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コラム

DXの成否を決める「推進体制」、構築に必要な3つのポイント

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DXは経営者の覚悟ナシに成功しません。経営者一人で進めても成功しません。経営者の覚悟や意を汲み取り、DXプロジェクトを実際に進める「DX推進体制」を構築することが不可欠です。では、DXプロジェクトの推進役として機能するDX推進体制をどう構築すればよいのか。ここでは、体制を構築する際に必要な3つのポイントを紹介します。なお、本連載はプレジデント社「成功=ヒト×DX」の内容をもとに編集しております。

変革は経営者だけでは起こせない

 DXに何度も挑戦するもののなかなか進まない――。企業の担当者からこんな相談を受けることが増えました。しかし、よくよく話を聞くと、その原因は「推進体制」にあることがほとんどのようです。  経営者が不退転の決意でリスクを背負ってDXに取り組んだとしても、それは変革の第一歩を踏み出したに過ぎません。いくら経営者の強い覚悟があっても、一人では変革を起こせません。  ではどうすべきか。筆者が提唱する「成功=ヒト×DX」では、「DX推進体制」の構築こそ必要だと考えます。これは経営者と二人三脚かつ組織横断で動く専門チームで、外部を巻き込んでDXを主導する役割を担います。  筆者はこれまで、推進体制構築をおろそかにした結果、DXが迷走して暗礁に乗り上げるケースを数多く見てきました。DX推進体制の構築は、DXの成否を決定づけるといっても過言ではありません。慎重にDX推進体制を構築することが大切です。  では、DX推進体制を構築するときに気を付けるポイントは何でしょうか。筆者の体験をもとに3つのポイントを紹介します。

1.外部の知恵を借りる

 筆者は過去、デジタル推進体制の構築で頭を悩ませた経験があります。セブン&アイ・ホールディングス在籍中、オムニチャネル戦略のリーダーを務めたときのことです。
 当時のセブン&アイグループは、事業会社としてセブン-イレブン、イトーヨーカ堂、そごう・西武、ロフトなどを抱えていました。これらを1つにまとめてDXを推進するには当然、相応の困難が予想されました。  そこで筆者はまず、各社からプロジェクトに参加するメンバーを選定してもらい、ディスカッションを始めることにしました。しかし、話を進めようにもまったく進まず、早々に暗礁に乗り上げることになります。  当時(2013年)の小売業といえば「上意下達」の組織が当たり前で、変革を経験した人なんていません。変革を理解する人さえほとんどいませんでした。デジタルの知見も当然ほぼ皆無。これではディスカッションできるはずもなく、筆者が一方的に話をする状況が続いたのです。  埒が明かない状況を危惧し、筆者は外部の力を借りることにしました。取引先に協力してもらい、プロジェクトに新たな風を吹き込ませようと考えたのです。当時、取り引きのあったNECや野村総研、オラクル、さらには電通、ソフトバンク、Yahoo!、グーグルなどに声をかけ、参加してもらったのです。  これが奏功します。業務に強いグループのメンバーと、デジタルに強いIT企業のメンバーがいい意味でぶつかることでディスカッションが進み始めたのです。  プロジェクトは、オープンに外部の知恵を入れていくことが大切です。とても有効な方法だと言えます。

