなど、現在約200を超える施設への導入が進んでいます。毎月多くの事業者から問い合わせをもらうようになっています。このことから、障害福祉業界で高く評価されつつあると感じています。

――「ケア・オール」の今後の機能強化などの予定があれば教えてください。

田口:入力の手間をさらに省けるようなユーザーインターフェイスに改良します。ボタンを数回タップするだけですべての記録を入力できるような工夫を施す予定です。

さらには、スタッフの勤務シフトを自動生成・調整管理する機能も追加する予定です。多くの事業者はスタッフの勤務計画を決めるのに苦労しています。「この役職の人は毎月何十時間以上勤務しなければならない」などのルール、人員配置基準を厳守する必要があり、シフト作成に頭を悩ます事業者は少なくありません。こうした作業を軽減する自動シフト生成・調整管理機能を用意します。誰が何十時間以上勤務するなどの条件を事前登録すると、シフトプログラムがそれらの条件に合致しているかを判別します。これにより、スタッフごとの勤務時間を算出したり、ルールに沿ったシフトであるかを確認したりする手間を省くことができます。

――SANNとして、介護・障害福祉業界がどのように変わっていってほしいと願いますか。

田口:介護や福祉は日本を支える業界に他なりません。さらに言えば、日本は世界でも有数の介護・福祉先進国だと考えています。その業界が人材不足を理由に衰退すれば、日本全体の経済の低迷すら招きかねません。当社は誰もが幸せな社会を築き、「みんなで物心ともに豊かにする」といった目標を掲げています。当社が多様な社会、多様な人の可能性を高める一助を担えればと考えます。「ケア・オール」を多くの事業者に活用してもらい、日本の多様性を支えることができれば幸いです。ITを通じて介護・障害福祉業界の幸せと発展を支援できればと思います。

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