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インタビュー

人と人のつながりを強めることがDXを加速させる、パインバレー矢嶋正明氏が描くDX成功へのロードマップ

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日本オムニチャネル協会の活動をサポートする役割を担う「フェロー」。各方面の専門家が集まり様々な活動に取り組みます。今回はフェローを務めるパインバレー代表取締役社長の矢嶋正明氏に、これまでのオムニチャネル推進について話を聞きました。DX推進に向けてどのように社内を巻き込んだのか。「人」を軸に取り組む必要性を訴える矢嶋氏に、今後の挑戦についても迫ります。

「人」を軸に置いたオムニチャネル推進

鈴木:現在、ハーレーダビッドソンのカスタムパーツを輸入販売するパインバレーの代表取締役として活躍する矢嶋さんですが、これまでの経歴を教えてください。

矢嶋:大学卒業後、BEAMSでアルバイトをはじめ、その後正社員になり25年間勤務しました。初めは販売員として5年ほど店頭に立って、毎日お客様と接していました。私は、銀座店でスーツ部門の担当だったのですが、顧客様との会話や接客中の情報をノートに手書きで管理していたとき、「これを、もっと効率化できないかな?」と思っていまして。2002年にポイントカードが導入されたことから、顧客データをシステムで管理することに興味を持って、内勤部門に移りました。その中でデジタルの可能性に興味を持ち、2005年にBEAMS ZOZOTOWN店のオープンを任されたことが、大きな転機となりました。私一人で立ち上げたにもかかわらず、オープンから約半年で2億5000万円を売り上げることができ、デジタルによって事業が急成長することに感銘を受けました。

その後、BEAMSのZOZOTOWN事業は順調に拡大していきまして、2008年に自社ECの構築に舵を切りました。ライトユーザーにはZOZOTOWN、コアユーザーには自社ECというチャネル戦略です。しかし、当時はファッション雑誌が全盛期で、大きな商業施設への出店が加速している時期。試着ができないECサイトでわざわざ洋服を買うのもリスクがありましたし、自社ECという概念も浸透してなく、DXを推進するのは非常に難しい時代でした。

鈴木:そのような中でDXをどう推進したのでしょうか。

矢嶋:会社には、自社ECは「EC版の直営路面店」で、ブランディングとデータの取得が目的だと説明して、決裁をいただきました。また、自社ECを立ち上げてからは、デジタルマーケティングに力を入れて、WEB広告の出稿やメルマガの発行、サイト内コンテンツの制作など、できるだけ運用を内製化して、ノウハウを蓄積させてPDCAを回すなどして人材を育成しました。

そうやって徐々に自社ECのお客様が増えていくと、今度は店舗の会員システムと分離している弊害が顕在化してきます。私はポイントカード側のシステムは理解していましたので、自社ECと顧客システムの統合を提案しますが、2012年ごろはまだまだハードルが高い。なので、その時は、まずポイントの共通化を提案して、1年がかりで実現しました。そうすると、店舗とECで相互のポイント利用が飛躍的に上がり、結果として売上も伸びました。この「ポイント共通化」という施策の結果をデータで示したのです。今まで目に見えなかった自社ECのお客様が、実はリアル店舗のお客様と同じだった!と「数値」という事実を示すことで、社内がネットとリアルの融合に賛同してくれました。

鈴木:やはり事実で説得するしかないですよね。場当たり的な調子のいいこと言っても周囲を動かすことはできないです。

矢嶋:そうですね。さらに、ECサイト内のデータを調べるうちに、社員を着用モデルにした画像を商品詳細ページに使うと、他の商品より売上が伸びていることがわかり、お客様の購入フローを調査しました。その結果、プロモデルより「店舗スタッフ」の着用画像のほうが売上が高い!と検証できたため、「人」を中心に据えたECサイトの構想にたどり着きました。

また、お客様が店舗スタッフに毎日会いに行くのは難しいですが、そのスタッフがECサイトに出ていれば、毎日会うことができます。そうして、店舗スタッフが自社ECに毎日情報発信すれば、社員ひとりひとりがメディアになりますよね。このアイデアを具現化したのが、2016年のBEAMS公式サイトと自社ECの統合です。

これにより、ECサイトで店舗スタッフの投稿を見てから、そのスタッフのいる店舗を訪れる、という新たな商流を確立し、リアルとネットのシームレスな顧客体験を実現しました。

