黒板やチョーク、紙の教科書やプリントが長らく使われてきた学校現場にも、デジタル化の波が押し寄せています。「教育DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、デジタル技術を使って教育の在り方を大きく変革する取り組みです。これにより、教育のシステムそのものや学びのスタイルが根本から見直されることを目指しています。日本の教育の大きな方向性を示す、国の第4期教育振興基本計画(2023~27年)でも、基本的な方針の一つに「教育DXの推進」が盛り込まれています。
教育DXは「教育のデジタル化」となにが違うのでしょうか。一般的に、デジタル化は「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の3段階に分けることができます。教育現場における「教育DX」は、このプロセスが進化した最終段階であり、データを活用して子どもたち一人一人に合った学びを実現することが求められています。デジタル技術を活用することで、教員の経験や勘に頼らず、客観的なデータを基にした支援が可能になるのです。
文部科学省では、教育DXを推進するために3つの柱を掲げています。それは、教育データの標準化、基盤的ツールの整備、教育データの分析と利活用の推進です。まず、教育データの標準化では、様々な教育機関や教育サービス間でデータの互換性を持たせ、相互に利用できるようにする取り組みです。例えば、小学6年生の社会科で「織田信長」を学習する際、共通の学習指導要領コードを使用することで、複数のデジタル教材を横断的に活用できるようになります。
基盤的ツールの整備では、MEXCBT(文科省CBTシステム)やEduSurveyといったオンラインプラットフォームを通じて、学力調査や意見収集がよりスムーズに行える環境を提供します。加えて、教育データの利活用に関する議論も進められ、児童生徒の学習履歴に基づいたきめ細かな指導ができることを目指しています。
教育DXが進んでいる背景には、デジタル技術の発展に加え、教員から児童生徒への一方通行の授業や経験則に依存した指導からの脱却があります。また、教員の長時間労働が大きな問題となっており、従来のアナログ業務の改善が急務とされています。デジタルツールを使えば、情報共有や業務の効率化を図り、教員の負担を軽減することができるのです。
教育DXがもたらすメリットには、児童生徒一人一人の特性や理解度に応じた指導がしやすくなり、個別最適化した学びが可能になる点が挙げられます。また、紙ベースの連絡からデジタル化に移行することで、保護者ともスムーズにコミュニケーションが取れるようになります。入学・転校時にも指導履歴の引継ぎが容易となり、教育の一貫性が保たれることも期待されています。
しかし、教育DXには課題も存在します。適切なインフラの整備やデータのセキュリティ・プライバシー管理、教員がICTを効果的に活用するための能力向上が不可欠です。特に、ネットいじめなどの新たな問題も生じているため、育成と対策が求められています。
教育現場での具体的な事例も数多く存在します。東京都教育委員会では、学習データや校務データを集約・可視化するダッシュボードの導入を進めており、これにより教員は児童生徒の状況を迅速に把握し、効果的な指導へとつなげています。さいたま市教育委員会でも、成績や出欠情報を統合する「スクールダッシュボード」の活用が始まっています。
教育DXは、未来の教育を形作る重要な取り組みであり、国の政策と現場のリアルが交わりながら進んでいます。私たちの教育がデジタル技術によっていかに変わり得るのか、その可能性にぜひ注目していきましょう。
執筆:DXマガジン編集部