2.全社を巻き込む配慮を忘れない

 プロジェクトが活性化したら、その空気を周囲に広げることも大切です。いくらプロジェクトが活性化しても、周囲にとっては無関係にほかなりません。しかし推進体制を軌道に乗せるためには、こうした周囲の理解こそ不可欠です。  そこで筆者は、グループ社員に取り組みを周知してもらうため、プロジェクトの目指す未来を映像化しました。  まずは近未来の顧客増を明確にし、当時から7年後の2020年を想定し、さまざまな年代や職業のペルソナ(顧客像)を70近く洗い出しました。  例えば、20歳の一人暮らしをしている大学生は7年後、どんな生活をしているだろうか。子供が一人いる35歳の主婦は7年後、子供の手が離れたときにどんな生活をしているだろうか。こんなイメージを丁寧に具現化していきました。  映像では、3家族がデジタルを上手に活用している生活をドラマ仕立てで表現しました。年に一度開催するグループの方針説明会で公開し、数千人のマネージャー層に見てもらったのです。さらに各社にも映像を見てもらいました。すると若手や中堅社員から、「自分たちがこんな世界を実現すると思うとワクワクする」「プロジェクトに立候補したい」などのうれしい言葉をいただいたのです。  プロジェクトは進めることが何より大事です。ただし、プロジェクトをスピーディーに進められるようにするには、周囲の理解を深めることにも目を向けなければなりません。自分の関わるプロジェクトの「伝え方」も念頭に置くべきです。
next〈 2 / 2 〉:抵抗勢力との向き合い方

3.抵抗勢力と対峙する

 DX推進体制を構築するには、周囲の抵抗勢力と向き合うことも大切です。  筆者も実際、プロジェクトが進み、周囲の理解も得られるようになった矢先、変革に反対する人が壁となって立ち塞がりました。  筆者はもともと、グループで育った人ではありません。外部から来た人、いわば「外様」です。そんな人がプロジェクトを推進するのを面白がらない人たちが「抵抗勢力」として立ち塞がったのです。こうした人の多くが筆者より年上で、役職も上の人たちばかりでした。  もし自分より若く、会社への在籍期間も短い人が新しいことを主導すると、前から会社にいる人はどう思うでしょうか。「自分たちの培ったものを壊す」。そう思ってしまうかもしれません。  実際、筆者もこうした抵抗勢力には参りました。面と向かって意見を言われるわけではなく、表には出ない老練な手口で足を引っ張ってきたのです。「素晴らしい」と褒め称えながらも動こうとしないのは日常茶飯事。「鈴木は銀座で飲み歩いている。リーダー不適格だ」という怪文書も流されました(ちなみに筆者はお酒を飲まないので、飲み歩くことは不可能ですが)。  そこで当時の社長に相談し、懇切丁寧に対応いただきました。話をするうちに頭が整理され、悩みが次第に消えていったのです。  このとき感じたのは、コミュニケーションの大切さです。そこで私は、「毎週金曜日の朝8時から1時間、プロジェクトの進捗を報告させてください。そのとき、各事業会社の社長も同席いただけないでしょうか」と社長にお願いしました。すると社長は笑顔で快諾してくれたのです。  それから1年半、毎週欠かさずにプロジェクトの進捗を報告しました。その結果、抵抗勢力は次第におとなしくなっていったのです。  変革には抵抗はつきものです。ときにはポジションパワーを駆使し、抑えることも必要だと知りました。抵抗勢力に悩むときはポジションの高い人に協力を仰ぎ、その人の同意のもとで進めることも大切です。

苦労が大きいからこそ、成功したときの喜びが大きい

 DX推進体制を構築するためには、さまざまな取り組みや配慮が欠かせません。中には「苦労ばかりでリーダーはやりたくない」と思う人もいるでしょう。確かにDX推進体制を構築してプロジェクトを進めるのは、人並み以上に苦労するかもしれません。  しかし、苦労を乗り越え成功に向かい出したときには、通常の仕事では得られない達成感ややりがいを感じられます。  筆者は現在、多くのデジタル推進体制の構築やプロジェクトの推進を支援していますが、どのプロジェクトも一筋縄ではいきません。苦労も当然のようにあります。  半面、プロジェクトが成功したときには、メンバーと喜びを分かち合うことができます。リーダーはもちろん、メンバーもとても良い表情をしています。筆者はその顔を見たい一心で、今もDXの支援を続けているのかもしれません。苦労の先にある「喜び」を求め、ぜひDXに取り組んでいただければ幸いです。
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本連載は、プレジデント社刊行の「成功=ヒト×DX」の内容をもとに、筆者が一部編集したものです。
プレジデント社「成功=ヒト×DX」
筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任。

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