鈴木:商品ではなく「人」を軸に置いたのは素晴らしい観点ですね。

矢嶋:BEAMSという会社は、スタッフ一人ひとりのセンスやファッションへの考え方を尊重しています。スタッフの「好き」や「得意」を活かし、多様性を認め合うことが、BEAMSの強みなのかもしれないですね。このような「人の個性」が軸となるビジネスを25年間学べたのは、私にとって非常に貴重な経験でした。

パインバレー代表取締役社長 矢嶋正明氏

新たなテクノロジーの活用に挑戦

鈴木:パインバレーの代表取締役社長に転身しましたが、今後どのような展開を考えていますか。

矢嶋:まずは、弊社の基幹事業である「店舗事業(ハーレーのカスタムや車検整備)」と「EC通販事業」を顧客視点で再構築します。『弊社の使命は、何なのか?』をしっかり定義し、隅々まで見直します。

そして、弊社は中小企業で、少数精鋭で運営していますので、業務の効率化やマルチタスクに対応する必要がありまして、その部分には最適なテクノロジーを活用するように取り組んでいきます。

着任してすぐに既存のシステムを相関図で確認したんですが、そもそも在庫管理システムがなかったり、サイロ化したシステムを人力でカバーするアナログ運用だったり、ミスが発生しやすい問題点が山のように見つかったため、すでにシステム改修に着手しています。属人的な部分をシステムで自動化するなど、全社のDX化を推進しています。

また一方で、店舗で行っているハーレーのカスタムや車検整備は、国家整備士による正確な技術力が重要です。カスタムは、お客様のご要望に応じて「オーダーメイド」で仕上げていく提案力や、安全面の高度な専門スキルが求められます。デジタルでは解決できないアナログな領域ですので、やはり「人」が重要になりますね。

そういった、デジタルで課題解決する部分と、人間が持つ技術力という両輪をうまくマネジメントしていきますが、ここから先はAI時代に突入するわけで、AIと事業を密に連携させることで成長させられればと考えています。

鈴木:BEAMSでのDX推進を経て、ある意味アナログの世界に戻ってきたように感じます。これは、かつてファッションはECでは売れないと言われていた状況に似ていますね。

矢嶋:そうですね。当時の自分ではやりきれなかった部分にも挑戦したいですし、今は多くのテクノロジーやソリューションがあるので、ありがたいですね。アナログな分野にDX化を促すことによって、もっとお客様に喜んでいただけるのではないかと思っています。

鈴木:パインバレーでは代表として事業に関わっていますが、何か変化を感じていますか。

矢嶋:いま一番感じている変化は、社員一人ひとりのモチベーションです。弊社は社員数が25人で、社員と事業がダイレクトに繋がっています。課題に対して、社員のいろいろなアイデアを引き出し、ディスカッションしながら仕事をすることで、毎日がとても充実しています。以前「経営者になると3倍大変だけど、10倍楽しいよ!」と鈴木さんがおっしゃっていた通りの実感があります。

鈴木:DXには、人が本当に大切だと思います。DXはデジタルを活用した変革ですから、まずはその変革を考えないと、デジタルを入れても意味がありません。ですので、まずは現場に注目し、そこで働く人たちと共にデジタルを活用していくことが重要ですね。

日本オムニチャネル協会会長 鈴木康弘氏

情報が集積される場日本オムニチャネル協会

鈴木:矢嶋さんは日本オムニチャネル協会の初期から携わっていますが、今後協会に期待することはありますか。

矢嶋:自社では持っていない様々な情報を得られる交流の場として、発展してほしいと思います。私はBEAMSという大きな事業会社から現在の仕事へと、全く異なる業界に移ってリソースも大きく変わりました。いま私が中小企業を経営する立場で感じるのは、以前よりも情報が少ないことです。もしかすると、この情報不足が、中小企業の成長を遅らせる一因ではないかとも感じています。日本オムニチャネル協会は、大企業から新進気鋭のベンチャー企業まで参加していますので、様々な人がつながることで多くの情報を得られる場として、さらに発展してほしいと期待しています。

鈴木:そうですね。実際に交流してみると、お互いに学びが多いですよね。日本オムニチャネル協会を通じて、さまざまな人がつながれば良いと思っています。本日はありがとうございました。

矢嶋:こちらこそ、ありがとうございました。


株式会社パインバレー
https://yokohama-pinevalley.com/

一般社団法人日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/

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