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コラム

「顧客起点」に潜む女性顧客のトラップ、男女の購買行動は分けて戦略を立てるが鍵~女性インサイトマーケティング(WIM)理論™~

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近年、「顧客起点」という言葉が多くのビジネスシーンで使われるようになりました。 自社都合ではなく、顧客の立場をもとに事業を考えることの重要性が増しているのです。しかし、「顧客とは誰なのか」「なぜその顧客は商品を購入するのか」を正確に理解している企業は意外と少ないのが現状です。 特に女性顧客の購買行動は、年代や収入だけでは見えない複雑さがあります。本コラムでは、長年の研究をもとに女性顧客の特性を読み解きます。マーケティング理論で見落とされがちな「女性顧客の購買行動」の特徴や、顧客起点で事業を考える際のポイントを紹介します。弊社では、女性特有の購買行動から戦略を立てる独自理論を確立し、「女性インサイトマーケティング(WIM)理論™」として普及しています。【男性脳では見えない「彼女の購買決定プロセス」~売上8割を逃さないための女性インサイトマーケティング~#1】

単身男女の所得に対する消費の割合 ―男性53%、女性70.4%の中身は何?

明治安田総合研究所の2024年の調査によると、単身世帯における所得に対する消費の割合(消費性向)は、男性が53.0%だったのに対し、女性は70.4%と男女間で大きな差があることが分かりました(※1)。女性の割合が男性より高いのは、「自己投資としての美容医療」や「推し活」といった教養・娯楽関連への支出増加が要因であると、明治安田総合研究所は分析しています。

このように男女では消費に対する興味や関心、さらに消費行動は大きく異なります。ある調査によると、女性の方が男性より消費パワーが高く、家庭内消費の75%は女性が権限を持つ消費者であるといいます。しかし、「男女で購買行動が異なる」という考えは、誰もが分かっているようで曖昧です。そのためマーケティング分野では、深刻に捉えられないまま見過ごされてきました。男女の購買行動が異なることをマーケティングでは必ずしも重視していないのです。近年、男女論を語ることをタブー視する機運が高まっていることもあり、マーケティングにおける「顧客起点」はより一層複雑さを増している感があります。

※1 出典:明治安田総合研究所「調査レポート」

「顧客起点」の顧客とは誰かを理解する。 ―「顧客」という一枚岩はいない。

そもそも「顧客起点」とは何でしょうか。それは「顧客の立場に立って事業を構築すること」です。そのためにはまず、「顧客とは誰なのか」という当たり前の問いに対して、正確に答えられなければなりません。その上で「顧客」が明確になったら、「なぜその顧客は我々の商品を買ってくれるのか」という問いと向き合うべきです。

例えば「30代・40代の男女が中心」というデータを把握している場合、その中の男女比率はどうなっているでしょうか。仮に女性が6割を占めているなら、その女性たちはどのような生活をしているのでしょうか。単身か、既婚か、子供がいるのか、ペットと暮らしているのか、親と同居か。商品を購入する背景には、必ず「顧客の生活状態」が存在し、そこから「買う理由」が生まれます。

「顧客を理解する」とは、「顧客の生活実態を知る」ことに他なりません。それにもかかわらず、「こんな生活なのかなとペルソナを想像で作り、ターゲットを設定しました」というケースが少なくありません。しかし、想像はあくまで作成者の経験値からしか生まれません。AIを活用しても、そこに「生身の命ある存在」はいません。

「顧客起点」を実践するためには、データのみに頼らず、「顧客の生活実態を観察し、触れ、話し、共に過ごす」ことを抜きにしては、核心に辿り着けません。ましてや女性の場合、その多様性ゆえにさらに細分化して捉える必要があります。

男女の購買行動には異なる理由がある。 ―女性は「年代」でみると見えない。

「お客様のニーズに応えるのだから顧客を分けて考えるべきではない」といわれることがあります。この思考こそ「顧客=男性論理」となっています。例えば、「顧客を年代で見る」「年収で見る」という場面をよく見ます。これだけでNGです。現代は、男女は共に働き、育休率も上がり、仕事と家庭というバランスにおいては、男女分け隔てないライフスタイルが当たり前となってきました。しかし、女性の人生を考えてみると、同じ30代であっても単身と既婚では大きく生活は異なります。これは男性の比ではない差があります。

