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コラム

企業のウェルビーイング攻略のカギは、遠慮なく言い合える集団づくりから

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 「ウェウビーイング(well-being)」という言葉が注目されています。一般的には幸せや幸福を意味し、“個々が肉体的にも精神的にも社会的にも良好で満たされた状態である”などと定義されます。社会全体で向き合うべきテーマと受け止められがちですが、一方で企業にとっては従業員の多様な働き方を許容したり、主体的なキャリア形成を支援したりするなどの施策を検討する、喫緊の課題と受け止められています。
 なぜ「ウェルビーイング」がこれほど注目されるのでしょうか。背景には人口減少や高齢化、さらには社会の在り方を変え得る技術革新があります。日本は今後、人口減少によって労働力不足がますます深刻化します。高齢者の割合も年々上昇します。企業はそんな中でも働き手を確保し、事業を成長させなければなりません。そのためには、さまざまな人材を受け入れるのはもとより、ITやデジタルを駆使した生産性向上に取り組むことが欠かせません。一方で従業員が働きやすい職場づくりや、満足感や達成感を得られる事業創出の必要性もより増すでしょう。これらの施策を紐解くと、その目的はウェルビーイングの定義と合致するのです。
 こうした従業員の仕事への意欲やエンゲージメントを高める考え方を「ウェルビーイング経営」と呼びます。すでに多くの企業がウェルビーイング経営の名のもと、社員教育や職場づくりに取り組みつつあります。「幸せ」や「幸福」、「健康」などといった言葉を経営理念に盛り込み、ウェルビーイングを前面に打ち出した経営に舵を切る企業も少なくありません。
 とはいえ、従業員が納得する働き方や仕事への意欲の高め方をどう実現すればよいのでしょうか。最近はダイバーシティの考え方が大企業を中心に定着し、年齢や性別、国籍、人種を問わず、さまざまな属性の人を受け入れる素地が整いつつあります。こうした多様性は、従業員の“満たされ度合い”にも当てはまります。つまり、従業員ごとに「幸せ」の尺度は異なるのです。何を持って幸せと感じるのか、どんな仕事ならエンゲージメントが高まるのか、どんな働き方なら満足するのか。さまざまな考えを持った人が働く今、その尺度も画一的なものではなくなっています。少し前なら、お金をどれだけ持っているかが幸せを測る指標になっていたかもしれません。しかし今は違います。いくらお金を持っていても幸せとは必ずしも言い切れません。それだけ企業にとって「ウェルビーイング」は、画一的な施策に取り組むだけでは達成し得ない難題とも言えるのです。
 では人は一般的に、どんなときが“満たされた状態”なのでしょうか。それを分かりやすく示しているのが、心理学の理論として使われる「マズローの法則」です。人には5つの欲求があり、満たしたい欲求が段階的に変わっていくという考え方です。消費者の心理を探る手段として、マーケティング手法の1つとしても使われています。
図1:マズローの法則とウェルビーイングの関係

図1:マズローの法則とウェルビーイングの関係

 現代において、「生理的欲求」や「安全欲求」はすでに満たされていると感じます。これらの先の欲求である「社会的欲求」「尊厳欲求」「自己実現欲求」。社会が豊かになった今、この3つを満たすことが従業員の「幸せ」を測る、これからの尺度となるのではないでしょうか。例えば「社会的欲求」なら、企業などの組織に属し、精神的に満たされた状態を指します。「尊厳欲求」なら、周囲の同僚から認められたい、受け入れられたいという感情が満たされた状態を指します。「自己実現欲求」なら、ほか4つの欲求を満たしつつ、さらに高みを目指したい、より高度な仕事に関わりたいという感情が満たされた状態を指します。
 これら3つの欲求は、周囲の環境がいいからといって必ずしも満たされるわけではありません。つまり、企業が職場環境を改善したり福利厚生を充実したりしても、当人の満足度を得られるとは一概には言えないのです。もちろん環境改善などの取り組みは重要です。しかし大切なのは、従業員の「内面」を満たせるかどうかです。そのためには、設備や環境を整えるだけではなく、従業員が周囲の人とともに仕事に前向きに打ち込めるか。こうした風土の醸成に目を向けることが大切です。ポイントは、上司であり部下であり同僚、つまり「人」です。周囲の人と遠慮なく言い合えるか、上司から言われて取り組むのではなく主体的かつ積極的に仕事に取り組めるか。そんな集団で働ける社風こそ、多様な従業員の「幸せ」を底上げする施策につながるのかもしれません。 (良好な関係の集団づくりのポイントは後編(次週)に続きます)
筆者プロフィール

筆者プロフィール

鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任
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