本連載では前回、「リーダー」の素養がすべての従業員に求められるようになったことを提起しました。企業を取り巻く環境変化が要因の1つですが、加えて各自の役割が変わろうとしていることも背景にあります。各自の役割がどう変わったのか、役割の変化がリーダーの素養とどう結びつくのか。今回はその理由に迫ります。【週刊SUZUKI #92】
「リーダー」として求められる実行力や統率力、意思決定力、課題解決力などは、職種や年齢に関係なく、すべての人が備える素養になりつつあります。そこには従来の組織が機能せず、スタッフ一人ひとりの役割が変わろうとしていることが背景にあります。
私たちが所属する組織といえば、これまではリーダーを頂点にとしたピラミッド型の階層組織が一般的でした。リーダーを含む一部のトップが何をすべきかを意思決定し、配下のメンバーは言われたことを実行するという役割に徹していました。配下のメンバーは当然、意思決定する必要はないし、何かを創造する能力も求められません。リーダーに求められる素養は一切必要ありませんでした。
しかし現在、こうした組織が機能しなくなりつつあります。各現場が専門性を活かし、価値を主体的に創出することが求められているのです。リーダーを含むトップからの指示を受けて行動するようでは遅すぎます。予測困難なVUCA時代の変化に追随できません。もちろん高い専門性を持った価値も創出できません。専門的なメンバーが自身の強みを活かすことで、トップ層が描けない価値を生み出す必要に迫られているのです。こうした現場主導で価値を生み出す組織が、成果を上げるようになっています。ただ与えられた役割を果たすのではなく、自分で考え、判断し、行動する姿勢が強い組織の条件となっているのです。
このように、各自がリーダーシップを発揮し、主体性を持って判断、行動できる体制、もしくは現場のメンバーが備えるべき素養を「シェアード・リーダーシップ」と呼びます。VUCA時代では、各自が強みを活かして行動できるシェアード・リーダーシップの組織体が求められるようになっているのです。
シェアード・リーダーシップは、3つの効果が期待できます。
1つ目は、業績の向上を期待できます。個人がそれぞれのリーダーシップを発揮し、自立して行動することで、仕事に対する満足度を高められるほか、意思決定速度も早められます。さらに、足りない部分を支え合うリーダーシップを発揮すれば、パフォーマンスの最大化によって業績効率の向上も見込めます。
2つ目は、アイディアの創出を期待できます。従来の組織体制では役割分担するのが前提で、専門分野の知識・技術を持つ社員は、自分の専門分野以外の事柄に意見を出しにくい状況でした。しかしシェアード・リーダーシップでは、チームや組織、さらには社会全体の視点まで幅広くカバーすることを求められます。そのため、各自がイノベーションにつながる柔軟で独創的なアイディアを生み出す役割が必要となるのです。
3つ目は、信頼関係の構築を期待できます。シェアード・リーダーシップは組織の目標を重視するため、メンバー同士が共通の目標に向けて互いに尊重する環境を醸成します。結果的に、メンバー同士の強固な信頼関係の構築を見込むことができます。
では、すべての人が新たなリーダーになるためにはどんな姿勢が必要か。どんな心構えを持つべきか…。
「週刊SUZUKI」ではその答えを次回から1つずつ解説していきます。新シリーズ「リーダーの心得」として、リーダーの素養を育むために必要な姿勢を30個にまとめ、解説します。不透明感が増すこれからの時代を生き抜く極意として紹介します。
リーダーとは、特定の人に与えられたポジションではありません。職種や役職、年齢を問わず、すべての人に与えられるポジションであることを自覚すべきです。その自覚が揺るぎない覚悟に変わったとき、あなたはリーダーとして飛躍するのです。
筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。他に、日本オムニチャネル協会 会長、SBIホールディングス社外役員、東京都市大学特任教授を兼任。