女性は、30歳~39歳の間に7割が既婚へとなっていきます。この短期間に、妊活中、妊娠中、授乳中など心身の変化を伴っていくライフコースを歩む人が半数以上となっていきます。時間の使い方、体のケア、次のライフステージのための準備。妊活妊娠であれば、禁酒、禁ハード運動など様々な生活変化が求められます。30歳~39歳とひと言でいっても複数のライフイベント経験グループに分かれていきます。「年代だけ」で女性をみると大きな判断ミスをします。高度成長期に使用されたF1層、F2層といった分類方法などは代表的です。当時は、女性のほとんどが「専業主婦」という状態を前提にしています。近年には当てはまりません。

戦略型/男性51%・女性15% 平穏型/男性27%・女性64%

筆者が代表を務めるHERSTORYでは、利用者の購買行動の特性を診断する「男女購買行動診断」をWebサイトに設置し、回答結果から消費者の行動を分析しています。性別や年代(10代~70代以上)、職業などのデータは、2025年夏時点で17年間7万人超に及びます。この膨大な診断結果から見えてきたのは、男女共に働く時代となった今日でも男女の根本的な購買行動は今も昔も変わらない、ということです。購買に至る要因や背景を分析すると、購買行動は、大きく3つに分類されます。

「戦略型」
モノそのものの価値を比較検討し、論理的、合理的、効率的に買う行動をとる人

「調和型」
モノを論理的かつ感覚的なバランスで買う人。またはその状況下によってどちらかで判断する人

「平穏型」
モノの購入に至るまでの時間、過ごす場所、楽しめる要素も含めて価値とする人

分析結果からそれぞれの男女別比率は、以下となります(図1)。
戦略型/男性51.0%・女性15.3%
調和型/男性22.1%・女性21,2%
平穏型/男性26.9%・女性63.5%

図1:男女別の購買行動特性の比率(出典:HERSTORY「HERSTORY REVIEW」)

これらの結果から、男性は「モノの価値」を優先していることが分かります。これに対し女性は、「キモチの価値」を購買時の評価軸にしていることが分かります。女性はモノを得ることの時間や場所、そこで過ごす人や雰囲気など、周辺の要素も含めて価値と捉えているのです。言い換えると、「キモチ価値」を考慮した店舗づくりや接客、商品ラインナップに目を向けなければ、女性には買ってもえらない、ということです。

17年間の男女購買行動の変遷 ―女性は、社会変化に影響を受けやすい

2008年からの「男女購買行動診断」の結果(図2)の変遷では、男性では大きな変化が見られず、年代による比率の揺れも少ないのが分かります。一方、女性は社会環境の影響を受けやすく、自然災害や物価高騰など社会情勢に合わせて柔軟に購買行動を変えています。
男女共に大きな変化が現れているのは2021年です。2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響により生活様式が大きく変化したことが要因と考えられます。さらに、近年は若年層を中心に男性の育児・家事参加が増えているため、「調和型」が微増したと推察されます。

 図2:2008年~2025年における男女購買行動診断結果の構成比率(出典:HERSTORY「HERSTORY REVIEW2025年7月号」)

本コラムでは今後、HERSTORYが研究している「男女購買行動」をもとに、「女性の顧客起点の掴み方」や「商品との関係性の見方」などもお伝えしていきます。以下に、本コラムで紹介した「男女購買行動診断」と発表会のアーカイブ動画のURLを掲載します。ぜひ参考にしてください。

男女購買行動診断
https://www.herstory.co.jp/shindan/buying-behaviour

男女購買行動の違い研究発表動画アーカイブ動画
https://www.herstory.co.jp/event-details/archive-20250807

筆者プロフィール

日野佳恵子
女性インサイト総研 株式会社ハー・ストーリィ 代表取締役社長
一般社団法人女性のあしたアカデミー 代表理事

島根出身。1990年創業。女性の購買行動とライフコースの関連がマーケティングに影響を及ぼすことに着眼し、女性インサイト理論を独自開発。学習院大学、成城大学、大阪公立大学の専門教授らと「男女の消費行動研究」を発表している。クライアントは生活消費財を中心にメーカーから小売まで幅広く、「女性顧客起点の専門家」として多数の企業のアドバイザーを行う。一般社団法人女性のあしたアカデミー 代表理事

<代表的な受賞ほか>
経済紙Forbes Japan「日本の社長100人」、日経WEBCOMPANYが選ぶ「21世紀 時代のキーパーソン51人」、日経ウーマン・ウーマン・オブ・ザ・イヤー2003リーダー部門第9位、2013世界女性リーダースティビーアワード銀賞、日本の残したい企業100社、2021Forbes Woman Award300人未満全国第2位など個人、企業活動と両面で広く評価されている。

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